「エスキス」「銀座 奥田」オーナーに聞く時代に寄り添うレストランマネージメント


銀座とパリにレストランを展開
数字にとらわれ過ぎず「顧客を元気に」で成功

特別インタビュー
「エスキス」「銀座 奥田」オーナーに聞く
時代に寄りそうレストランマネジメント

老舗百貨店やブランドショップが並ぶ銀座の中心部で、ひときわ存在感を放つふたつの料理店、「エスキス」と「銀座 奥田」。ジャンルもたたずまいも異なるこの2店に、ある共通項があることをご存じだろうか。

今回、「料理王国」が特別にお話をうかがうことができた、メッドサポートシステムズ株式会社代表取締役の大徳真一さんこそが、そのふたつの店を結ぶキーマンだ。大徳さんはこの2店のオーナーであり、根幹となるコンセプトを握る人物。これまでメディアの取材に応じてこなかった大徳さんに、「エスキス」「銀座 奥田」の開業秘話や、今後の展開をうかがい、大徳さん流のレストランマネジメントに迫った。


全ての事業を貫く
コンセプトは〝健康〞

大徳さんは大学卒業後、医療機器や医療情報システムを提供する事業に関わり、自身で数社を起業、経営してきた。「医療の世界で大事なのは、病気の早期発見、早期治療。僕は医療検査機器に関するビジネスで、患者さんの健康維持をサポートしてきました。でも発症後の医療よりも、まず病気にならないことが最も大事です」と大徳さんは言う。「病気にならないために何が重要か。その答えは、食にあります」

食べるものによって、罹患する病気は全く違ってくる。例えば、うどんの消費量が高い香川県は糖尿病患者が多く、県を挙げて食生活の改善に取り組んだ。腎臓結石も食生活との関連が強い病気で、中国・四国地方に患者が多い。何を食べているかが、健康に直結するのだ。 

大徳さんはそもそも食べることが好きで、美食が趣味だった。仕事柄、国内外を駆け回り、食事はほとんど外食。「実は僕も、かつては20キロ近く太っていたんです。おいしいものを食べたい。だけど、これでは駄目だと痛感した。人を招いて会食できるレベルの店で、なおかつ、毎日通ったとしても健康で、元気でいられるレストランがあるべきだと感じていました」。大徳さんの頭には、健康と美食を両立させるレストランの構想ができあがっていた。

大徳流 マネジメント
通い続け、食べ続けても、健康でいられる料理を提供する

Shinichi Daitoku

メッドサポートシステムズ株式会社代表取締役。医療機器や情報システムを扱う事業を展開する一方、2011年から飲食業に着手。「エスキス」「銀座奥田」を筆頭に、パリにも出店。今年3月にデセール専門店「エスキスサンク」、5月に仏料理店「アンプレント」開店を控える。

きっかけは震災だった
「エスキス」「銀座 奥田」開業

大徳さんの構想が形になるきっかけとなったのは、東日本大震災だった。「銀座の灯が消える時、日本の灯も消えると昔から言われていましたが、震災後、銀座では店が次々に閉店していました」。大徳さんは、復興に向けて自分に何ができるか考え、活力を失っている銀座に、あえて新しい店を出すプロジェクトを進めた。「そんなとき偶然、出店を計画していたビルに、奥田さんも店を出そうとしているとわかったんです」。奥田透さんが店主を務める「小十」は、大徳さんの贔屓の店のひとつ。奥田さんと協同することで話がまとまり、大徳さんの飲食事業は、2011年8月、「銀座 奥田」オープンでスタートした。

そして翌年、もうひとつの転機が訪れる。ある日、大徳さんがゲストとして通っていたキュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロのリオネル・ベカ シェフから、自分の店を開きたいと相談された。まさにその直後、知人のビルオーナーから電話があり、フランス料理店をやりたいから、誰か紹介して欲しいと言う。「これはもう、運命。やるしかないと思いました」。こうして大徳さんの2店舗目の店「エスキス」が誕生した。

