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奥田政行さんを育てた。庄内の頑固な生産者たち(後編)


京都から最上川の船着き場に伝わったといわれる。赤ねぎの種は門外不出の家宝だった。

絶滅寸前の平田赤ネギがいまや収入源の柱に

かつて酒田市平田地区では、平田赤ネギはごく当たり前に栽培されている野菜だった。しかし、いつしか赤ネギ畑は消え、今世紀に入った頃には絶滅寸前まで減っていた。

農業を営む後藤博さんらが、なかなか値段の上がらない米や大豆の代わりに栽培する作物として、この平田赤ネギに白羽の矢を当てたのは、2003年のことだ。近隣農家から種を集め、畑に蒔いた。しかし、出てきたネギは、白ネギだったり、細すぎたり……。平田赤ネギとは呼べないものも、少なくなかった。長い間種を選別しなかったため、赤ネギの純度はみごとに落ちてしまっていたのである。

そこから、後藤さんたちの闘いが始まった。毎年、種の選別を続け、平田赤ネギが本来持っている味と形状に近づける作業を繰り返したのである。赤ネギの品質が安定してきたのは、ここ数年のことだという。「最初の頃は、まったくおいしくなかった。それが3年目くらいから辛みと甘みのバランスがよくなって、おいしくなった。その間、すごい可能性を秘めた野菜だと思ったので、後藤さんに『諦めないでください』と頼んだんです」(奥田さん)

奥田さんが店で平田赤ネギ料理を出すようになり、平田赤ネギにも付加価値がつくようになった。今では東京、大阪、名古屋などの大都市部からの注文が8割を超えるという。

「平田赤ネギ」
後藤 博さん

2003年に「平田赤ねぎ生産組合」を立ち上げ、絶滅寸前の平田赤ネギの復活に乗り出す。赤ネギの純度を上げる作業を続けた結果、その味は高い評価を得ている。
酒田園芸センター
山形県酒田市手蔵田字仁田47-7
(流通センター)
☎0234-23-4124

オーガニックを超えたモアオーガニックが道標

酒田市から再び南下。目の前に広がる最上川の河川敷は、雑草が茂る草むらにしか見えなかった。足元ではカエルやコオロギが跳ねる。そこは有機循環農法の第一人者で知られる山澤清さんの畑だった。収穫間近のそばの花が風に揺れている。隣はからし菜畑。畝もないので、「畑」と気づかずに踏んづけてしまった。

山澤さんは学校を卒業後、農業用大型機械や農薬を販売する仕事に就いた。ところがある日、自然がどんどん壊されていることに気づく。「パンドラの箱を開けてしまった、と思ったの。だから、罪滅ぼしに真逆の仕事をしようと思ったの」

”肥料は食用鳩のフンの堆肥。「効率」を追うと果てがないから怖い。”

完全無農薬栽培「本和からし」
山澤 清さん

「ハーブ研究所SPUR」を1980
年に設立。1993年、食用鳩の糞
を堆肥とした無農薬地域循環型
農業を確立。本和からしの再生
や川シジミの研究なども続ける。

ハーブ研究所SPUR
山形県東田川郡庄内町
狩川字今岡128-1
☎0234-56-3883
www7a.biglobe.ne.jp/~spur/index.html

1980年、山澤さんは「ハーブ研究所スパール」を創設。オーガニックを超えた「モアオーガニック」をコンセプトに、活動を続けている。

例えば、山澤さんは食用鳩を2000羽ほど飼育している。鳩は「ペット」なので、抗生物質投与が義務付けられていない。山澤さんが与えるのは、天然飼料だけ。その肉は、抜群に旨いと評判だ。そして鳩の糞は、堆肥にして畑の肥料にする。完全無農薬栽培で育てたハーブを使い、石けんや基礎化粧品を手作りして、販売もしている。


香りと辛みがツンと鼻に抜けるのが特徴の本和からし。野菜のおひたしや玉コンニャク、刺身などに合う。多様な種類をもつ和からしには、黄色のほかに緑色のものもある。

また、古くからからしの産地として知られた庄内町跡地区の本和からしの復活にも力を注ぐ。かつて、からしは日本全国で育てられていた。しかし、今、在来のからしはほとんど消滅してしまったという。

”効率”とは真逆の生き方を標榜するが、決して〝仙人〞ではない。そのスタイルが、庄内の生産者たちが信頼を寄せるゆえんなのだろう。

近くの山に入って山菜を採る。朝摘んできたミズやスイバなどが奥田さんの皿を彩る。

「アル・ケッチァーノ」の奥田政行さんも、そんな山澤さんを信奉するひとりだ。店を出したが思うに任せず、悶々としていた時期に、山澤さんに相談に乗ってもらったことがある。以来、つきあいは10年以上。山澤さんも、奥田さんの感性と実行力に期待を寄せる。

「庄内豚のグリルと藤沢カブの焼き畑仕立て」「オレンジの薫りのナスとウニ」……。奥田さんは、庄内の山海の恵みを味わい豊かなひと皿へと仕上げていく。従来の想像を超えた調理と味が、生産者たちのやりがいを押し上げる。

奥田さんを育てた生産者は、奥田さんに勇気をもらっているのだ。

庄内産の素材を味わい深いひと皿へ

庄内豚のグリルと藤沢カブの焼き畑仕立て

後藤勝利さんが栽培する藤沢カブを使ったひと皿。文字通り、焼き畑の光景が目に浮かぶようなひと皿だ。藤沢カブは、外側だけバーナーであぶり、芯は生の状態にしておくのがポイント。塩の力で旨みを引き出された庄内豚との相性も絶妙だ。

”僕は庄内の生産者の「翼」になる。庄内の山海の恵を活かして食べて身体が喜ぶイタリアンを。”

奥田さんは、庄内野菜を料理に取り入れるだけではなく、山形大学と行政と共同で庄内を「食の都」にする取り組みも行っている。第1回辻静雄食文化賞も山形大学と一緒に受賞した。

ブドウの木の下野草たちと43℃と135℃のイトウにコルテーゼのブドウの皮
カタバミや野ゼリ、タンポポなどの野草を、淡水魚のイトウと合わせた。イトウの身はマリネしてから43℃で火を通す。骨はサクラのチップでいぶしてからグレープシードオイルと合わせて真空パックし、135℃で火を通す。

オレンジの薫りのナスとウニ
ナスは、焼いて皮をむき、オレンジの香りのエクストラヴァージンオリーブオイルをかけてウニを飾ったシンプルで優しい味わいのひと皿。

この特集で紹介した野菜は、「アル・ケッチァーノ」でも取り次いでくれる
(担当・鈴木さん)。
アル・ケッチァーノ
山形県鶴岡市下山添一里塚83
☎0235-78-7230
www.alchecciano.com/

紹介した庄内野菜は、株式会社元青果(山形県東田川郡三川町大字押切新田
字茨谷地50 公設庄内青果卸売市場内☎0235-66-4184)でも取り扱っている。

本記事は雑誌料理王国232号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は232号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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