【漲る!地方食材】和歌山県「アユ」


紀の川の伏流水で育成した、天然にひけをとらない香魚

奇跡的な発見だった。1995年、大和菌学研究所の藤本水石さんが、三輪山を散策中、ハナビラタケを発見。1000m以上の高地に生息するはずのハナビラタケが、300mほどの三輪山のふもとに生えるとは、パワースポットとして有名な場所だけに、神がかった話だ。

キノコ研究を本職とする藤本さんは、ハナビラタケを持ち帰り、培養と研究を繰り返して、通年栽培を可能にした。当初は、粉末にした健康食品として販売していたが、食味のよさから食材としての販売にも着手するように。奈良県のオリジナル品種として「やまと花びらたけ」という名前をつけた。現在は、そうめんやパスタなど、加工食品の開発にも積極的に取り組んでいる。

β-グルカンの含有量の多さから、健康食品としての注目を浴びているが、食味のよさについて、水石さんの長男、大道さんは次のように言う。「食感や香りもさることながら、食べたとき、最後に感じる﹃後味』に優れていて、旨味の伸びがいいんです。単体では個性が弱いかもしれませんが、他の食材と合わせたときに、味に深みを出し、お互いの個性を引き出す効果もあります」。

笠の開いた状態のほか、つぼみの状態でも販売している。また、粉末に加え、ピュレ状にしたものなど、バリエーションも増加中。粉末を小麦粉に混ぜ込んだそうめんは、一般的なそうめんに比べ、モチモチ感のある食感になるという。

花びらのような美しい形を生かした盛り付けはもちろん、生地への練り込みなど、用途の幅は広い。

大紀養殖漁業生産組合の敷地面積は2500坪。年間出荷量は150万~200万匹(約150t)で、築地市場や名古屋、京都、金沢、和歌山市内などに出荷している。

【あゆ】

サケ目アユ科。漢字名は鮎の他、年魚、香魚とも書かれる。北海道西部以南から屋久島まで日本各地に分布。天然アユは9月下旬に産卵する。以前はその稚魚を育てる養殖が盛んだった。近年は養殖場で孵化させた卵を育てる人工種苗が主流だ。昭和50年代まで和歌山県には60ものの養殖場が存在したが、現在は15軒。ピーク時(平成3年)の出荷量は32344t。平成20年度は1243tだが、それでもここ5年間は和歌山県の水揚げが全国1位。築地市場で扱われる養殖アユの約3分の1が和歌山県産だ。稚魚の生産量では滋賀県の琵琶湖が1位だが、商品としての成魚の生産量は和歌山県が1位の座を守っている。

大掛達也・文 飯田徹・写真

本記事は雑誌料理王国2011年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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