ナパ・ヴァレーの発展を牽引したロバート・モンダヴィ・ワイナリーが創業60周年。来日したカーティス・オガサワラのプレゼンテーションと、アニバーサリーのペアリングランチから、ワイン造りに息づく創業者の思想を紐解く。

2026年6月17日、東京「ミクニ マルノウチ」で、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの創業60周年を記念するメーカーズランチが開かれた。来日したのは、同ワイナリーの醸造チームを率いるカーティス・オガサワラ。5種のワインと料理のペアリングを通じて、創業者ロバート・モンダヴィが築いたワイン造りと食文化の系譜をたどる機会となった。
オガサワラが受け継いでいるのは、ナパらしい力強さだけを追求することではない。料理とともに味わったときに、ワインの表情がより豊かに開くこと。その発想の原点は、ロバート・モンダヴィが1962年、フランスのレストランで得た一つの体験にさかのぼる。

創業者ロバート・モンダヴィが自身の名を冠したワイナリーを設立したのは1966年。当時のカリフォルニアでは量産型のワインが主流で、モンダヴィ家も量産ワイナリーを経営していた。転機となったのは、その4年前に初めて訪れたフランスの体験。フランス・ヴィエンヌの三つ星レストラン「ラ・ピラミッド」で、料理とともに供されたワインの繊細さと複雑さに心を動かされ、「優雅さ、スタイル、調和、バランス」を備えたワインを造ろうと決意したという。
帰国後、モンダヴィが自身のワイナリーの拠点に選んだのが、オークヴィルのト・カロンだった。19世紀末から優れたブドウを生むことで知られた畑であること、またナパの中心に位置し、来訪者を迎えやすい立地にも着目したのである。ここで世界水準のワインを追求するとともに、ワインを料理や音楽、芸術と結びつけ、新たな食文化として発信した。ヨーロッパで体験したワインのある食卓の豊かさを、カリフォルニアに根付かせようとしたのである。
創業60周年を迎えた2026年、ワイナリーは3年に及ぶ改修を完了。象徴的なアーチと塔を残しながら、醸造施設とホスピタリティ空間を刷新した。新たなセラーでは区画ごとに細分化した醸造が可能になり、畑の違いを表現する精度がアップ。23年にはト・カロン・ヴィンヤードがオーガニック認証を取得。創業者が見抜いた畑の価値を守り、次世代へ引き継ぐことも、オガサワラ率いる現在のチームが担う重要な仕事だ。

アニバーサリーランチのペアリングは、ナパ・ヴァレーのワインと料理に精通する小枝絵麻さんが設計。各皿に酸味、塩味、甘味、苦味、旨味という五味の軸を置き、ワインと料理に共通する果実やハーブ、スパイス、発酵調味料を「ブリッジ食材」として組み込んだ。感覚に頼りがちなペアリングを、味わいと香りの接点から組み立てる方法である。

昆布締めした小値賀イサキと宮崎県産アップルマンゴーのマリネ、初夏野菜のサルピコン
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オークヴィル・エステート フュメ・ブラン 2021
ソーヴィニヨン・ブラン主体にセミヨンをブレンドして樽熟成。みずみずしい酸とクリーミーな厚みを備えるフュメ・ブラン。五味の軸は酸味で、柑橘の風味とワインの伸びやかな酸、アップルマンゴーを核果実の熟した香りとつなげた。夏野菜のシャキシャキとした食感はワインのみずみずしさに呼応し、セミヨンがもたらすまろやかな厚みと昆布の旨味も重なり合う。

低温調理した蝦夷鹿のタルタル 八丁味噌のコンディモン、カシスと黒胡椒のサブレ
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ナパ・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン 2022
熟した果実味とスパイスを備えた、しなやかなカベルネ・ソーヴィニヨンを、塩味をテーマにペアリング。八丁味噌の塩味と発酵由来の旨味が、脂肪の少ない鹿肉にワインと釣り合う。カシスは黒い果実香、黒胡椒はスパイスへのブリッジとなり、果実味とタンニンがよりなめらかに。

彩り野菜を包んだ小豆のクレープ プルーンのジャムとシェリービネガーソース
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オークヴィル・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン 2021
黒系果実やイチジクに紅茶やトーストのニュアンス、緻密な酸ときめ細かなタンニンを備えたオークヴィルのカベルネ・ソーヴィニヨン。ここでの五味の軸は甘味。小豆のクレープと彩り野菜に、プルーンの甘味で果実味がレイヤーとなり、シェリービネガーの酸で輪郭を引き締める。肉を用いずにフルボディの赤と調和させる、プラントフォワードな提案だ。

60周年記念 カベルネ・ソーヴィニヨン 2023
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仔羊のロティ フォンとニガナのピュレ、木の芽
オークヴィルのト・カロンと、スタッグス・リープ・ディストリクトのワッポ・ヒルの優良区画のブドウを使ったアニバーサリーキュヴェ。長い生育期にゆっくりと熟した果実の凝縮感とフレッシュさを併せもつ。五味の軸は苦味。木の芽の鮮烈な青い香りとニガナのほろ苦さが仔羊の脂を引き締め、ワインのみずみずしい果実味と輪郭を際立たせた。和のハーブの香りと苦味を、ワインの端正な味わいと調和させたところに、この組み合わせの妙がある。

黒毛和牛フィレ肉 朴葉包み焼き マルシャン・ド・ヴァンをジャポニゼに
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ザ・リザーヴ ト・カロン・ヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン 2019
カシスやブラックベリーに、ミント、ジュニパー、スモーキーな樽香。凝縮した果実を緻密な酸とタンニンが支えるト・カロンのリザーヴである。五味の軸は旨味。赤ワインをベースにしたマルシャン・ド・ヴァンと味噌がワインの厚みを受け止め、朴葉のアーシーな香りが、カベルネの土や乾燥ハーブを思わせるニュアンスと重なる。ト・カロンの複雑なフレーバーを堪能できる組み合わせだ。

軽い口当たりのティラミス、カカオとコーヒーのチュイル、ブラックベリーのヴァンルージュソース
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すべての赤ワイン
グラスに残ったワインでデザートを楽しむ趣向。カカオとコーヒーのロースト香はカベルネの樽香に、ブラックベリーは黒い果実味に響く。すべてのワインを香りと味わいをあらためて振り返る締めくくりでもある。

ロバート・モンダヴィにとってワインはボトルの中だけで完結するものではなく、料理とともに味わうことで、その魅力を深めるものだった。その思想を受け継ぎながら、いま醸造家が目指すのは、栽培と醸造の一つひとつの判断をさらに精密にし、畑やヴィンテージの違いをより鮮明に表すこと。新たなセラーと有機栽培を礎にト・カロンの区画ごとの個性を掘り下げ、料理との出合いによって、さらに多彩な表情を見せるワインへ。創業者が開いたワインと食文化の関係を、カーティス・オガサワラはより精緻なかたちへと進めようとしている。
取材・文/谷 宏美