数字には必ず目を通す
でも、ガチガチに管理しない

「エスキス」と「銀座 奥田」は順調に顧客をつかみ、開業年に2店ともミシュランの二ツ星を獲得した。震災後の厳しい状況下でもゲストが集まったのはなぜだろう。「おいしく、しかも健康になれるという基本コンセプトは徹底して共有します。しかし、具体的にどう形にするのかはシェフに任せます。信頼関係ができているんです」
 

大徳さんは、数字についてもきちんと見る。けれど、口は出さない。原価率を低くして利益を上げることがいいとは限らないからだ。「サービスマンが客席で料理にトリュフを削りかける。その瞬間、このひとかけらがいくら……と計算していたら嫌でしょう。算数をやっていてもうまくいかない。そんな店に行っても元気になれないし、また行きたいとは思わない」

リスキーなようでいて、結果的に顧客の心をつかみ、リピーターを生む。シェフやスタッフのモチベーションも上がっていく。これこそ、経営者と美食家の目線を兼ね備えた、大徳さんならではのマネジメント術と言えるだろう。

パリに3店舗を出店
今後も前向きに攻めていく

銀座で手ごたえを感じていた頃、奥田さんから「パリに店を出したい」という話がでた。「スポンサーと組んで出店するという話だったのに、なかなか具体化しない。だったら僕とやりますか、と言ったんです」。

大徳さんと奥田さんは、かねてから和食を目指す若手料理人が少ないことを危惧していた。和食は、若い人にとって、ある意味で閉塞感のあるジャンルなのかもしれない。「修業の場で、若手が仕事を任される場面も少ないんです。海外に店舗を広げることで人も育つし、野球のMLBやサッカーの欧州リーグみたいに、世界で活躍できる場を創出し、夢を示せれば、和食を目指す人も増えると思うんです」

パリの「OKUDA」の店舗は、建築資材や大工まで日本から送りこんだ。しかも、最終的にこの方が安価に納まった。食材は極力現地のものを使い、日本料理の手法でフランスの素材を楽しめる。「OKUDA」開業の翌年には、隣に「SUSHI OKUDA」をオープン。その翌年には、現地の新鮮な魚の流通を研究、確保して、パリに鮮魚店「SHINICHI」を開いた。「銀座 奥田」や「小十」で修業した若手が調理場に立ち、人材育成の目標も達成。本物の和食を味わえる店としてパリで高い評価を得た今、どの店も黒字決算だという。

2011年の「銀座 奥田」開店以来、大徳さんは毎年新店を開業している。今年もその流れは止まらない。3月には「エスキス」のシェフ・パティシエ成田一世さんのデセール専門店「エスキス サンク」がオープン。5月には、リオネルシェフの料理をアラカルトで食べられる「アンプレント」を開業予定。さらに、ニューヨークへの進出も目論む。

なぜレストランに行くのか――。それは華やぎを求め、活力をもらいたいから。「それを実現するには、まず作っている側が元気で前向きでないと」。大徳さんは、進化する時代に寄りそい、攻めの経営で新しいレストラン文化を創造していく。

大徳さんのレストラン開業クロニクル

・東京都に生まれる
・医療関連、情報システム等数社を起業・経営。
2011  レストラン事業開始8月10日「銀座 奥田」開店
2012  6月12日「エスキス」開店
2013  9月26日パリに「OKUDA」開店
2014  9月12日パリに「SUSHI OKUDA」開店
2015  パリに、活魚専門店「SHINICHI」開店
パン ド エスキス for WAKO開始
2016  3月31日「エスキスサンク」開店
5月、銀座にフランス料理店「アンプレント」開店予定
NYに日本料理店開店を計画中

レストラン事業を始めるきっかけとなった場所

銀座 奥田
「銀座 小十」の主人、奥田透さん(写真中)と大徳さんがタッグを組んだ日本料理店。オープン以来ミシュランで星を獲得し続ける。極上の食材を使い、おいしさはもちろん、健康にも配慮した料理を提供。揚げ物は極力出さず、酒は純米系にこだわったものを揃える。

