フランス大使公邸料理長セバスチャン・マルタンシェフに聞く、フランスで訪れたいレストラン、味わいたい郷土料理とお菓子【ラグビーワールドカップ2023開催まであと1年!】

フランスで行われる「ラグビーワールドカップ2023」開催前1年の記念レセプションで、フランス大使公邸料理長セバスチャン・マルタンシェフをインタビュー。 期間中に訪れたい現地のレストラン、楽しみたい郷土料理やお菓子について教えていただきました。

ラグビーは今や日本で大人気のスポーツ。来年9月には、フランスで「ラグビーワールドカップ2023」が開催されます。世界的にコロナの渡航規制が緩和されて、現地で観戦したいと考えている人も多いのではないでしょうか。

日本代表チームのプール戦は、大西洋岸のナント、南フランスのトゥールーズ、ニースで行なわれる予定。試合間のアイドルタイムには、現地のグルメを楽しむチャンスです!

料理王国では9月9日に開かれた開催前1年の記念レセプションで、フランス大使公邸料理長セバスチャン・マルタンシェフをインタビュー。滞在中に訪れたいレストラン、楽しみたい郷土料理やお菓子について教えていただきました。

在日フランス大使館総料理長、セバスチャン・マルタン氏。1977年、フランスのナントで生まれ、幼少期より料理人を志す。「ラデュレ」シャンゼリゼ店やミシュラン二つ星店「グアルティエーロ・マルケージ」など数々の名店で修業を積み、2003年に日本へ。2004年から在日フランス大使のプライベートシェフを務め、現在は大使館総料理長。
在日フランス大使館総料理長、セバスチャン・マルタン氏。1977年、フランスのナントで生まれ、幼少期より料理人を志す。「ラデュレ」シャンゼリゼ店やミシュラン二つ星店「グアルティエーロ・マルケージ」など数々の名店で修業を積み、2003年に日本へ。2004年から在日フランス大使のプライベートシェフを務め、現在は大使館総料理長。

Q.来年フランスで開催されるラグビーワールドカップ2023では、日本代表のプール戦が、ナント、トゥールーズ、ニースで行われます。ラグビーの試合は、空き時間がたっぷりあるので、現地で観戦するならばフランスに長く滞在することになるでしょう。ぜひ滞在中に訪れるべき、おすすめのレストランがあれば教えてください。

A.ニース、トゥールーズ、ナント、各都市で1つずつおすすめのレストランがあります。
1つは、ニースのホテル・ネグレスコのレストランへ食事に行きたいです。重要文化財にもなっているベルエポック建築のホテルで、重厚感のあるインテリアが素敵です。ホテル内にはミシュラン1つ星レストラン「Le Chantecler」(ル・シャントクレール)があります。女性料理長のヴィルジニー・バスロさんは、MOFをはじめ様々な賞を受けている、フランスの料理界の新世代を担う方と言えるでしょう。

◆ホテル・ネグレスコ
https://www.hotel-negresco-nice.com/ja

◆◆Le Chantecler(ル・シャントクレール)
Facebook @Le Chantecler

もう1つは、トゥールーズにある「Restaurant Michel Sarran」(レストラン ミシェル・サラン)です。オーナーシェフのミシェル・サランさんのお料理は素晴らしいですよ。近ごろフランスで人気のあるテレビ番組「TOP・CHEF」は、いわゆる日本でいうと「料理の鉄人」や「アイアンシェフ」のような番組なのですが、サランさんが審査員をしています。幅広い世代に知られ、人気があるシェフです。

◆Restaurant Michel Sarran(レストラン ミシェル・サラン)
https://www.michel-sarran.com/fr/

そしてもう1つ、ナントは私が生まれた都市ですが、実はしばらく訪れていないのです。周囲からは「L’Atlantide」(ラトランティード)というレストランの、繊細な魚料理が美味しいと聞きます。機会があればぜひ私も訪れてみたいと思っています。

◆L’Atlantide 1874
https://www.atlantide1874.fr/

マルタンシェフが生まれたナントに伝わる伝統菓子「ガトー・ナンテ」
マルタンシェフが生まれたナントに伝わる伝統菓子「ガトー・ナンテ」

Q.マルタンシェフは、ナントで生まれたのですね。シェフを食の世界へ導いたような、思い出深い食体験はあるのでしょうか?

