国内、世界各地を巡る豪華客船で料理やデザートを作る「船上調理師」の世界をご存じだろうか?船旅の楽しみを大きく左右する、いわば“食のエンターテイナー”でもあるその役割は無限大だ。陸とは異なり、寄港地を巡るクルーズ客船だからこそ可能な特別な体験が待っている。来年就航20周年を迎える「飛鳥Ⅱ」、昨年7月に就航デビューした「飛鳥Ⅲ」で働く6人に魅力をお聞きした。

この仕事に就いたのは、前職の先輩が初代「飛鳥」の料理人OB・OGで「いろんな経験ができてプラスになる」と教えていただいたのがきっかけ。実際に働いてみると、その言葉通り、若いころから国内外のさまざまな街に行き、陸ではめったにできない経験が積めることを実感。モチベーションやスキルアップになりましたね。
私は2010年に副料理長、2012年に料理長に就任し、19年間「飛鳥Ⅱ」で働いています。「飛鳥Ⅱ」は和食、洋食のホットやコールドセクション、ペストリーなどに分かれており調理場だけで約80名以上のスタッフが在籍。日本人以外にフィリピン人コックがいます。主な仕事は季節ごとにディナーコースのメニューを練り上げ、シェフたちに伝達すること。食材仕入れは陸のように臨機応変に調達できないので、寄港地での調達も含めて綿密に計画し、1カ月先まで発注を行う必要があるなど陸にはないスキルが求められます。しかし限られた環境のなかで仲間と約4カ月間、寝食を共にするわけですから、料理ができる、できない以前に協調性や柔軟性があることが何よりも船上調理師には大事だと思っています。

飛鳥Ⅱ総料理長
瀧 淳一さん
ホテルでの経験を経て、1998年7月入社。
2020年に飛鳥Ⅱ総料理長に就任。
私は一時期、料理の現場を離れて進路に迷っていたとき、たまたまクルーズ客船で料理を提供している番組を観て「これをやってみたい!」と思ったのが入社のきっかけに。もともと海外に関わる仕事にも興味がありました。

今年入社6年目で、飛鳥Ⅱのプレミアダイニング「ザ・ベール」のセクションシェフを務めています。厨房スタッフは39名で、そのうち女性クルーは私を含め3名。フィリピン人を含め、さまざまな場所で経験した人が集まる職場なので、キャリアを問わず他のクルーから学ぶことも多い。会社に申請すればアルバイトが可能なので私は長期休暇中にも都内の洋食レストランで働いていて、そこでの調理経験も船の仕事に役立っています。
海外クルーズになると昼夜、毎日メニューが変わるので、チームワークの大切さを痛感しています。若いクルーを育てることにも注力しながら、切磋琢磨し合って仲間と頑張っていきたいですね。

飛鳥Ⅱセクションシェフ
多田恵美子さん
調理師学校卒業後、ホテルやカフェなどで経験を積み、2021年9月入社。
飛鳥クルーズの仕事は製菓学校の就職活動中にテレビで観て、海外に行けて、英語も勉強できる仕事だと憧れました。当時は新卒の募集がなく、地元、栃木のパティスリーなどで5年近く働いてから入社。「飛鳥Ⅱ」の3つのレストランのデザートの仕込みを担当しています。
夜はだいたい800人くらいのデザートを私とフィリピン人コック3人で作るのですが、シェフが考案したデザートをいかに満足度の高いお皿に仕上げるかを常に意識していますね。そのためには、フィリピン人たちが準備しやすいよう指示を出すのも私の大きな役目。

クルーズ中の4ヵ月間、休日はありませんが、日々の仕事で休憩時間が3時間くらいあるので、その間、自室に戻って音楽を聴きながら休んだり、シャワーを浴びてリフレッシュできるのがいい。国内に限らず、海外の寄港先でパティスリーをめぐってケーキを買い求め、仕事仲間と食べ比べるのも勉強になります。

