【連載】パンデミックに直面した海外で活躍するシェフの視点 Vol.2 北村啓太さん(後編)


新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)と食のあり方を探るべく、料理王国ウェブマガジンで始まった連載「海外シェフの視点」。パンデミックに直面したシェフたちは、どのようなアクションを起こし、いま何を見据えているのだろうか。
第2回目、パリ2区にあるガストロノミーレストラン「RESTAURANT ERH(エール)」でシェフを務める北村啓太さんの後編をお届けする。

Vol2.北村啓太さん「RESTAURANT ERH」
(フランス・パリ)

きたむら・けいた/1980年滋賀県生まれ。辻調理師専門学校を卒業し、小田原「ラ・ナプール」、南青山「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」で修業後、2008年に渡仏。パリの「ピエール・ガニェール・パリ」「シェ・レ・ザンジュ」で修業を重ねる。2011年からはビストロ「オ・ボン・アクィユ」のシェフを約5年間務め、退職後に約3ヶ月間ワインバー「Margo」で腕をふるった。2017年6月からは、現職である、パリ2区のガストロノミーレストラン「Restaurant ERH」のシェフに就任。2019年のミシュランでは一つ星を獲得した。

状況に合わせて柔軟に変化
ビストロやワインバーでの経験も糧に

――「RESTAURANT ERH」は現在休業中ですが、店内営業についての今後の方針を教えてください。

「まずCOVID-19の対策は必須ですね。現時点で国から言われていることは、『お客さんは店に来るまでマスク着用』『客席間は1メートル以上空ける』『1テーブル10人まで』『スタッフは全員マスクをつける』。しかしこれでは不十分だと思うので、『1テーブルは6人まで』『従業員は除菌用アルコールを持ち歩き、手洗いも30分に1回行なう』など、自分たちでルールをプラスして厳しくします」

「Restaurant ERH」の店内は広々とした造り。通常の席数は38席だが、今後は26席に減らし、客席間のソーシャルディスタンスを保つという

――食事にかかる時間や料理の提供内容などは変わるのでしょうか?

「お客さんも長い時間は滞在したくないでしょうから、今までと同じような料理のスタイルでは難しいと考えています。今まで夜は8〜10皿を出していましたが、ここは思い切って、価格は変えずに、4〜5皿に減らそうと思っています。その代わり、ひと皿ひと皿の満足度は高めます。言ってみれば昔のフレンチのスタイルですね。多皿になったのは最近の流れでもありますし。足し算料理で、お客さんに満足してもらえるように工夫するつもりです。また僕が修業した『ピエール・ガニェール』での取り組みも参考にしようと思っています。例えばラングスティーヌの料理を一気に5皿出すような感じで、ひとつの食材をテーマに複数の皿をまとめて出すという、日本の定食のようなスタイルをやっているんです。そういった手法もうまく混ぜ込んでいきたいですね。

 レストランに人は必ず戻ってくると思います。人間は本質的に美味しいものを求めていますから。ただ戻るタイミングがいつなのかがわからない状況です。『ERH』では、ディナーの地元客は7月には戻ってくるのではないかと予想しています。しかし平日のランチはビジネス客とツーリストが多いので、しばらく集客が難しいかもしれません。ランチ営業をストップしてテイクアウトを作る時間にしたり、ランチ営業は土曜だけにしたり、状況に合わせて考えつくことを柔軟に対応していきます」

――この状況を乗り越えるために、変化を恐れず挑戦していくのですね。北村シェフは以前から柔軟なタイプなのですか?

「柔軟性が出てきたのは渡仏してからです。日本の『ナリサワ』で修業をしていたときは、成澤シェフのもとで、緻密な仕事の積み重ねを学びました。その頭のままパリへ来て、エッフェル塔近くのビストロでシェフを務め、苦労したんです。短時間で大量の料理を作らなければならず、これまでの考え方や手法を変える必要がありました。でも抵抗はなかったですね。パリで生きていかなければならなかったし、自分の能力不足を受け入れて、どんどん学ぼうと切り替えました。思い返してみると、パリに来て3店でシェフを勤めましたが、いずれもお客さんがほとんどいない状態からのスタートでした。逆境でもあきらめず、試行錯誤しながらやってきた経験は、今につながっている気がします。

 COVID-19で、ひとつのことをやっているだけではダメだと痛感しました。臨機応変に対応できる料理人じゃないと生き残っていけないと感じます。僕はパリに来て様々な形態の店を経験し、柔軟であることの大切さを知りました。今の自分の料理スタイルと、これまでの経験をうまく融合させて、お客様に喜んでもらうために自分たちに何ができるか考え続けようと思います。料理の提供方法や環境が変わったとしても、僕の根本にあるのはいつもいっしょで、『まじめにおいしい料理を作ること』です」


RESTAURANT ERH(エール)
Address 11 Rue Tiquetonne, 75002 Paris
Tel +33 (0) 1 45 08 49 37
Open 12:30~14:00LO、19:30~21:00LO
日月休
※店舗営業は現在休業中。今後の営業についてはHPでご確認ください
https://www.restaurant-erh.com/

text 笹木菜々子


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