A.僕は45年前にナントで生まれました。小学校低学年までナントで過ごしましたね。実は両親がブーランジュリーを営んでいました。今は経営者が交代して、店名も変わったようですが、店自体は残っています。

実家がブーランジェリーですから、小さな頃は、ガレットデロワやブリオッシュが好きでよく食べました。ブリオッシュにフルーツのコンフィが乗ったものが特に大好きでしたね。
大きなテーブルに、焼きあがったものが並んでいて、私はテーブルの下に隠れて手を伸ばし、ガブッと・・・・・・。チョコレートも随分と隠れて食べたものです(笑) パンを焼いたときのバターの香り、今でも懐かしく思い出します。

Q.先ほどからお話を聞いていると、甘いものが大好きなのですね。

そうなんです。日本人も甘党が多いでしょう? そういえば、ナントでぜひ食べていただきたいお菓子がありますよ。それは、1820年頃に誕生したと言われる「ガトー・ナンテ」です。

大航海時代、ナントはヨーロッパと南米や西インドなどを結ぶ港町として栄えました。異国から仕入れた砂糖やアーモンドで作られたのが、このガトー・ナンテなのです。しっとりと焼き上げたアーモンドケーキを、ラム酒の効いたアイシングでコーティングします。大使館のレセプションでもよく作ることがあるんですよ。ナントで見かけることがあればぜひ食べてみてください。

ちなみに、私と元駐日欧州大使公邸シェフのフランソワ・オードラン氏が立ち上げた「La French Touch」というブランドでも、ガトー・ナンテを販売しています。ぜひ一度お試しください。

◆La French Touch
https://legateaudesnantais.com/

© Atout France 開催前記念レセプションに参加した、ラグビー日本代表チームの皆さん
© Atout France
開催前記念レセプションに参加した、ラグビー日本代表チームの皆さん

現地で見かけたらぜひ食べてほしい!
シェフおすすめの南フランス郷土料理をリストアップ

記念のレセプションで、ビュッフェテーブルに並んだのは、日本代表チームの試合場所となるプロヴァンス・コートダジュール地方とオクシタニー地方の郷土料理。現地で出合ったらぜひ食べてほしい料理の数々を、写真とマルタンシェフの解説でお楽しみください!

■プロヴァンス・コートダジュール地方

・南仏システロン産仔羊のコンフィ

・南仏システロン産仔羊のコンフィ

システロンはプロヴァンス地方の小さな村です。山間部にあり、農作物が育ちにくいので、古くから羊の飼育が行われてきました。システロン産の仔羊といえば、誰もが認める一級品。今日は7時間じっくりと煮込んでコンフィにしました。
この料理を愛したスターがいます。アメリカやフランスで、歌手やダンサーとして活躍したジョセフィン・ベーカー(1906~75)さんです。フランスからアメリカへ、大西洋を横断する船で初めてこれを食べて、とても気に入ったのだそうですよ。

・トロペジエンヌ

・トロペジエンヌ
photo:メレンダ千春

これはフランス人ではなく、ポーランド人のパティシエ、アレクサンドル・ミカさんが考えたお菓子。1952年ごろ、ミカさんはサントロペにパン屋を開業。ブリオッシュ生地にクリームを挟んだものは店のスペシャリテでした。このお菓子を有名にしたのは女優のブリジット・バルドーさん。1956年に公開されたフランスの映画「素直な悪女」の撮影で、サントロペを訪れたバルドーさんは、差し入れてこのお菓子を食べて気に入り、何度も通ったことで有名になったそうです。この映画がバルドーさんの出世作となったように、トロペジエンヌの人気も高まった。現代で言うと、インフルエンサーの影響でお菓子が広まった、といったところでしょうか。面白いですよね。

・ラタトゥイユ

・ラタトゥイユ

日本でも知名度の高い料理ですね。プロヴァンス地方でよく食べられる、夏野菜の煮込みです。18世紀にこの料理が生まれたときは、「ラタトゥイユ」というのは少し下品な料理と思われていました。野菜でも何でも適当に切って、煮込むだけでしたから。今のような形に定着したのは1950年ごろ。今では洗練され、とても美味しい料理になりました。

・ブリード(タラと野菜の煮込み)

・ブリード(タラと野菜の煮込み)

