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福井が誇る日本酒ブランド「黒龍」が3万坪の酒蔵観光施設を開業

福井が誇る日本酒ブランド「黒龍」が3万坪の酒蔵観光施設を開業

福井を代表する日本酒「黒龍」「九頭竜」を醸造する黒龍酒造(福井県永平寺町)。同社を擁する石田屋二左衛門株式会社(同)が6月17日(金)、レストランや酒の展示販売、瓶内で二次発酵させるスパークリング日本酒の貯蔵施設を含む新たな酒蔵観光施設「ESHIKOTO(えしこと)」を開業します。開業に先立ち、現地を視察。その概要と魅力をお伝えします。

眼前には、滔々と流れる大河・九頭竜川。その向こうには、真っ青な空と山並みが広がっています。福井駅から車で約30分、黒龍酒造のお膝元である永平寺町下浄法寺地区に6月17日に開業する「ESHOKOTO(えしこと)」は、そんな伸びやかな風景の中に佇んでいました。

酒楽棟テラスからの眺めはご覧の通り。九頭竜川が眼前を流れる。
酒楽棟テラスからの眺めはご覧の通り。九頭竜川が眼前を流れる。

福井と岐阜の県境を源として日本海へ注ぐこの大河の旧名は、黒龍川。古来、暴れ川として治世者を悩ませつつも、多くの恵みを一帯にもたらしてきました。その筆頭が、白山山系の雪解け水を集めた豊富な湧水。創業文化元年(1804)の黒龍酒造もまた、この水を仕込み水として銘酒を醸してきた酒蔵です。かつて町内に17あったという酒蔵が次々と廃業してゆくなか、同蔵は果敢に新たな酒造りに挑んできました。昭和50年(1975)には全国に先駆けて大吟醸酒を世に送り出し、後の吟醸酒ブームを牽引。そしてそれから約半世紀を経た現在挑んでいるのが、瓶内での二次発酵を経て作られる全く新しいスパークリング日本酒〝awa酒〟です。今回、3万坪もの敷地に誕生した「ESHIKOTO」は、この新しい日本酒の貯蔵庫でもあるといいます。

教会を思わせる臥龍棟内部の大空間。
教会を思わせる臥龍棟内部の大空間。
臥龍棟の一角には青く美しい笏谷石で作られた貯蔵庫が。
臥龍棟の一角には青く美しい笏谷石で作られた貯蔵庫が。

現在、敷地内の一角(約1万坪)に完成しているのは、イギリスの建築家サイモン・コンドル氏が設計した「臥龍棟」と、隣接する「酒楽棟」(古谷デザイン建築設定事務所)の2棟。臥龍棟の内部には約8千本のawa酒を貯蔵するセラーがあり、酒楽棟との間には5万本を保管できる地下セラーも完備しています。

「30年前にワインが好きだった先代と一緒にブルゴーニュを訪ねた時、葡萄畑しかない田舎町に世界中からたくさんの人々が集まり、土地の食と文化、人との出会いを楽しんでいる様子に驚いたんです。そんな場所を永平寺にも作れないか・・・それが、ESHIKOTOプロジェクトの始まりでした。お酒を媒介としてさまざまな人々が出会い、交流する場所を作りたい。10年かけて、やっとここまできました」と、石田屋二左衛門株式会社代表取締役である8代目・水野直人氏。当時、自らもパリのレストランへ飛び込みで自社の日本酒を売りにいったというエピソードに、30年前から海外へ目を向けていた蔵元の姿勢を感じます。

同蔵が現在手掛けているawa酒も、世界中で楽しめる全く新しい日本酒造りを目指したものです。

ESHIKOTOプロジェクトにいて説明する水野直人代表取締役。
ESHIKOTOプロジェクトにいて説明する水野直人代表取締役。

そんなawa酒のセラーを内包する臥龍棟は、まるで教会を思わせる大空間。地下セラーと併せ、ここでゆっくりと瓶内二次発酵をさせて出荷するのが「ESHIKOTO AWA」。

「シャンパーニュと異なるのは、瓶詰めした酒に糖分を添加せず、日本酒ならではの並行複発酵をさせる点です。15ヶ月貯蔵し、澱引きした後も3ヶ月寝かせてから出荷します。現在セラーにあるのは2020年に作ったもので、将来的にはヴィンテージとして提供して行きたいですね」とは、黒龍酒造醸造部部長で杜氏の畑山浩氏。江戸中期には確立していた日本酒造りの歴史の中で、awa酒造りへの試みは日本酒という文化の転換点だと思いますと、力強く言葉を続けます。

酒楽棟のレストラン「acoya」。
酒楽棟のレストラン「acoya」。
食材はもちろん、酒粕、白板昆布、醤油粕など全て福井県産の調味料で作られたランチ。漆器などの什器も同様。
食材はもちろん、酒粕、白板昆布、醤油粕など全て福井県産の調味料で作られたランチ。漆器などの什器も同様。食材はもちろん、酒粕、白板昆布、醤油粕など全て福井県産の調味料で作られたランチ。漆器などの什器も同様。
うま味と軽快さを併せもつ「ESHIKOTO AWA 2019 Extra Dry」。
うま味と軽快さを併せもつ「ESHIKOTO AWA 2019 Extra Dry」。
福井県産の黄金梅を贅沢に使った「ESHIKOTO 黄金梅酒 CAKE」。
福井県産の黄金梅を贅沢に使った「ESHIKOTO 黄金梅酒 CAKE」。

そんな新しいスパークリング日本酒を味わえるのが、隣接する「酒楽棟」。階段を上がると右手には、正面に九頭竜川を望むテラスをもつレストラン「acoya(あこや)」、左手には特別限定酒を揃えテイスティングも可能な酒ショップ「石田屋」が並んでいます。レストランはアペロとパティスリーのエリアに分かれており、前者ではフレンチをベースに、福井伝統の味・へしこを始め、全て地元産の食材・調味料で作り上げた御膳スタイルのモーニングやランチが味わえます。後者では酒粕や梅酒を使ったスイーツが楽しめるという趣向です。

この日、ランチで頂いたのは、黒龍酒造の酒粕から種を起こした田舎風パンに、黒龍吟醸豚と五領玉ねぎのシェリービネガー煮込み。フランスの家庭料理・ガルピュールと見えたものは、なんとへしこのあらと糠で出汁を取り、打ち豆と野菜を炊いて煮込んだ福井風のガルピュール!滋味に溢れ、優しくもしっかりとしたそのうま味には、驚きました。併せて供されたawa酒は「ESHIKOTO AWA 2019 Extra Dry」。日本酒らしいふくよかな米の風味と柔らかく軽やかなスパークリングの味わいが溶け合った、すっきりとした食中酒です。

ESHOKOTO(えしこと)の「えし」とは「良い」を表す古語だと、水野社長。福井の美酒、美味はもちろん、福井で採れる美しい笏谷石や特産の越前和紙を多用した建物の設えなど、隅々にまで〝この場所だからこそ表現できる魅力〟が詰まっていました。多様な「えしこと」に出会える同施設には今後、蒸留所や醸造ラボ、さらにはオーベルジュのオープンも予定されています。完成予定は北陸新幹線が開通し、黒龍酒造が創業220年を迎える2024年。新しい酒ツーリズムが今、生まれようとしています。

■問い合わせ先
ESHIKOTO
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12号17
水曜休 
※20歳以上の方のみ利用可
https://eshikoto.com

text、photo:奥 紀栄 (料理王国編集部)

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