2022年7月25日、Interbev(インターベヴ)フランス畜産食肉委員会主催による「フランス産牛肉セミナー」が、東京・池袋にある武蔵野調理師専門学校にて開催された。ゲスト講師として「ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座」の星野晃彦シェフが登壇した。
2020年8月よりフランス産牛肉の輸入における月齢制限が廃止になり、フランスで最も親しまれている月齢30ヵ月以上のフランス産牛肉が日本の飲食店でも提供可能になった。
本セミナーでは、飲食業界で働く料理人および食材の仕入れ従事者を対象に、フランス産牛肉の魅力や扱い方についてデモンストレーションを通して解説。フランス料理に限らず、さまざまなジャンルに携わる飲食関係者約40名が参加。参加者からは具体的な質問が飛び交い、日本の飲食店におけるフランス産牛肉の可能性を伝える有意義な会となった。
セミナーは、大きく三部構成で実施された。第一部では塩とコショウで調理したフランス産牛肉を試食。第二部では、在日フランス大使館からフランス産牛肉の概況や特徴などを紹介し、第三部では、実際の提供やサービスを想定したフランス産牛肉の料理をペアリングのワインとともに味わった。
第一部で登壇した星野シェフは、フランス・パリにある「レストランひらまつ パリ」にて1年半腕を振るった経歴を持つ。
初めて現地で味わったフランス産牛肉は、そのおいしさはもとより、日本の牛肉との違いに鮮烈な印象を覚えたそうだ。そんな自身の体験を踏まえ、冒頭では、フランス料理のシェフとして月齢を重ねたフランス産牛肉が日本でも提供可能になったことに大きな価値を感じると述べた。
当日使用したのは、主にフランス・ノルマンディー地方で飼育されるノルマンド種という品種の月齢36ヶ月経産牛。
フォフィレ(サーロイン)とアントルコット(リブロース)の二種類を4センチ程度の厚さに切り、オリーブオイルをひいたフランパンで軽く表面に焼き目をつける。その後、200度のオーブンで2、3分火を入れて、ミディアムレアに仕上げた。
写真手前がフォフィレ(サーロイン)で、奥がアントルコット(リブロース)。シンプルに焼かれた二つの部位で、参加者はフランス産牛肉の味や香り、弾力、質感を確かめた。
第二部では、在日フランス大使館より農務参事官ジェローム・ペルドローさんが登壇。今回来日が叶わなかったInterbev(フランス畜産食肉委員会)の代表に代わり、フランス産牛肉の概要を紹介した。
ヨーロッパ随一の牛肉生産国であるフランスでは、国内各地で22品種1,770万頭を育てる。シャロレー種や、リムーザン種、ブロンド・ダキテーヌ種をはじめ、農業コンクールなどの受賞歴を持つ世界的に名高い品種も数多く、生産量の全体の15%が国外輸出されている。
フランスの食肉処理は世界で最も厳密な処理とも称され、34の部位へと厳密に分けられるため、料理人が求める料理に適した部位を選ぶことができるのも特徴だ。
合わせてフランスでの飼育環境についても紹介された。フランスでは一つの農場あたりの飼育が約60頭と小規模な家族経営の農場が多く、一頭一頭に世話が行き届く丁寧な生産方式が取られている。牧草を中心とした飼育で、飼料も飼育農場で生産されることがほとんどだ。
個体ごとの徹底したトレーサビリティを確保し、安全性を確立。食肉処理場には獣医師が検査官として常駐するなど、生産現場から販売まで全ての過程に厳しい規制が敷かれ、持続可能な方法で運用されている。
続いて、フランス産牛肉を扱うインポーター2社の代表が壇上に上がり、フランス国内での生産現場の詳細や、各社で取り扱うフランス産牛肉の詳細、情勢も踏まえた今後の輸入状況の見通しなどについて語られた。
第二部の裏では、別室で星野シェフが武蔵野調理師専門学校の協力のもと、第三部へ向けて料理の用意を着々と進めていた。
第三部では「牛肉のステーキ ローズマリーの赤ワインソース きのこのボルドー風」の試食が行われた。
牛肉は、棒状にカットした塊肉をフライパンで焼いてしっかりと焼き目をつけ、ニンニクとバターで香りづけた。その後、200度のオーブンへ3分入れて、アルミホイルを巻いて少し置くという動作を繰り返し、30分ぐらいかけてゆっくりと火を入れたものをスライスして盛りつけた。
赤ワインソースは、エシャロットとマッシュルームをソテーし、砂糖、赤ワインを加えて煮詰める。フォンドヴォーを加えて調整し、少し甘味のあるソースに仕上げた。
ベーコンとキノコ3種類をバターでソテー。ニンニクとエシャロットを入れて香りを加え、グラス・ド・ヴィアンドと生クリームを加えて少し煮込んだガルニチュールを添えた。アスパラは別途ソテーしたものを最後に添えた。
ペアリングワイン(バスティオン・ルージュ2016)と合わせての試食が行われ、参加者は最初に食べたシンプルに焼いたステーキとの違いや、フランス産牛肉とソース、ガルニチュールとの相性などを確かめるように味わった。
サシや脂身が少ない赤身は薄くスライスされていてもしっかりとした弾力で、最初の塩コショウで焼いた牛肉と比べてより舌触りの良いしっとりとした食感が楽しめた。噛むごとにじわりとあふれるフランス産牛肉の旨味に甘めのソースがマッチした。
試食後にも改めて参加者からの質疑応答の時間を設けた。
現地フランスで好まれる牛肉の部位や月齢、味付け、食感の傾向をはじめ、チルドや熟成肉、骨つき肉、内臓肉の輸入について、フランスでのサステナビリティや牛に対する福祉の考え方について、餃子に合う部位についてなど、具体的で幅広い質問が飛び交い、本日の登壇者が総出となりそれぞれに応えた。
とろけるような食感の霜降り牛が主流の日本では、牛の旨味を凝縮し引き出したフランス産牛肉のような赤身肉のおいしさは、決して認知度が高くはない。
最後に「深い味わいが楽しめるフランス産牛肉のおいしさは、日本ではまだまだ知られていなく、可能性の大きい食材だと思います。僕たち料理人は、フランス産牛肉を使うことでお客様に何を伝えたいのかをきちんと考えることが必要。僕はフレンチのシェフなので、やはりフランス料理の技法を使いながら、フランス産牛肉のおいしさや価値をしっかり伝えていきたいですね」という星野シェフの言葉で、この日のセミナーを締めくくられた。
text・photo:君島有紀 協力:武蔵野調理師専門学校