「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2020」開催中! 30歳の若きシェフが率いる「ab restaurant」から、レストランのエスプリが凝縮されたスペシャルコースが登場


フランス料理を思い存分楽しむ20日間
新進気鋭のシェフが紡ぐ「伝統と革新」の物語


日本最大級のフランス料理のグルメイベント「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」が開催中だ。フランス料理を気軽に楽しんでもらおうとフランス本国で2010年にスタートし、日本での開催は今年で10年目を迎える。開催期間は9月25日(金)〜10月14日(水)の 計20日間で、「トレ・ボン! 日本のテロワール」を共通テーマに、全国の参加レストランが和食材を取り入れたコース料理をお得な価格で提供する。
このイベントでは毎年注目の若手シェフ「フォーカス・シェフ」を選出していて、今年は全国から15名が選ばれた。今回は東京から「フォーカス・シェフ」に選ばれた大村隆亮シェフの「ab restaurant(アブ レストラン)」で、レストランのエスプリがぎゅっと凝縮されたスペシャルコース(5,000円)を堪能してきた。

東京四谷の閑静なオフィス街。まるでコンクリートの切れ間から伸びる一本の野草のように、ビルの狭間に「ab restaurant」はある。普段提供しているコースは3種類で6,000円〜、一日3組限定だ。料理の内容はその日の仕入れや客の好みに合わせて変わるので、毎回が一期一会である。

大村隆亮シェフは、フランス料理の名店「シェ・松尾」や、フランス本国でミシュラン二つ星に輝く「ティエリーマルクス」の銀座店などで修行を積み、昨年9月28日、弱冠30歳で「ab restaurant」を開いた。大村シェフを支えるのは、サービス・ソムリエとして華麗なプレゼンテーションに定評がある小山純司氏だ。小山氏はシェフの実兄の友人でもある。二人は「伝統と革新」「挑戦」をコンセプトに掲げて、飲食業界の労働環境改善や地位向上、SDGsなどに対しても自分たちにできる範囲で率先して行動を起こしている。

例えばメニューが記載されている紙はシードペーパ(写真左上)。一晩水に浸してからちぎって土に埋めるとハーブが芽吹くそうだ。またメニューの下に置かれているナプキンは、京都の「結」という企業がアール・ブリュット作家団体とコラボレーションしたもので、購入金額の一部が団体へ寄付される。ほかにも、長岡京市産の竹を使用したお箸は、同市の障害者が社会で働く前の訓練学校「バスハウス」の生徒が作ったもの。店で扱う道具のひとつひとつに、二人の思いが詰まっているのだ。

※写真は当日食べた料理。食材の仕入状況によって内容は異なる

今回いただいたのはレストランウィークのための5,000円コース(食材の仕入れ状況により内容は異なる)。ウェルカムドリンクの後に運ばれてきたスープ(写真左上)は、当日にシェフが青山のファーマーズマーケットで出合った、低温で一年寝かせたバターナッツが主役。熟成させたバターナッツは酸味が強いので、マンゴーで甘さを、サラミでうま味を加えた。昔ながらのフランス料理は動物性のうま味を足し算していくが、大村シェフは素材の良さが際立つように引き算も意識する。「バターナッツの酸味をあえて生かしたのと、今日は少し蒸し暑い日だったのでスープの濃度を軽くしてみました」(大村シェフ)。細やかな心遣いがうれしい。

次に登場したのは、花びらやハーブが散りばめられた、まるで日本庭園のような筒状の前菜(写真左下)。大村シェフがレストランウィークのために作り上げた「ラタトゥイユ」だ。ズッキーニとナスのスライスを並べ、中には子羊のミンチとパプリカ、玉ねぎを使ったハンバーグを入れた。その上にセミドライトマトを忍ばせ、香草パン粉でふたをして、オーブンで香ばしく焼き上げている。
「フランス料理を身近に感じてもらうためにラタトゥイユをメニューに入れました。ラタトゥイユって付け合わせやおつまみといったイメージですよね。ラタトゥイユは脇役という固定観念は捨てて、コース料理として存在感のある、主役になり得るものを作りたいとおもいました。フランス料理において、一品一品における満足感の高さは大切だと思うんです」(大村シェフ)。またこのお皿はロイヤルコペンハーゲンのHAV(ハウ)というシリーズで、購入金額の一部が北欧の海を守るための基金に回るという。

