ソムリエ 金子優貴シェフが体験 スペイン CAVAの故郷を訪ねて 26年10月号


CAVAのエッセンスが生まれる場所へ
テロワールと微気候、伝統製法が育む卓越性

地中海沿岸のカタルーニャ州で生まれたカバは、伝統製法の瓶内二次発酵で造られるスパークリングワイン。産地や品種、熟成期間、ドサージュの違いにより、多彩な味わいをもつ上質なカバが生産されている。今春、ソムリエ資格をもつミシュラン星付きレストランの金子優貴シェフがその産地へ飛び、個性豊かなボデガを巡った。シェフが体感したCAVAの魅力をご紹介したい。

カバの生誕地であり主産地 サン・サドゥルニ・ダノイア

「朝晩は涼しいけれど、昼の日差しはとても強い。この寒暖差が果実をおいしく成熟させるのだと、畑を歩いて実感しました」と金子優貴さん。訪れたのは、5月。スペイン・カタルーニャ州バルセロナ近郊のカバのブドウ畑だ。D.O.(原産地呼称)CAVAは、地図に示した(詳細は下画像参照)4つの地域で生産されており、その95%以上がカタルーニャ州の「コムタッツ・デ・バルセロナ」に集中している。今回の旅では、この地域の中心地バイス・ノイア・フォッシュにある8つのボデガを訪問。19世紀に誕生したカバの発祥地、サン・サドゥルニ・ダノイアもここにある。

金子さんはソムリエの資格をもち、洗練された中国料理の少量多皿コースとペアリングを得意とする。昨年D.O.CAVAが主催した「カバ・ディスカバリー・ウィーク」に参加。2種類のカバを選び、それぞれにマリアージュさせた料理を提供したことが今回の訪問につながった。
「先のコラボレーションを通して、伝統製法で造られた高品質で多様性を備えたカバの可能性を知ることができました。とはいえ、まだまだ知らないことが多いので、生産者に直接お話をうかがい、たくさん試飲して理解を深められれば」

金子 優貴 かねこ ゆうき
1988年、福岡県生まれ。辻調理師専門学校(大阪)卒業後、大阪「聘珍楼」、マンダリンオリエンタル東京「SENSE」で修業。2020年、港区麻布台「Series」開業時より料理長に就任。8カ月でミシュラン一つ星を獲得、以来保持している。23年、ソラマチに「Series the sky」をオープン。24年から六本木「虎峰」を含む各店舗の総料理長を務める。25年には神楽坂に「茶龍 SALONG」をオープン。

自社畑を案内する「ミケル・ポンス」の醸造責任者で第3世代のペレ・ポンス・メルカデさん。
「ウ・メス・ウ」の第3世代でセール&マーケティング担当のマリア・ピニョルさん。

長期熟成タイプに注力の傾向

コムタッツ・デ・バルセロナは、年間日照時間が約2500時間で、雨量は比較的少ない。典型的な地中海性気候であるが、実際に各ボデガで見聞すると、畑は海辺に近い低地から標高700mの高地まで広がっており、それぞれ異なる微気候が形成されている。土壌も石灰質を基盤としながら、粘土質や砂質など表層の構成は多様。栽培品種の92%が在来品種であるマカベオ、チャレッロ、パレリャーダで、この他ロゼ用のトレパット、マルバシア、ガルナッチャ、モナストレルや認定されている国際品種など、土地に適したブドウが栽培されている。8月から9月末頃までにブドウを収穫し、圧搾。通常はステンレススチールタンクで一次発酵を行い、ブレンド後、ティラージュ(糖と酵母を加えて瓶詰め)し、瓶内で二次発酵させる。その後、気候条件や照度を一定に保った地下貯蔵庫で長期間熟成させる。

「スマロッカ」の畑の土。
「ジロ・リボ」の畑から見たモンセラート。この山がピレネーからの北風を防いでくれる。

「瓶内熟成期間の違いによるカテゴリーは4段階あり、生産量はカバ・デ・グアルダが最も多いものの、より長い熟成で深みある味わいのグアルダ・スペリオールカテゴリーの生産に力を入れているボデガが多い印象です。このカテゴリーは2025年生産分から100%オーガニックが義務づけられており、それはD.O.として初の試みだそうです」

熟成を終えた瓶は、ジャイロパレットというケージに置き、手作業または自動制御で少しずつ回転・傾斜させることで瓶の首に澱を集める。その後は首の部分を冷凍し澱を除去する方法が一般的だが、冷凍せず、栓抜きのような構造の機械で澱抜きしているボデガもあった。「少しのアロマも逃したくない、できる限り昔の製法でやりたいと話していたのが印象的でした」と金子さん。

「ピノルド」創業者の孫にあたるジョアン・テタス・ホセさん。瓶を横にねかせることで澱がワインと広く接触し(シュール・リー)、熟成の質が高まる。
「ミケル・ポンス」のジャイロパレット。澱を瓶口に集める装置。
この後、機械で澱抜きを行う。

