加藤順一さんは、伝統的なフランス料理からイノベーティブまで幅広く学んできた。フィンガーフードも実にスタイリッシュで、北欧のクリスマスのパンケーキをモチーフにしたり、液体窒素を使ったり、オブジェのように見えるものもある。
「すべてはこれまでに学んだことや、体験したものから生まれたアイディア。ベースはフランス料理の基本的なテクニックです」
今回のポイントは、「トーション仕立てのフォワグラ」をすべてのフィンガーフードに用いることだ。トーション仕立てのフォワグラは、フォワグラ料理としてそのまま提供することもできる。加藤さんは、これをタルトやキャンディーにしのばせたり、ホイップクリームやゼラチンと合わせてムースに仕立てるなど、調味料のように使っている。
トーション仕立てのフォワグラ作りには、しっかりしたテクニックが必要。「布に巻いたフォワグラを、濃い目のチキンブイヨンの中で加熱して作ります。テリーヌ型は使わないため、フォワグラがスープに浸かった状態になるので、塩加減や火加減に気をつけてほしいです」。
長くスープに入れておくと、フォワグラには味がしみ込むが、そのぶん脂は抜けてしまう。また、フォワグラの状態によって、塩加減も調節しなければならない。
「一応レシピはありますが、なかなかその通りにはいかないと思います。コンベクションオーブンでも試してみたのですが、やっぱり〝手動〞でやるしかないですね」
ただし、布を使うので少量でも作れ、好きな形に成型できる点は便利。
加藤さんが修業したのは、フランス料理が「イノベーティブ」へと移り変わる時期。北欧はもちろん、フランスでも、フォワグラはほとんど使われていなかった。高級食材に触らせてもらえるまでには2年かかったが「、日本でフォワグラ使いを習っておいてよかった」と振り返る。「フォワグラ料理を『古い』と捉える人もいるでしょうが、僕は、工夫次第でいくらでも新しさを表現できると思います」
たとえば、今回作った「カシスレザー」のもとになっているのは、ジャム作りのテクニック。カシスに甘味をつけて煮詰めればジャムになるが、それをシート状に伸ばせば、まるで薄いグミを噛んだ時のような新食感が生まれる。このシートでフォワグラを包んだフィンガーフードを誰も「古い」とは言わないだろう。
食事のプロローグとして登場するフィンガーフードは、ゲストにインパクトを与える絶好のアイテム。加藤さんたちのアイディアを参考に、フォワグラで「自分を表現」するのは、楽しいに違いない。
フォワグラ(フレッシュ)…500g /塩…6g/喜界島黒糖…5g /粗挽き白コショウ …2g /コニャック…50g/白ポルト…50g/ルビーポルト…25g /濃いめのチキンブイヨン…1ℓ/タイム…5枝
カシスのピューレ…100g/グラニュー糖…20g
トーション仕立てのフォワグラ…6~ 10g(フィンガーフード2個分)
カシスレザーを短時間で乾燥させたい時は扇風機などを利用して。
生地の材料=焙煎した麦芽の粉(あるいはブラックココアパウダ―)…50g/アーモンドパウダー…150g/溶かしバター…30g/卵白…50g/粗挽きコショウ…少々
トーション仕立てのフォワグラ…6~10g(フィンガーフード2個分)/マデラ酒を煮詰めたシロップ…適量
タルト生地の材料(9個分)=春巻きの皮…2枚タルト生地の接着ソース(作りやすい分量)=バター…15g/メープルシロップ…50g
フルードボラー1個分の分量=トーション仕立てのフォワグラ…3~5g/白ビールのクリーム(白ビール、卵、バター、レモンの皮で作ったカードクリーム)…5g/水あめで作ったイタリアンメレンゲ…10g
タルト生地に春巻きの皮を使うと、さっくりとして軽い仕上がりになります。
生地の材料=強力粉…156g/生クリーム…156g/卵黄…120g/バター…76g/卵白…210g/レモンゼスト…レモン1個分/塩…8g
トーション仕立てのフォワグラ…9~15g(フィンガーフード3個分)/発酵マッシュルームのパウダー(マッシュルームを発酵させてパウダー状にしたもの)…適量
デンマークのストリートフードからヒントを得ました。デンマークではクリスマスになると、中にラズベリージャムを入れてシナモンシュガーをふって販売。大きさはテニスボールくらい。
フォワグラのムースの材料=トーション仕立てのフォワグラ100g/ホイップクリーム…100g/ゼラチン…2g
灰を加えたミルクティー、ゼラチン…適量
灰のメレンゲを作り置きしておいて、その上にフォワグラストーンを盛るとインパクト大。
ニンジンジュース(生のニンジンを搾ったもの)…300㏄/トレハロース…30g/キサンタンガム…1g/ニンジンジュースを煮詰めたソース…適量
トーション仕立てのフォワグラ…6~10g(フィンガーフード2個分)
食事のスターターとなるフィンガーフードは、見た目の印象も大切。ゲストに「何だろう」と思わせるような演出も効果的。
Junichi Kato
1982年、静岡県生まれ。芝パークホテル「タテル・ヨシノ」、和歌山「オテル・ド・ヨシノ」を経て、2009年 に渡仏。パリ「アストランス」から12年にはコペンハーゲンへ。「AOC」「レストランマーシャル」で研鑽を積み、15年、現店のシェフに就任。「ミシュラン東京2017」より一ツ星。
上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国2019年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。