Cali style ORYOURI YUZAN KEIICHIRO KUROBE


アメリカ生まれの日本人シェフが生み出す陽気でポップなカリフォルニアキュイジーヌ

銀座・交詢ビル内にある肉割烹「ゆうざん」が、この7月にリニューアル。NY生まれで、現在イレブン・マディソン・パークを率いるダニエル・フムのもとで働き、サンフランシスコのミシュラン三つ星「アトリエ・クレン」で知られる、ドミニク・クレンシェフのもとでエグゼクティブ・スーシェフを務めるなど、アメリカ西海岸で長く過ごした黒部慶一郎シェフが就任し、割烹スタイルで提供するイノベーティブなカリフォルニア料理の店に。

「色々な文化が混ざり合うアメリカだけに、カリフォルニア 料理を定義するのは難しい。でも、メキシコに近いことから、ラテンアメリカのエッセンスが加わっているのは確かかな」。これまでにアメリカで12年間働いてきたが、厨房には多くのメキシコ人が働いており、まかないなどを通して、その食に触れる機会は多かったという。また、NYで過ごした子ども時代、ホームパーティーなどで多くの国の人々の家に招かれ、多様な食と出会ったことから、日本人としての食のアイデンティティをバックボーンにしつつも、これまでの食の経験を反映させた新しいスタイルの店をオープンした。

黒部シェフは、アメリカではルレ・エ・シャトーにも認められたフロリダの「ロイヤルブルースホテル・チャンソン」のエグゼクティブシェフを務めたほか、2018年にはエグゼクティブシェフを務めたロサンゼルスの「Blackship」が、ロサンゼルス・タイムスで「エネルギーと大胆さを備え、日本とイタリアの伝統が融合した遊び心あるレストラン」と評され、レディー・ガガも度々訪れるなど、アメリカの今を知るシェフ。「日本に帰ってきたから、といって味は変えていない」ということで、アメリカ西海岸と、時差のない料理が楽しめる。

流れる音楽は、黒部シェフが「LAで休日にビーチに行ったり、友達とバーベキューをしながら聴くハッピーな雰囲気の曲」という視点で選んだジャズやファンク、ヒップホップなどの心を解き放つ選曲。

メニューの裏には、カリフォルニアムードたっぷりの招き猫ならぬ「招き犬」のイラストが描かれ、QRコードで店の公式インスタグラムに飛ぶ、こんな仕掛けも心憎い。

カリフォルニアと文化的なつながりも深い、メキシコの発酵パイナップル飲料、テパーチェ(Tepache)をイメージしたカクテルでスタート。通常はシナモンなどのスパイスを入れるところを、食欲を増す生姜と青唐辛子で辛みのアクセントをつけて。

日本とイタリアの文化の融合点を探るアプローチが感じられるのは、TKG アランチーニ。つまりは、TKG、卵かけご飯とアランチーニとの融合。イタリアで使われるパルミジャーノなどのチーズの代わりに、椎茸、鰹節、手羽先でとった出汁で炊いたコシヒカリの中央に、卵黄を仕込んであり、揚げたてを目の前で割ると、とろりと卵黄がとろける仕組み。

そこに生うにと出汁醤油をかけて、まさに旨味の塊のようなアランチーニが完成。「ダニエル・フムシェフには、人はまず視覚で食べる、ということを教わった」という、黒部シェフならではのシズル感あふれる仕上がり。

ヘルシー志向なカリフォルニアの文化、ハンバーガーのバンズの代わりにレタスを使ったレタスバーガーなども人気。そんなムードを反映させて、トルティーヤの代わりにレタスを使ったタコス。肉の代わりにマグロを使い、香り付にフェンネルやコリアンダーを使ったボロネーゼなど、カリフォルニア の食の嗜好が感じられて興味深い。ちなみに、レディー・ガガのお気に入りは、味噌漬けのサーモンを焼いたものにフェンネルのサラダを添えたものだったとか。

割烹スタイルだけに、〆は土鍋ご飯。この日出てきたアロスコンポーヨは南米で広く食べられている鶏肉をスパイスと共に炊き込んだ米料理。黒部シェフにとって、NYに住んでいた子ども時代、南米出身の友人の家に招かれて食べた思い出の味。その懐かしい味をベースとしつつ、オリジナルとして、赤味噌とローズマリーで下味をつけ、さらに北アフリカでよく使われる、ベルベルスパイスをまぶして炭で焼き上げた鶏肉を加えて、香りと味のボリュームを増し、エキゾティックな味わいに仕上げている。

この他にも真鯛のブールブランソースにレモンバームで軽やかな香りを添え、下に様々な種類の豆を敷いた「Sea Bream」や、セビーチェを思わせる「Dry Aged Kanpachi」など、全体を通して野菜や豆類もよく使われ、酸味やスパイス使い、様々な旨味の重ね方で味のボリュームと満足感をあげつつも、食後感が重くなく、バランスの取れたヘルシーな料理という印象。

英語も流暢な黒部シェフは、日英どちらでの接客も可能。様々なカクテルも用意しており、カリフォルニアの今を感じる、和のエッセンスを折り込んだインターナショナルな食事と相まって、寛ぎ感あふれる、楽しい時間が過ごせそうだ。

カリスタイルオリョウリユウザン ケイイチロウクロベ(Cali style ORYOURI YUZAN KEIICHIRO KUROBE)
住所 東京都中央区銀座6丁目8−7 交詢ビル 4F
電話 03-3289-2050

取材・文・撮影= 仲山今日子  

仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。


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