進化するアブルッツォワイン:新世代の作り手を訪ねる vol.1:アブルッツォワインとは?

近年、アブルッツォワインの作り手たちは、かつての“量産型”というイメージを払拭し、高品質で個性溢れるワインを次々と生み出しています。 この短期連載では、3回に渡って現地のワイナリーを巡ったツアーをリポート。初回は準備体操として、アブルッツォワインの基本を解説していきます。

去る6月初旬、イタリアのアブルッツォワイン協会が主催する、現地のワイナリーを巡るプレスツアーが開催されました。近年、アブルッツォワインの作り手たちは、かつての“量産型”というイメージを払拭し、高品質で個性溢れるワインを次々と生み出しています。この短期連載では、3回に渡ってツアーをリポート。初回は準備体操として、アブルッツォワインの基本を解説していきます!

ローマから東へ約50km、車を走らせて約4時間ほど、イタリア中部に位置するアブルッツォ州。面積は10,795km²(岐阜県より少し大きい)、人口は134.2万人(愛媛県と同等)。アブルッツォはイタリア半島の背骨をなすアペニン山脈からアドリア海に向かって開けるようにあり、3つの国立公園と、10以上の国立・州立自然保護区が点在するため「緑の州」とも呼ばれています。

州の65%を山岳部が占めていますが、ワイン作りの中心部となるのはアドリア海沿岸部にひろがる丘陵地帯です。

アブルッツォ州キエーティ県にあるワイナリー「CIAVOLICH」(チャボリッチ)。ゆるやかな丘陵にワイン畑が広がっています。
アブルッツォ州キエーティ県にあるワイナリー「CIAVOLICH」(チャボリッチ)。ゆるやかな丘陵にワイン畑が広がっています。

イタリアは言わずと知れたワイン大国。フランスと並び、毎年450万kl前後、世界全体の約20%のワインを生産しています。

そのワイン作りの歴史はとても古く、古代ローマ時代(紀元前509年~)よりも前、地中海を交易する民族フェニキア人によって南イタリアに伝えられたと言われます。同様に、アブルッツォのワイン作りの歴史も古く、古代ギリシャや古代ローマの文人たちがこの地のブドウ栽培について書き残しているほどです。

アブルッツォを構成するのはライクラ県、テーラモ県、ぺスカーラ県、キエーティ県。
かつてワイン作りの中心地は標高720mの山岳地帯であるテーラモ県でした。しかし19世紀初頭のイタリア統一以降は、山間部に比べてブドウが育てやすい気候であるアドリア海沿岸へと、ワイン作りの中心地が移り変わっていったようです。現在500以上あるアブルッツォのワイナリーのうち、山間部に残っているのはわずか1%程といいます。

アブルッツォを構成するのはライクア県、テーラモ県、ぺスカーラ県、キエーティ県。
アブルッツォを構成するのはライクア県、テーラモ県、ぺスカーラ県、キエーティ県。

イタリアワインの特徴といえば、その多様性。要因の一つには、他国では類を見ないほどのブドウ品種の多さがあげられます。

長靴のような形のイタリアは、アルプス山脈やアペニン山脈を背骨に、地中海に張り出しています。南北に1000km以上にわたってのびて、さまざまな気候風土を持つので、多様なブドウが育ちます。特に土着品種(古くからその土地で育ってきた固有の遺伝子を持つブドウ品種)は、政府に認定されているものだけでも496種類、それ以外を含めると2000種類もあるというのは、驚愕の数字です。

そしてアブルッツォで栽培されるブドウ品種と、それらから造られるワインの中で特に覚えておきたいのが下記です。

  • 黒ブドウ「モンテプルチアーノ」から造られる赤ワイン「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ」とロゼ「チェラスオーロ・ダブルッツォ」
  • 白ブドウ「トレッビアーノ」から造られる白ワイン「トレッビアーノ・ダブルッツォ」
  • 白ブドウ「ペコリーノ」(土着品種)から造られる白ワイン「ペコリーノ」
トレッビアーノやペコリーノの白ワイン、モンテプルチアーノの赤ワインとロゼのチェラスオーロは、アブルッツォのワイナリーでは必ずといって良いほど出合います。
トレッビアーノやペコリーノの白ワイン、モンテプルチアーノの赤ワインとロゼのチェラスオーロは、アブルッツォのワイナリーでは必ずといって良いほど出合います。

黒ブドウ「モンテプルチアーノ」は、文献によれば、1700年代半ばから存在します。山岳部ではフレッシュに、沿岸部では骨太な味わいに育つといわれ、アブルッツォはモンテプルチアーノから作られる赤ワイン「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ」のDOC、その上位に位置するDOCGに認められています。また黒ブドウ「モンテプルチアーノ」からは、赤ワインのほか、ロゼワインも作られます。そのロゼは地元では「チェラスオーロ」といい、辛口で料理と合わせやすく、白ワインよりチェラスオーロを好んでよく飲む人もいるのだとか。この「チェラスオーロ」は短時間の醸し、または果皮を漬け込まない白ワイン製法、といったアブルッツォに古くから伝わる醸造方法で造られます。2010年には、DOCモンテプルチアーノ・ダブルッツォから独立したDOCとなりました。

白ブドウ「トレッビアーノ」は、16世紀に生きた医師・哲学者アンドレア・バッチの著作に、その存在が記されています。あらゆる土壌で育つ強い品種で、収穫量も多く、イタリア全土に広まり、またフランスにも渡っています。中期熟成型の白ブドウで、麦わら色、味は辛口でバランスがよく、果実や花を思わせるフレッシュな香りが特徴。

さらに白ブドウ「ペコリーノ」は、アドリア海中部の固有白ブドウ品種。早期熟成、収穫量が少ない、といった理由で生産者が育成を避けた時期もあり、一時は絶滅状態となりました。酸が際立ち、余韻が長い個性的な味わいのワインになると、近年はその人気が再燃しています。

さらにイタリアは全国的に有機農法が浸透した農業大国。1980年代にスローフード運動が起こり、有機農業団体も誕生するなど、食文化や農業、自然環境の保護に対する国民の意識が非常に高い国です。それはアブルッツォも例外ではなく、ブドウ栽培においても、有機農法が深く浸透しています。その秘訣は、国民の意識の高さのほかに、その地の利が影響しているのかもしれません。

アブルッツォ州のアドリア海沿岸の丘陵地帯では、一日のうち、日中は海からの風、夜間は山からの風・・・。ブドウ畑には常に風が吹いています。そのためブドウが健康に育つのだと、今回のツアーでも造り手の皆さんが教えてくださいました。地の利を生かし、自然にも人にも優しいワインが造られているのも、アブルッツォワインの特徴の1つですね。

今回のツアーで巡った6社の作り手たちは、ブドウが本来持つ特徴に加えて、気温・日照・雨量・風通しといった気候を考慮しながら、土壌づくり・水やり・畑の仕立て・収穫時期や方法・熟成方法などを調整し、理想とする味わいに近づけようと日々奮闘していました。どのワイナリーでもモンテプルチアーノやトレッビアーノは必ずと言って良いほど作っていますが、それぞれが違った個性を持ち、何一つとして同じ味わいのものはありませんでした。

次回のリポート第2回目では、伝統を受け継ぎながら、テクノロジーやサイエンスの力を活用したワイン造りを行うワイナリー3社をご紹介します。ぜひお楽しみに!

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