熟成期間により異なるカテゴリー

カバ原産地呼称は品質の高さを保証するものであり、カバ原産地呼称統制委員会が定めたすべての条件を満たしたワインのみがこの呼称を使用できる。

カバ・デ・グアルダ・スペリオール・パラヘ・カリフィカード
熟成期間:36カ月以上

場所とテロワールが異なる小さな区画の特別な畑で自社栽培された手摘みのブドウ(1haあたりの最大生産量8000kgまで)を使用し、エクストラ・ブルット、ブルット、ブルット・ナトゥーレのみの製造。

カバ・デ・グアルダ
熟成期間:9カ月以上

4つのカテゴリーのなかで最も若いカバで、軽やかでフルーティー。爽やかな味わいと、きめ細やかな泡立ちが特徴。

カバ・デ・グアルダ・スペリオール・レセルバ
熟成期間:18カ月以上

澱との長期接触により、フルーティーな特徴を損なうことなくより深みと複雑さ、トーストを思わせるアロマが生まれる。

カバ・デ・グアルダ・スペリオール・グラン・レセルバ
熟成期間:30カ月以上

澱との長期接触と自己分解効果がブリオッシュを思わせる豊かなアロマを育む。非常にきめ細かくバランスの取れた泡をもつ。

カバならではの ブルット・ナトゥーレの魅力

澱抜きで目減りした分、リキュールを加える、いわゆる「ドサージュ」は、味を決定づける非常に重要な工程だ。カバの場合、ベースワインなどブドウ本来の糖分以外は加糖しないブルット・ナトゥーレ(残糖分0~3g/L)から、糖分の添加が許されるエクストラ・ブルット(0~6g)、ブルット(0~12g)を中心に、エクストラ・セコ(12〜17g)、セコ(17〜32g)、セミ・セコ(32〜50g)、甘口のドゥルセまで7段階ある。

スペインの気候風土により、豊かな果実味と十分な糖度を蓄えたブドウに恵まれ、加糖なし、または少量の加糖で勝負できるのがカバの強みだ。特に近年はブルット・ナトゥーレの生産が増えてきている。
「ただし、長期熟成タイプの場合、規定よりもさらに長く熟成させるボデガが多く、それに耐えうる酸度をもったブドウ選びが大切だと語る生産者がいました。酸度があるからこそ、濃厚な熟成香が加わっても、全体はキリッと引き締まり、エレガントで立体的な味わいを保ち続けられるというわけですね」

そのために、長期熟成に向くチャレッロなどの品種を用いたり、標高の高い畑や北向きの畑のブドウを使ったり、収穫時期を早めたりといった工夫がなされている。

「ウ・メス・ウ」の地下セラー。湿度60〜70%、室温17〜18℃。

和・中・エスニックのテイストに合わせて、新しい価値を提案

カバに関わるボデガは4地域合計で330軒あるため、今回訪問した8軒はごく一部に過ぎない。それでも、大企業から家族経営まで規模はさまざまで、ブドウの品種選びや栽培方法、醸造、味に対する哲学にそれぞれ個性があった。40本以上のカバを試飲した金子さんは、この旅を通して何を得たのか。そして日本の外食市場におけるカバの可能性についてどう考えるか、お聞きした。
「コストパフォーマンスのよいスパークリングワインという従来のイメージから、各ボデガのアイデンティティが凝縮された上質な製品であり、バラエティに富む無二の存在だと、見方が変わりました。なかでも、ブルット・ナトゥーレやプレミアムなカバは、料理に合わせてこそ本領発揮するというのが僕の感想です。スペイン料理が合うのはもちろん、照り焼きソースや北京ダックのような甘辛い味、花椒やカルダモン、アニスなどのスパイスとの相性もよく、繊細な日本料理にも合うでしょう。ハイエンドなアジア系料理の店で、レセルバやグラン・レセルバをペアリングに組み込むことで、料理とカバの新たな価値を提案できるのではないでしょうか」

「ジョゼップ・マリア・フェレット・グアシュ(jmfg)」の当主・ジョゼップさん。昔ながらの澱抜きを実演してくれた。
「ヴァルフォルモサ」。地域社会貢献のための財団を設立し、かつ
ての農園邸宅をその拠点としている。
カタルーニャ・モデルニスモの巨匠ジュゼップ・プッチ・イ・カダファルクが設計した「コドルニウ」の建物は博物館として公開。
「コドルニウ」の醸造責任者、ブルーノ・コロメールさん。「老舗であっても、若い精神性を失ってはならない」と語る。

訪問したボデガについては、次ページの一覧を参照いただきたい。

3,000記事以上 会員限定記事が読み放題 無料会員登録

SNSでフォローする