こちらも一般家庭の食卓によく並ぶ料理です。じゃがいもと肉厚なキャビオ(タラ)を煮込みました。お魚の骨で出汁をとり、アイオリソースと合わせて、煮込んでいます。

■オクシタニー地方

・ペズナスのパート・ブリゼ包み

・ペズナスのパート・ブリゼ包み
photo:メレンダ千春

ペズナスとは、とても歴史ある街です。この料理のストーリーは、とてもユニークですよ。18世紀、英国で暮らしていたインドの王族が、インド人の専属料理人を連れてペズナスへ旅行にきたのです。そこでパーティを開いたときに、現地の羊肉と、インド特有の香辛料を合わせた料理を考えたのです。
羊肉とクミン、ブドウ、レモンの皮を合わせて、パイで包んで焼きました。スパイスの香りと、フルーツの甘酸っぱさが入り混じっていて、インド料理らしいですよね。

・トゥールーズ風ソーセージ

・トゥールーズ風ソーセージ
photo:メレンダ千春

トゥールーズのソーセージは、とてもシンプルです。今日のレシピは、豚の肩ともも肉が75%、ばら肉が25%、塩コショウ、添加物などは使わない。直径は26~28mm。トレーに乗らないのでいつも1kgくらいで作りますが、もっと大きく作ることもできますよ。大事なのはぐるぐると大きなとぐろを巻くことです(笑)

・カスレ

カスレ

白インゲン豆をたっぷり入れて、鴨やソーセージ、香味野菜、トマトペーストなどを合わせたものをオーブンで焼き込む料理です。カルカッソンヌ、トゥールーズ、カステルノダリーの3つの都市がカスレの本場として有名。カスレという料理名は、厚手の煮込み土鍋「カソール」を使うことから由来します。今回は特別に、レストラン・パッションのカスレが出張で来てくださいました。日本ではじめてカスレを紹介したのは、レストラン・パッションのオーナーシェフ、アンドレ・パッションさん。今では彼の代名詞のような料理となりましたね。

・アリゴ

こちらもレストラン・パッションのお料理。裏ごししたジャガイモに、バターと牛乳を加えます。さらに熱々のうちに、チーズを混ぜるので、ビヨーンと伸びるのが特徴です。オクシタニー地方のモンペリエで生まれ、カルカソンヌで育ったパッションさんが、幼い頃から親しんだ料理です。写真右では、ラグビー元日本代表の大野均さんがアリゴの調理に挑戦していますね。

ここまで、マルタンシェフがおすすめする郷土料理のリストをお届けしました!

マルタンシェフは2003年、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」六本木ヒルズ店のオープニングメンバーとして来日しました。日本で暮らしてもうすぐ20年になるシェフが、近ごろ、力を入れて取り組むプロジェクトがあります。

「日本各地には、すばらしい食材があります。それらを発掘して、広めることも、私の大切な仕事のひとつだと思っています」とマルタンシェフ。

コロナ禍に始めた「ラボックス」というプロジェクトでは、日本で見つけた珍しい食材を使って商品開発をしています。中でも、山梨のブドウで作ったバルサミコ酢はとても好評を博したそうです。

またアメリカのケーブルテレビの企画で、日本の47都道府県を巡り、その土地の食材で料理を作るといった番組もスタート。初回に訪れた高知では、柚子や落花生、バナナの生産者を訪れたそうです。「生産者の皆さんは、とても広くて深い心を持っていました。四万十の川が美しかったですね……。川エビやカツオは本当に美味しかった」。
この番組は世界35カ国でオンエアを予定していて、日本での放送は9月。ヒストリーチャンネルで視聴できます。詳しくはホームページをチェックしてみてください。

◆フレンチ・タッチ 公邸料理人の究極レシピ
https://jp.history.com/pgm/57134/

「日本のラグビーはここ数年でとても強くなりましたよね。ラグビーに対して国民の注目が集まっているように感じています。でもフランスのラグビーチームも、とても強いですよ」とマルタンシェフ。来年のラグビーワールドカップ、日本とフランスのチームが決勝で戦うことを期待しましょう!観戦の合間には、ぜひ、フランスグルメをお楽しみください。

text・photo:ナナコ(料理王国編集部)、photo:ナナコ, メレンダ千春
取材協力:フランス観光開発機構

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