スープ、前菜に続くのは魚の主菜。こちらは「黒鯛のポシェ」だ(写真右上)。黒鯛と、わかめ、ふのり、おかひじきの海藻3種類を一緒に茹でている。そこにトマトとパプリカのソースで酸味を加えた。黒鯛と海藻出汁のうま味が凝縮され、素材の優しい味が引き立ち、和の心が感じられた。

魚の次は肉の主菜「南国スイート もろみ味噌 カルドンチェッリ 酒粕」(写真右真ん中)。豚の肩ロースに酒粕で下味を付け、香ばしく焼き上げた。しっとり柔らかでジュージーな肉の下には、「カルドンチェッリ」というイタリア・プーリアから届いたキノコが敷かれ、アクセントにもろみ味噌が添えられている。主菜は豚のほかに鴨を使うこともあるそうだが、この見事な火入れはオーブンではなく、サラマンダーによるものだ。「下味をつけてからフライパンで表面を焦がすように焼いた後、サラマンダーで回しながらゆっくりと火を入れていきます。頭の片隅にいつも肉がいて、気が抜けません(笑)」(大村シェフ)。
肉料理で意外だったのが、強気な塩の利かせ方だ。大村シェフは「シェ・松尾」でクラシックなフランス料理の理論を学び、「ティエリーマルクス 銀座店」では多皿でモダンな世界観に触れ、双方の良い点をとりいれている。「最近のフランス料理は、塩気をなるべく控えたり、酸味を際立たせたりする場合が多いですよね。でも私が作るのはあくまでフランス料理ですから、ボリューム感は大切にしたいし、塩も利かせるところは利かせて、お客様には満足して帰ってもらいたいんです」(大村シェフ)。

最後のデセールは「白桃のシャーベット クレームダンジュとともに」(写真右下)。甘酸っぱいシャーベットとまろやかなクレームダンジュが口の中で心地良く溶け合う。
ちなみにこの器は大村シェフの友人で、美濃の陶芸家SHOTA MIYASHITA氏がレストランのために作ったもの。大村シェフの興味関心は料理だけにとどまらず、ファッション、アート、音楽、映画など多岐にわたる。「料理人は料理だけ、ソムリエはお酒だけを極めればいい、という時代ではないと思います。COVID-19によって私たちはより一層、 “レストランへ行って料理以外の何を得られるのか”という付加価値を求められています。二人で各方面からインプットしたことを、このお店で表現しているのです」(小山氏)

革新的なコンセプトのもと、固定観念に縛られず、食を通して他者とつながっていく。それも自己満足の料理ではなく、食べ手を満足させるというクラシックなフランス料理の理論が根底にある。フランスレストランウィークのスペシャルコースでは、そんな「ab restaurant」のエスプリを気軽に味わうことができるチャンスだ。


■Chef’s Profile
大村隆亮
おおむら・りゅうすけ 1989年生まれ。埼玉県出身。専門学校卒業後、渋谷松濤のフランス料理店「シェ・松尾」にて5年半研鑽を積む。24歳という若さで成城店のスーシェフを務め、同年、鴨調理専門資格「メートルカナルディエ」を世界最年少で取得した。その後、大手飲食企業を経て、フランス本国では二つ星を獲得している「ティエリー・マルクス銀座店」で修業。さらに飲食経営者である実兄が経営するビストロ「ネオビストロ MURA」にてコンサルタント業をスタートし、昨年9月28日、東京・市ヶ谷の地に「ab restaurant」をオープンした。

■ab restaurant(アブ レストラン)
東京都新宿区市谷本村町2-19 美術出版アカデミービル1F
TEL 03-6457-5898
17:00〜22:00(最終入店20:30)
不定休
https://ab-yotsuya.com/
Instagram @ab_yotsuya

text 笹木菜々子


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