店内をきびきびと動きながら秋山さんは言う。「ここは料理人の舞台」と――。それゆえ最高の美味しさを目指し、その所作も美しくあるべきとも。さらにレベルアップのためには革新への挑戦も恐れない。後押しするのはそばで見守るゲストたちの笑顔。すぐ近くの応援が励みにも、また戒めにもなる。
カウンター席が調理スペースを取り巻くように設計されている「六雁」の店内。ここでは総料理長の秋山能久さんを中心に、朝から夕方の開店直前まで入念な準備が続く。ダシをとったり、食材の下拵えをしたり、それぞれの立場で黙々と食材に向き合う。そしてオープンの時間。ゲストが入店してくると、スタッフの視線は食材だけでなくゲストにも注がれ、その動きはよりスピーディーになる――。
人々の声と笑顔が交差するオープンキッチンを秋山さんは“舞台”と呼ぶ。
「開店と同時に我々の動きはすべてお客様の前にさらされますから、その意味でここは舞台であり、我々は役者なんです。どんな役者かというと、美味しい料理を作り上げることは当たり前で、食材を切り、調理して盛り付ける、どの所作も美しくなくてはならない役者。美しくお見せすることもごちそうの一部で、カウンター形式の店ならではの醍醐味だと思います」。
舞台だけあって、もちろん“台本”もある。今回の「秋野菜のお浸し」でいえば、野菜の長さを3.5cmに切り揃えるというルールだ。人によって口の大きさは異なるものの、「これが一番美味しく心地よく咀嚼できる長さ」と秋山さん。長年の経験から割り出した数値なのだ。
しかし、時には半分にしないと食べにくい特殊なケースも。それを察知したらすぐにスタッフで情報共有して短めにカット。こんなふうに“アドリブ”で対応できるのも舞台ならではだ。
「日本料理にはさまざまな形式がありますが、どの形式であっても目指すのは同じく最高のおもてなし。しかし、その点ではお客様のもっとも近くにいて、反応がダイレクトに伝わるカウンター会席に強みがあるように思います」。
もちろんカウンターに立つ緊張感は相当なものだが、それだけに「果たしてこれでいいのか」という見直すべき課題にも気づきやすい。
「お客様の表情からもっと違うおいしさの表現があるのではないかと常に考え、時には伝統的な手法を変えることにも挑みます。例えば、お浸しは普通、食材をダシ汁につけておきますが、それで食材の風味が失われてしまうことも。そこでうちでは3年前から、ダシ汁につける野菜とつけない野菜を分けるようにしています」。
旬の味わいのひとつである鮎の塩焼きにしても、カウンターに生きた鮎を用意。ゲストにピチピチ跳ねる鮎の下処理から披露して、鮮度のよさをアピールすると同時に、命をいただくありがたさについても臨場感をもって伝えている。
こうしたなか、会話でゲストを和ませるのもスタッフの務め。国内外からの観光客のほか、銀座という土地がら粋を好むゲストが多いため会話もスマートに。銀座で野暮は禁物だ。
「気が抜けなくて大変ですねってよく言われますが、それが自分磨きのカギでもあるんですよ。見られているという緊張感からできるようになる仕事もある。料理の完成度も、立ち居振る舞いの美しさも高まっていくんです」。
そして、「六雁」という舞台は実にインターナショナル。海外出身者にも門戸を開いている。
「台湾や韓国など、海外からの熱心なスタッフに調理場を開放することで、本物の日本料理が世界へ広がっていくと信じています」。
彼らもまた、伝統を守りつつ革新をも恐れない秋山さんの美味なる世界を継承する大切な人材なのだ。さらに秋山さんは、これからの抱負のひとつに「閉鎖的に思われがちな日本料理界のイメージを変えていきたい」とも語った。
カウンター会席は、秋山さんにとって伝統をつなぐと同時に挑戦の場。そしてゲストには、日本料理の将来を見据えた秋山さんのオープンマインドに触れられる貴重な場でもある。
秋山能久
1974年、茨城県生まれ。「割烹すずき」で修業後、「月心居」にて精進料理の神髄を学ぶ。2005年、銀座「六雁」の総料理長に就任。2016年「世界料理学会 in ARITA」、2019年「世界料理学会東京 in 豊洲」では統括ディレクターを務め、国内外へ和食の可能性について発信した。2021年からはJR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」に毎週乗車してランチを提供中。
六雁
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル 6F・7F
TEL 03-5568-6266
17:30~23:00(20:00LO)
日、祝休
text: Kurumi Kamimura photo: Ryo Yonekura