【漲る!地方食材】和歌山県・和歌山市「アユ」


紀の川の伏流水で育成した、天然にひけをとらない香魚

夏を代表する味覚といえばアユに限る。だが、養殖アユの生産量日本一が和歌山県であることはあまり知られていない。和歌山県では県内の養殖場で育成したアユを7年前から「、紀州仕立て鮎」のブランド名で築地市場などに出荷してきた。

「愛知県、徳島県、滋賀県でも養殖が盛んですが、紀州仕立て鮎は餌が違います」と語るのは、大紀養殖漁業生産組合の理事、阪本伸哉さん。

養殖アユには、魚粉を配合した餌が使われている。その原材料は南米産などの輸入魚が一般的だ。だが、大紀養殖漁業生産組合を含め、紀州仕立て鮎は、国産サンマを主原料としている養殖場が多い。

大紀養殖漁業生産組合の敷地面積は2500坪。年間出荷量は150万~200万匹(約150t)で、築地市場や名古屋、京都、金沢、和歌山市内などに出荷している。

 大紀養殖漁業生産組合ならではの餌もある。阪本さんは、出荷40日前頃からスピルリナと呼ばれる藻類を配合した餌を与えている。スピルリナには魚体を色鮮やかにする効果があり、ヒレなどが黄色く色付いたり、エラの後ろに追い星と呼ばれる、アユ特有の黄色い模様も発現する。またスピルリナには、魚の身のしまりをよくしたり、しめた後に日持ちさせたりする効果もあるという。

ところが、このスピルリナが高価で採算が合わないことから近年、和歌山県では、スピルリナの使用を断念する養殖場が増えている。

「スピルリナを与えると餌の食いが悪くなり、成長が遅くなります。その反面、天然ものにひけをとらないアユになるんです。うちでは15年も前からスピルリナを使ったアユを売物にしてきました。餌代は高くなりますが、これからも上質な紀州仕立て鮎を出荷していきます」

【あゆ】

サケ目アユ科。漢字名は鮎の他、年魚、香魚とも書かれる。北海道西部以南から屋久島まで日本各地に分布。天然アユは9月下旬に産卵する。以前はその稚魚を育てる養殖が盛んだった。近年は養殖場で孵化させた卵を育てる人工種苗が主流だ。昭和50年代まで和歌山県には60ものの養殖場が存在したが、現在は15軒。ピーク時(平成3年)の出荷量は3244t。平成年度は1243tだが、それでもここ5年間は和歌山県の水揚げが全国1位。築地市場で扱われる養殖アユの約3分の1が和歌山県産だ。稚魚の生産量では滋賀県の琵琶湖が1位だが、商品としての成魚の生産量は和歌山県が1位の座を守っている。

3月下旬、まだ色付けを始める前の稚アユ。「この頃まではたくさん餌を与え、太らせて大きくするのが優先です。出荷50日前から餌を減らし、天然アユのようなシャープな姿にします」と阪本さんは説明する。なお、大紀養殖漁業生産組合では放流用のアユも養殖しており、国内各地に出荷している。

中島茂信・文 木村文平・写真

本記事は雑誌料理王国2011年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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