欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.22 スペイン産フォアグラのおいしい調理法 25年4月号


フランスの高級食材を代表するフォアグラ。一昨年よりフランス産製品の輸入がストップするなか、注目を集めているのがスペイン・マルティコ社の冷凍フォアグラだ。その確かな品質に目を付け、好んで使う「ラ・ロシェル」のシェフ2人に魅力を聞いた。

フレッシュと遜色ない品質で便利。冷凍フォアグラをレストランに導入

伝統的なフランス高級食材として根強い人気を誇るフォアグラ。しかし2023年10月以降、鳥インフルエンザワクチン使用により仏産の輸入が停止。再開のめどが立っていない。

そんななか、最新技術で品質向上を実現したスペイン・マルティコ社の冷凍フォアグラが注目を集めている。たとえフランスからフレッシュ製品を空輸しても、届くのは鳥から取り出して2〜3日のもの。「冷凍技術が発達している今、冷凍フォアグラのほうが高鮮度」と考えるシェフも多い。「ラ・ロシェル」グループ総料理長の川島孝さんもその一人だ。

「私は20年ほど前、フランス南西部の三つ星『ミッシェル・トラマ』で働いていた時、冷凍エスカロップを使っていました。フランスの片田舎ではフレッシュが頻繁に入荷するわけではありません。しかも冷凍品でもクオリティがよかった。今は格段に冷凍技術が進歩しているので、さらに上質に。フレッシュのものと遜色なく使えています」

川島さんはフランスでの実体験により、各国の冷凍フォアグラを取り寄せて試すことに。結果、その風味のよさ、クオリティの高さが際立っていたのがスペイン、マルティコ社の冷凍フォアグラだった。昨年末以降「ラ・ロシェル」各店では、同社の冷凍フォアグラでメニューを展開。そこで二人のシェフに料理をご紹介いただくことにしよう。

まず山王店のシェフ、楠野大さんが作るのは、牛肉のペッパーステーキをヒントにフォアグラの表面にびっしりと黒コショウをまぶした、食欲そそるポワレ。春を感じさせるホワイトアスパラガスの藁焼きを添えて香りの相性を図り、まろやかなヴルーテ、濃厚なポルトソースで味に変化をつける。

「フレッシュのフォアグラの場合、粉や卵を付けて黒コショウをはり付ける必要があり、余計な味が混ざってしまいます。冷凍はバーナーでサッと脂を溶かし、コショウをはるだけ。余計な味を加えず、フォアグラの濃厚な旨みとコショウのピリッとした辛味の対比をストレートに引き立てられます」

冷凍フォアグラを冷凍のまま使用。
黒コショウが付きやすいよう断面を軽くバーナーで炙り、裏面も炙って両面に塩を振る。
片面に細かく挽いた黒コショウをはり付け、数分、冷凍庫に入れて表面を冷やし固める。
フライパンに油(オリーブオイルと太白ゴマ油1:1)を引き、黒コショウを貼り付けた面を下にして、焦げないように弱火でじっくりと焼く。裏面も色付く程度に焼く。
5分程度やすませ、余熱でしっとりと仕上げる。
茹でたホワイトアスパラガスの上部に隠し包丁を入れ、七輪で藁焼きにして燻香をまとわせる。

山王店では仏産フォアグラのストックが尽きそうな頃、一時メニューからフォアグラ料理をはずしたという。だが「お客様から、フォアグラ料理のご要望は尽きませんでした。なのに納得できる質の品を入手できずに困っていたのです」。フレッシュ、冷凍に限らず、さまざまな国のフォアグラを試したものの、採用に至らず。そんな中、マルティコ社の冷凍フォアグラと出会う。「風味がよく、焼いても適度に弾力があり、それまで試したフォアグラとは身質が違いました。ポワレにすると表面が香ばしく焼け、咀嚼した時にジューシーな脂がジュワッと溶け出す。上品な香りと味が広がる点も気に入っています」。

「フォアグラのポワブレにフランス産ホワイトアスパラの藁焼きを添えて ソースポルト」
マルティコ社のフォアグラの上質な脂と黒コショウの香りがマッチし、サクッとした食感とともにスパイシーな風味が弾けるポワレ。ヴィネグレットで和えたセロリラブのラペの酸味、藁焼きにしたフランス産ホワイトアスパラガスの燻香がアクセントに。ポワローを加えたホワイトアスパラガスのヴルーテは葛粉でとろみをつけてクリーミーに。フォアグラの旨みに負けないクラシックなポルトソースの濃厚さが料理のまとめ役となる。

均一な形とサイズ、グラム数で、脂溶けが少なく歩留まりがいい

次に料理をご紹介いただいた川島さんは「フォアグラは家庭ではなかなか味わえない食材です。しかもフランス料理ならではの贅沢な一品として、お客様にアピールできるのが最大のポイント。今年はフォアグラに何を合わせようか? と考えることが恒例になっていますね」と話す。