大徳流 マネジメント
原価率にとらわれて
算数だけをやっていてもうまくいかない

ESqUISSE エスキス
リオネル・ベカ シェフ(写真上)は大徳さんとともに2012年に「エスキス」を開業することになった。開業時から二ツ星を維持。油や糖分に頼らない組み立てで料理を仕上げている。シェフ・パティシエ、成田一世さんのパンやデセールもファンが多い。

「OKUDA」をはじめ3店舗を展開

OKUDA、SUSHI OKUDA、SHINICH
和食の料理人を目指す若い人材が少なくなっている現状を踏まえ、若手が活躍できる場を提供し、和食で世界を目指せるという夢を示したかったと語る大徳さん。パリに「OKUDA」(写真左上、左下)「SUSHI OKUDA」(右上)をオープンし、さらに素材にこだわるあまり、活魚専門「SHINICHI」(右下)まで開いてしまった。店の調度品や器などは日本の物だが、「皿の上は現地調達」を標榜しているため、フランスの素晴らしい食材を日本料理の手法で活かすひと皿が味わえる。

大徳流 マネジメント
野球にメジャーリーグ
サッカーに欧州リーグがあるように料理人が世界で活躍できる場を創出する

成田 一世さん

2016年3月31日OPEN

ESqUISSE CINq エスキス サンク
「エスキス」のシェフ・パティシエ、成田一世さんのデセール専門店。デセール目当てにわざわざ外国からエスキスを訪れるゲストがいるほど、成田さんのデセールは人気だ。大型商業施設東急プラザ銀座に出店。

大徳流 マネジメント
変化する時代に寄りそい、前向きに攻める
ゲストも料理人も元気になる店をつくる

料理人が前のめりに攻めている店で食事すると、明日からまたがんばろう、という気持ちになれますね、と語る大徳さん。

Pain d’ESqUISSE for WAKO
成田さんの作るパンにもファンが多く「エスキス」では「パン ド エスキス」として朝の限られた時間だけ店内でパンを販売してきた。好評につき2015年9月から和光アネックス ケーキ&チョコレートショップでも販売が始まった。

OKUDA
7, Rue de la Trémoille, Paris 75008
France
☎+33(0)1 40 70 19 19
● 12:00~13:30LO、18:30~21:30LO
● 月の昼・夜、火の昼休、8月中旬、元旦
●コース 昼€85~ 夜€198~
●23席
www.okuda.fr
※税・サービス料込

SUSHI OKUDA
18, Rue Boccador, Paris 75008
France
☎+33 (0)1 47 20 17 18
● 12:00~13:30LO、18:30~22:00LO
●月・火昼休、8月中旬、元旦
●コース 昼€95、夜€155
●カウンター8席
www.sushiokuda.com
※税・サービス料込

Poissonnerie Shinichi
35,Rue Duret Paris 75016 France
☎+33 1 44 17 93 58
●8:00~18:00
●日祝休

エスキス
ESqUISSE
東京都中央区銀座5-4-6
ロイヤルクリスタル銀座9F
☎03-5537-5580
● 12:00~13:00LO、 18:00~20:30LO
●ディナーのみ日休
●コ ース 昼11000円~、夜19000円~(税込、サービス料別)
●46席 
www.esquissetokyo.com

銀座 奥田
Ginza Okuda
東京都中央区銀座5-4-8
カリオカビルB1
☎03-5537-3338
● 12:00~13:00LO、 18:00~21:30LO
●日祝年末年始休
●コ ース 昼10800円~、夜18300円~(税込、サービス料別)
●22席
www.ginzaokuda.com

エスキス サンク
ESqUISSE CINq
東京都中央区銀座5-2-1
東急プラザ銀座4階
☎03-5537-7477
●11:00~21:00
※東急プラザ銀座の営業時間に準じる。

民輪めぐみ=インタビュー 料理王国=構成 富貴塚悠太=ポートレート撮影

本記事は雑誌料理王国261号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は261号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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