劇場のように楽しむ「オーギュスト」ロンドンのバー・レストランの最先端がここに。


2026年イギリスの外食トレンド「イタリアン・レストラン・ブーム」のその先をいくバー・レストラン「オーギュスト」。”クール”の全てを詰め込んで、クリエイティブ層にアピールするその手腕とは? 

2026年も後半となり、英国では外食産業の業界トレンド・レポートが発表された。それによると本年度の傾向として「高級ベーカリーの増加」「ハイブリッド型BBQの台頭」「堅調な地中海料理への人気」「ドライブスルーの進化」「カジュアル・ダイニングにおけるサービスの効率化」「フライドチキンの人気継続とバラエティ化」「全国的なフードホールの建設ラッシュ」「AIを活用したレストラン検索」などを含む、11のトレンドが挙げられている。

筆者も深く賛同するレポートだったが、中でも「イタリア・レストランのブーム」は、肌で強く感じている。昨年まではクラシックなフランス料理店のリバイバルに注目が集まっていたのだが、今年は確かにイタリアンが充実している。

10年ほど前からロンドンでは上質を謳う手打ちパスタがブームとなり、その中から生まれたいくつかのブランドが現在はチェーン化し、クオリティを維持したまま少しずつ店舗を増やしている。元々イギリス人にとって手頃で食べやすいピザやパスタは外食で最も人気のあるジャンルであり、物価高の今、その傾向が再興しているとも言える。

前回ご紹介した「オステリア・ビブラート」、今回ご紹介する「オーギュスト」も同じ流れにありながら、独立店としてユニークなキャラを発揮しており、イタリア料理がどれほど柔軟で不滅のジャンルであるかを教えてくれる好例でもある。

オーギュストの創業チームのお二人。左がシェフのマイク・バグナルさん、右がマネージャーのディラン・ウォルターズさん。©Restaurant PR

東ロンドンにこの春誕生した「Auguste(オーギュスト)」は、イタリア料理&バーを標榜しているが、そこに止まらない多面的な魅力がある。個人的にはロンドン全域の食トレンド、特にバーを併設したレストランとして現在を凝縮しているように感じる。

ロケーションはクリエイティブ産業に関わる住人が多いヒップなエリア。鉄道高架下の殺風景なスペースを、独特のセンスで飾りつけている。テーブル・セットは素っ気ない簡易なものだが、それらを覆う真っ白で思わせぶりな布クロスが、来たるショータイムを予感させている。

店に出入りする個性あふれる客たちがまず手を伸ばすのは、イタリア中部アブルッツォ州の伝統的な串焼き料理「アロスティチーニ」だ。これはオーストラリア出身のシェフ、マイク・バグナルさんがかつて滞在した同地の食文化からインスピレーションを得たもので、炭火カウンターで仔羊肉や英国産和牛、野生のイノシシの肉を丁寧に焼き上げ、割安感のある価格で提供される。手やテーブルクロスが汚れるのもお構いなしに、大胆にかぶりつくのがおすすめ。

旬を強く感じる地中海風の小皿料理も多数用意されている。今回いただいたのは、完璧な揚げ具合の花ズッキーニ・フリット、季節の平桃とストラッチャテッラを合わせた軽快なサラダ、イタリアのブランド・トマト「クオーレ・デル・ヴェスヴィオ」と蟹肉のパンツァネッラ、パンチの効いたンドゥイヤ風味のバタービーンズでいただくイカのグリル。イタリアンといえども、ここに自然派ワインを合わせると、パスタなんていらないと思えるほど完璧な現代的メニューだ。味のバランスが絶妙に良い。

カニみそソースでいただく旨みたっぷりのパンツァネッラ。チリの甘酢ピクルスがアクセントになり、全体を完璧にコーディネート。右は名物のカンパリ・ソーダ。レモン・オイルのフレグランスが決め手。
美しく仕上がった花ズッキーニのフリット。中はリコッタ・チーズ。
平桃とキュウリ、ストラッチャテッラの爽やかサラダ。

オーギュストを取り巻く楽しげな要素はまだまだある。まずレモン・オイルを垂らしたカンパリ・ソーダ「カンパリーノ」。スカッと飲みやすい濃さで5ポンドの破格値を実現し、ほとんどサービス飲料の領域。自家製リモンチェッロは食後の目玉だ。

ワイン・リストは小規模生産者による低介入ワインが中心で、モンテプルチアーノ、トレッビアーノ、ペコリーノといったイタリア品種(特にアブルッツォ州)のワインに力を入れている。これらのビバレッジを統括するのがアーティストとしても活動しているスカウト・オドノヒューさんで、個性的な彼女がフロアにいるだけでまるでレストラン自体がシアターのようにも感じるから不思議だ。

実は「シアターのように楽しめるレストランを」とオーナー自身も話しており、客も含め登場人物のように場を創り上げる趣向らしい。カジュアルな串焼き料理に、ファイン・ダイニングを象徴する布のテーブルクロスなんていうミスマッチな演出もその一環。

東ロンドン、現代イタリアン、ナチュラル・ワイン、独自カクテル、アート、ファッション、クリエーター。店の壁に米画家エドワード・ホッパーの作品が飾られていて、店名はそこに描かれた道化師(オーギュスト)に由来しているのだが、大切なエレメントは全てこの「道化師」のイメージに集約されている。

社会的なヒエラルキーからはずれ、「正解」を避け、同じ目線で、同じテーブルでふざけながら食事を楽しむ。そこはロンドンの今を映す、混沌のオステリアなのだ。

かなり濃厚でパンチのあったイカのグリル。クスクスと合わせたい・・・。
塩性湿地で育ったラムの串焼きは焼き鳥と同じくらいの大きさで6本10ポンドのお値打ち価格。肩肉を使っており、香ばしく柔らかく美味。
ヴァニラのセミフレッドはイチゴを美しく重ねて。ソースはイチゴのリダクションとオリーブオイル+レモンでシンプルに。奥に見えるマスカルポーネとコーヒー・キャラメルのタルトも絶品。

こうしたバー・レストランを自由気ままなクリエイティブ文化が定着した「東ロンドンらしい」と一括りにすることもできるのだが、もはやロンドン全体の飲食が東ロンドン化されようとしている今、オーギュストは、期せずしてその最先端にある。

Auguste
https://www.instagram.com/auguste__london/

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni


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