川島さんはフランス修業時代も含め、さまざまな冷凍フォアグラを使ってきた。なかでもマルティコ社の冷凍フォアグラは、「エスカロップのカットがとても丁寧で、厚みや大きさ、グラム数が均一。無駄がなく非常に使いやすい」と言う。また、「ポワレ時に脂溶けが少ないため歩留まりも良く、ナイフで切った時に断面がしっとりとしていて、フランス産と遜色のないクオリティ」と評する。

そんな川島さんが提案するのは、フォアグラにソバを合わせた鴨のコンソメ仕立ての料理。創業時より、日本人の味覚にあった和のテイストを取り入れる「ラ・ロシェル」らしい一皿だ。「今から30年以上前、僕が入社した時から、坂井宏行ムッシュは西京漬けのフォアグラのポワレを出していて、今でも当店のおせち料理の定番になっています。お客様から、日本酒がめちゃくちゃ進むと好評ですね」。今回は西京味噌の代わりに通常の米味噌を使う、甘さを抑えた仕立てとした。

冷凍フォアグラの両面に深さ1mm程度、格子状に切り目を入れる。味を染みやすくし、また切り口に残った味噌で格子状の焼き目をつける狙い。
布で包む。「ペーパーやガーゼも試したが、味の染み方と扱いやすさで手ぬぐいがベスト」と川島さん。
布で包んだフォアグラを味噌、白ワイン、みりん、黒糖、黒コショウ、醤油を合わせたマリナードと共に袋に入れ、なじませてから真空に。
52℃で約20分湯煎。この後、一晩冷蔵庫でねかせる。
フォアグラを取り出す。
フライパンに太白ゴマ油を引き、弱火で両面をじっくりと焼いて焼き色を付ける。

フォアグラは冷凍のまま格子状に切れ目を入れ、米味噌や醤油、みりんなどを使ったマリナードをまとわせる。低温で湯煎後、一晩ねかせた後にポワレすると、日本人好みの甘じょっぱい香りが立ちのぼる。

ポワレの下には、長野県山形村から届いたそば粉に山芋など合わせた、「そばがき」をイメージしたピュレを敷く。そこに柚子の香りを移した鴨のコンソメを注げば、日仏融合の新しいフォアグラ料理が完成する。

「フォアグラの味噌マリネ 長野県山形村の蕎麦の香り」
和の食材である味噌とソバを組み合わせた、日本人がほっと心なごむようなフォアグラ料理。格子状に焼き目を付けたフォアグラは、ほのかな甘みの味噌マリナードの風味が好相性。ソバは4つの調理法に。カリカリのフリットと、底に敷いたなめらかな「そばがき」の風味が引き立つ。鴨のコンソメにソバの実とユズ皮で香りを加え、ソバ茶をイメージした温かなスープを注いで提供。付け合わせにブイヨンで煮たソバの実、春を告げるソラ豆などを添える。

川島 孝 (かわしま たかし)
1967年、群馬県生まれ。89年に「ラ・ロシェル」入社。2005年に渡仏、3年間修業。08年に帰国、「ラ・ロシェル渋谷本店」副料理長に、17年「ラ・ロシェル南青山」料理長兼グループ総料理長に就任する。

ラ・ロシェル 南青山
東京都港区南青山3-14-23
TEL 03-3478-5645

楠野 大(くすの だい)
1977年、神奈川県生まれ。96年に「ラ・ロシェル」入社。「横浜ロイヤルパークホテル」、在チュニジア日本大使公邸料理人を経て04年「ラ・ロシェル渋谷本店」に入店後、17年「ラ・ロシェル山王店」料理長就任。

ラ・ロシェル 山王
東京都千代田区永田町2-10-3
東急キャピタルタワー 1F
TEL 03-3500-1031

マルティコ社の技術革新によりレストランが求める高品質な冷凍フォアグラが誕生

1986年、スペイン北部、ナバラ州で鴨製品の専門企業として創業したマルティコ社。スペイン・バスク地方の「アルサック」など、三つ星レストラン御用達メーカーとして知られる。2024年に日本輸出向けに自社ふ化工場を開設したことで、卵のふ化から加工まですべてのトレーサビリティが保証された。鴨は放し飼い(飼育期間の8割)にし、非遺伝子組み換えの穀物飼料で育てるなど健康を重視。加工時、取り出した肝を急冷後、一定時間やすませることで味が深く、かつ脂の溶出も少ないフォアグラに。またエスカロップタイプでは3D読み取り機器の活用で適切かつ均一重量のカットを実現。なおアルカンでは5月初旬よりホールタイプの取り扱いも予定している。

アルカン業務食材営業部
TEL 03-3664-5114
お問い合わせフォーム
https://www.arcane.co.jp/contact/

text: Kanami Okimura  photo: Haruko Amagata

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