飛鳥Ⅱアシスタントペストリーシェフ
斎藤伸裕さん
調理師学校卒業後、専門学校で製菓を学び、卒業後、洋菓子店で経験を積み、2023年2月入社。
私は前職で「飛鳥Ⅱ」のコックに話を聞く機会があり、クルーズごとに使う食材やメニューが変わることにやりがいを感じて入社しました。「飛鳥Ⅱ」でレストランのシェフを務めた後、去年7月から「飛鳥Ⅲ」の総料理長です。
船内には6つのレストランがあり、料理人は日本人とフィリピン人合わせて115名在籍。コース料理だけでなく、お客さまの好みに細かく応じるためアラカルトの注文にも対応しています。私がメニューの叩き台を作り、各レストランのチーフシェフが季節の食材を取り入れながらメニューを組み立てます。例えば函館行きの場合はご当地のマグロやウニといった新鮮な魚介を使うなど、クルーズ先の食材を積極的に取り入れていて、新入社員は「船でこんなにいい食材が使えるなんて」と驚きますね。
客船ではいろんなジャンルの料理を提供するので料理人としての幅も広がります。私は洋食出身ですが、中国料理を作る機会があり、都内の「礼華」さんに研修に入らせてもらい勉強になりました。僕らの若いころと違って今はSNSがあるので、乗船中でも家族や友人とのコミュニケーションもとりやすいですね。

飛鳥Ⅲ総料理長
小濵 真さん
ホテルでの経験を経て、2014年12月入社。
2025年に飛鳥Ⅲ総料理長に就任。
製菓学校在学中、横浜に遊びに来たら偶然、「飛鳥Ⅱ」が停泊していて、船に乗りながら、海外や日本中で仕事できることに憧れました。街場の店で修業後、2024年にペストリーシェフとして入社。「飛鳥Ⅲ」の就航に向けてメニューを開発し、ほぼ毎月、フィリピンに出張してトレーニングを行うなど、今28歳ですが、この歳ではできない経験を積んでいます。英語でわかりやすく伝えることが重要なので、このときの経験が役立っています。一緒に働くようになってからは、仕事がキツいときもフィリピン人は明るく、ときには歌いながら仕事をするので僕が元気を貰っています(笑)。

料理と同様、寄港地の素材をデザートに生かすことも多く、日本一周クルーズではプリンに北海道産牛乳を使い、あんみつの蜜には小豆島の醤油を加えるなど、地域食材との組み合わせを考えるのが楽しくて。「飛鳥Ⅲ」が世界に誇れるクルーズ客船になるよう、その役目を果たしていきたいと思っています。

飛鳥Ⅲペストリーシェフ
阿部友樹さん
製菓学校卒業後、ショコラトリーやホテルでの経験を経て2024年9月入社。
父がフランス料理人で母も料理を仕事にしているので、自然と料理人を目指すようになりました。前職の上司に次の進路を相談したところ、ひとつの場所にとどまるのではなく、いろんな都市を回れる飛鳥クルーズの仕事は私の性格に合うのではないかと薦めてくださったのです。地元の徳島に「飛鳥Ⅱ」が寄港していたこともあり、「飛鳥クルーズで働きたい!」と思い決断しました。

入社後は「飛鳥Ⅲ」のフランス料理レストラン「ノブレス」のセカンドシェフとしてオードブルを担当。高級食材を扱うことも多く、フランス料理人としてのやりがいも感じています。今まで日本各地を船でめぐりましたが、休憩時間はフィリピン人クルーと一緒に寄港地を観光し、ご当地名物を食べるのも息抜きに。もちろん仕事に厳しさはありますが、「父に自慢してもらえるような料理人でありたい」という思いが原動力になっています。いつか両親を招待し、私が考案した料理を食べてもらうことが目標です。

飛鳥Ⅲセカンドシェフ
吉尾こまちさん
実業高校で料理を学んだ後、結婚式場で経験を積み、2025年1月入社。
飲食業界において、その実情があまり知られていない豪華客船の「船上調理師」という仕事。寝て起きたら、国が変わっているといったシチュエーションも不思議ではないクルーズ客船は、ゲストのみならず、船内で働くクルーにとっても心動かされる体験ができる舞台でもある。
日本のクルーズ文化の先駆けとして豪華客船2隻を運航する郵船クルーズ株式会社では、20年の就航実績を誇る「飛鳥Ⅱ」、昨年7月に華々しく就航デビューを果たした「飛鳥Ⅲ」を運航する。国内のワンナイトクルーズから世界一周クルーズまで多彩なクルーズを企画しており、「最幸3時間を、飛鳥クルーズで」をコンセプトに、日本ならではのもてなしの心を尽くしたラグジュアリーな船旅を演出する。

