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トップシェフのハーブの使い方 アンドレア・フェレーロさん


革新的なイタリアンの創作にもハーブ使いは欠かせない

アンドレア・フェレーロさん
ピャチェーレ

ハーブをスパイス代わりに用いることで味を印象付ける

 2014年9月のエグゼクティブ・シェフ就任以来、「シャングリ・ラホテル東京」のシグネチャーレストラン「ピャチェーレ」で、コンテンポラリーなイタリアンを提案し続けているフェレーロさん。日本とイタリアで厳選した食材を用い、どのように形を変え、どのような調理法を施していても、口に運べば、驚くほどフレッシュな印象で素材そのものの風味が押し寄せてくる。

「私は素材の持つ香りや食感というものを、とくに重視しています。イタリア料理はほかの料理に比べ、使用するスパイスの種類はそれほど多くありません。だからこそ、ハーブは私にとってスパイスのようなもの。複雑ではなく、料理をできるだけシンプルに作るのが私のポリシーなので、ハーブも極力多用せず、最低限にとどめています」

 風味付けのハーブなら、ほかの素材が持つ味わいとのバランスに注意しながら、もっとも効果的にハーブが引き立つよう、加えるタイミングや量、時間も緻密に計算されている。また、夏ならハーブを調理せず生のまま使うことが多くなり、冬にはローズマリー、タイム等を調理して使うことが多くなるなど、季節によって調理法も使い分けられている。

自家製タリオリーニ
ムール貝のソース タマネギのポシェ

季節の食材としてトマトとタマネギをソースに使い、夏に向けて暑くなる時期を意識した、軽やかで喉越しのよい自家製タリオリーニ。ここで使われているハーブはフレッシュバジルのみ。タマネギのポシェをベースとしたソースにバジルを数枚投入し、短い時間で取り出すことで、姿はなくとも鮮やかな香りがソースにとどまっている。限りなく生に近い食感と香りを印象づけるムール貝は、真空状態でスチームにかけ、エキスも逃さずソースに使用。

バジルは鍋から取り出してその香味の存在のみ感じさせる

ムール貝は真空パックにした状態で 2~3分スチームにかけてほぼ生の状態で仕上げる。
ムール貝をエキスごと加え、バジルは投入後3~4分で取り除く。
細胞壁を壊さないよう低温で煮詰めたタマネギ、オリーブオイル、トマトを火にかける。

あくまで調理はシンプルにハーブの特性を存分に生かす

 フェレーロさんにとって、新たな料理を考案する際のインスピレーションは、つねにメインとなる食材ありき。そこに季節感なども考慮しながら、合わせるハーブ、その他の食材を決めていくという。今回、本格的な夏を迎える前のメニューとして作っていただいたのが、旬のトマトを用いた自家製タリオリーニ。現在「ピャチェーレ」では4種類のパスタを使っており、そのうち自家製パスタは2種類。これがそのひとつというわけだ。トッピングにはムール貝と北海道産のウニ。このムール貝の、調理していることを感じさせないほどのフレッシュさに驚く。濃厚な旨味と潮の香りが口いっぱいに広がるその様は、官能的という言葉がぴったりだ。そして、ソースに仕込まれたフレッシュバジルの香りが皿全体を包み込んでいる。

「牛肉のスモーク」はスモークされた牛肉と、緑と白で統一されたさまざまな野菜の競演が楽しめる、シンプルながら情報量のある意欲作だ。ここで用いるハーブはイタリアンパセリ。酵素を残したまま繊維を取り除く低速ジューサーを用いてソースを作り、付け合わせの野菜と牛肉とをつなぐ役割を果たしている。

フェレーロさんに、今注目しているハーブについて尋ねたところ、「そのようなハーブはとくにない」との答えが返ってきた。これまで、あらゆるハーブを使い尽くしてきたからこその言葉なのだろう。

「もし今後使ってみたいというハーブに出合えたら話は別ですよ。むしろ今は、ハーブの新しい使い方に注目しています」

なんでも、沸点を下げて食材をボイルするという機能を持ったマシンが登場し、それを使うことで、素材のより奥深い濃厚な味や風味を抽出することが可能になるという。

「今はこのマシンを使ったハーブ使いを研究しているところです。やはり、イタリアンの伝統的な料理をコンテンポラリーに昇華させるためには、ハーブの使い方にもクリエイティブであることが求められます。そのための研究は今も欠かさないようにしています」

スモークした牛肉 パースニップのピューレとパセリのレディクション アーティチョークと蚕豆を添えて

季節柄、軽やかさと爽やかさが全体的に貫かれ、スモークしたのみの牛肉には、フルーティでほどよい酸味を感じさせる軽やかな自家製デミグラスソースを合わせている。付け合わせは、リズミカルに盛り付けられた緑と白の野菜。イタリアンパセリのソースを敷き、パースニップのピューレ、ワイルドアスパラガス、アーティチョーク、蚕豆、輪切りにしたワイルドゴボウなど、風味やテクスチャーの異なる野菜のローストが選ばれている。花はエンドウ豆のもの。

糖分とアルコールの成分が同じ肉に2段階の香り付けを施す

繊維を取り除いたジュースを使いフレッシュな香りと風味を生かす
イタリアンパセリを低速ジューサーに通し、繊維を取り除き、オリーブオイルとビネガーを加えソースを作る。パセリのソースを軽く撹拌し、乳化させてクリーミーに仕上げる。牛肉は固まりごと使い、30分から1時間スモークして旨味を閉じ込める。デミグラスソースをかけ、味覚のコントラストをつけて。

Andrea Ferrero
ピエモンテ州モンドヴィ出身。スペインの「キケ・ダコスタ」にて二ツ星シェフ、キケ・ダコスタ指導のもと創作的なイタリアンの腕を磨く。ドバイの「ヴィヴァルディ」、インドネシアの「ブルガリ ホテルズ&リゾーツ・バリ」を経て、2011年よりイタリア「ブルガリホテル・ミラノ」のエグゼクティブシェフに。2014年9月より、シャングリ・ラ ホテル 東京「ピャチェーレ」のエグゼクティブシェフに就任。

ピャチェーレ
PIACERE
東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館シャングリ・ラ ホテル 東京28F
03-6739-7898(代表)
● 朝 6:30~10:00(平日)/6:30~10:30(土日祝)昼 11:30~14:30(平日)/12:00~14:30(土日祝)アフタヌーンティー 14:30~16:30(土日祝) 夜 18:00~21:30(月~土)/18:00~21:00(日祝)タパス by ピャチェーレ 17:30~21:30(月~日)
● 無休
● 110席


田中英代=取材、文 宇都木章=撮影

本記事は雑誌料理王国第264号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第264号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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