お客さまの目に留まり、「これ、食べてみたい」と思わせる料理とは?
ここでは定番から、ひとひねりある料理まで、シェフたちの工夫点を紹介します。
フォワグラとアルマニャックで有名なランド地方を中心に、フランス南西部の郷土料理を作り続ける涌井勇二さん。ランド地方の名物料理「スープ・ド・ガルビュ」が有名だが、鴨を用いた料理にも逸品が多い。「ランド地方では、鴨は日常的な食材です。だからこそ、土地で長く食べられている料理を、そのままの形で味わってほしい」と涌井さん。メニュー数は少ないが、それは食材にもっとも適した調理法で食べてほしいという気持ちの表れでもある。たとえば、同店には、鴨肉を焼いた料理はない。暖炉の火で焼くのが現地の食べ方で、涌井さんもそれがいちばんおいしいと感じているからだ。つまり、暖炉がない状況では、鴨肉のローストは作らない。
同店の鴨メニューには、ビストロ料理の王道ともいえる鴨モモ肉のコンフィのほかに、変わり種として、鴨をさばいた後の骨を焼いた、ガラ焼きという料理がある。骨についた肉をしゃぶるように食べるという趣向だ。「オープンから8年間、作り続けている料理ばかりですが、常に少しでもおいしく作ることを考えているので、飽きることはありません。お客さまには、1年に1度でいいので、“あの味„が食べたいと思い出してもらえたら幸せですね」と涌井さん。
「当店で提供するフォワグラのメニューは、このテリーヌだけです。テリーヌが、もっともフォワグラのよさを味わえる料理だと思うから。一般的なテリーヌにはポルト酒が使われますが、私は、ランド地方で食べられるように、アルマニャックだけを効かせる食べ方がいちばんおいしいと思います」
材料(作りやすい分量)
フォワグラ 2㎏/塩 2g/アルマニャック 適量
POINT
● ランド産のフォワグラを取り寄せる。できるだけ鮮度のいいものを使用して、味つけは塩だけでシンプルにする。
● アルマニャックを利かせるのがランドの特徴。アルマニャックは、バ・アルマニャック地区で造られる「ラベルドリーブ」を使用している。甘味が強く、香りが芳醇なタイプで、贅沢な使い方といえる。
「現地では心臓だけでなく、肝や肺も串焼きにして食べています。鮮度のいいものしか食べられませんので、味つけは塩とコショウのみ。国産の鴨の心臓を使ったこともありますが、クセが弱く食べやすいのですが、物足りない印象も。シャラン鴨の心臓は、香りがいいですね。原価は高いですが(笑)」
材料(作りやすい分量)
鴨の心臓 6羽分/ ピキオ 10 ~ 12 片
塩、コショウ 各適量/ローストニンニク 適量/パセリ 適量
POINT
● 心臓は鮮度が命。とくにシャラン鴨の心臓は香りがすぐれている。数が少ないため仕入れは困難だが、業者との関係を築き、優先して仕入れられるようにしている。
● 心臓と一緒に焼くピキオは良質な製品を使用する。ピキオとは、ピーマンを炭焼きにして皮をむき、ヒマワリ油に漬けたもの。フランス南西部やスペインでよく食べられている。安価な缶詰製品もあるが、手作りの瓶詰め製品を取り寄せている。
「本来は、残った鴨モモ肉のコンフィを無駄なく使い切る料理です。コンフィは、脂で味が決まります。当店では鴨の脂のみを使用していますが、継ぎ足していくことでコクが増し、仕上がりの味に深みが出ます。鴨のほかに、砂肝や骨付きの豚スネ肉などをコンフィにすることもあります」
材料(作りやすい分量)
鴨モモ肉のコンフィ 1本分 /ニンニク、エシャロット 各少量 /ジャガイモのピュレ 200 g /(ジャガイモ 3個、牛乳 200 ㎖、塩、生クリーム、バター各適量)/香草パン粉 適量
POINT
● 鴨モモ肉のコンフィをほぐし、ニンニクとエシャロットで炒めてから器に盛る。コンフィは、脂に1カ月間漬けてから使用することで、熟成した香りやうま味が増す。
● 上にかけるジャガイモのピュレは、ジャガイモを牛乳で煮てからつぶしているが、その際に少し食感が残す程度にする。また、鴨モモ肉のコンフィの塩分と脂分を考えて、仕上げに加える生クリームやバターは加減したい。
涌井勇二さん
1968年東京生まれ。都内のレストランで10年間働いた後に渡仏。パリやボルドーなどのレストランで修業を積み、ランド地方の料理に感銘を受け、01年に同店をオープンさせた。
text by Tatsuya Ohgake photographs by Hiroshi Fushiki
本記事は雑誌料理王国2008年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2008年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。