なかでも船旅の醍醐味と言えば「美食の時間」。クルーズ客に向け、「最幸の一皿」を提供することで評価を得てきた飛鳥クルーズだけに、お客さまの期待も自ずとふくらむ。その期待に応えるのが、厨房で指揮を執る総料理長をはじめとする調理師たちの役目なのだ。
セクションごとに業務は異なるが、クルーズ中は毎日700〜800名のゲストのためにモーニング、ランチ、軽食、ディナーを準備し提供。和・洋食に限らず、多国籍な料理やデザートも用意するため、新たなジャンルに取り組む機会もある。富裕層を中心としたクルーズ客には美食家が多い。料理のおいしさはもちろんのこと、盛り付けの美しさも船旅に感動を与える大切な要素だ。ワンランク上の技量が求められるゆえ、料理人としてのスキルアップにもなるに違いない。

旅先の寄港地の食材を生かしたメニューを提供することは、クルーズ客船ならではの特色。お客さまが寄港地を訪れた感動をそのまま洋上のテーブルでもリンクさせることで旅の楽しみは倍増する。国内外の食文化や食材の知識だけでなく、斬新な発想から編み出された料理との出会いによって、調理師としての引き出しも増えるだろう。

フィリピン人コックが共に働く厨房は、陸と異なり、インターナショナルな雰囲気。彼らとのスムーズな連携なくしては、クオリティの高い大人数の料理提供は成り立たない。英語でのコミュニケーションに最初はとまどう人もいるが、日々の仕事のなかで徐々に英語を学べる環境でもある。陽気なフィリ
ピン人が働く厨房は明るい空気につつまれ、元気づけられるクルーも多い。
約4カ月間の乗船後に約2カ月間の連続休暇がとれるのも船の仕事ならでは。その間、家族や友人と旅に出かけるもよし、自分磨きの時間に費やすもよし。人生の新たな船出に向け、感動とやりがいを与えてくれる船上調理師の仕事に挑戦してみる価値はある。
Q1 船上調理師の年収ってどれくらい?
ご経験によって異なりますが、調理師専門学校を卒業して入社した新卒社員を一例に年収をご紹介します。
新卒20歳 約450万円
25歳 約530万円
35歳 約620万円
試用期間は3カ月あり、上記はいずれも基本給、賞与、その他の乗船手当を含んだ金額になります。なお昇給は年1回、賞与年2回のほか、残業手当がつきます。また自宅から乗船地、下船地から自宅までの交通費は全額支給されます。
Q2 乗船中の勤務スケジュールや休暇はどのように取得できますか?
「船員法」に従って、シフト制勤務となります。休憩時間をとっていただきながら、実働は1日8時間〜10時間勤務となります。休暇については、乗船中は「休日・休暇」はありません。基本は4カ月連続乗船した後、2カ月の連続休暇になりますので、この休みを利用して長期旅行することもできますよ。
Q3 待遇や福利厚生について教えてください。
「飛鳥Ⅱ」「飛鳥Ⅲ」家族割引乗船制度や乗船中の食事、居室、制服は会社から支給いたします。そのほかにも、各種社会保険、退職金制度、財形貯蓄、福利厚生倶楽部「リロクラブ」の法人加入をしております。
Q4 どのような経験やスキルを持つ方を歓迎されていますか? また、船上で活躍するために大切な資質があれば教えてください。
調理師としてのご経験を積まれている方はもちろんですが、船内という限られた環境でお客さまに喜んでいただくための工夫や努力を楽しめるか、やりがいを感じられるかが大切だと考えています。
長期間のクルーズでは、思うように食材が揃わないこともありますが、そのような状況でもお食事を楽しみにされているお客さまに満足いただけているのは、社員の努力の結晶です。

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text: Kanami Okimura photo: Haruko Amagata
