見た目は小粒なレモンのようだが、酸っぱいどころか、甘くてジューシー。爽やかな香りに刺激され、ついつい手が出てしまう。
「糖度は約13度と高く、食べると手がべとべとになるほど甘いんです」と青木園を営む青木孝典さん。青木さんが小田原市内の農園で育てている湘南ゴールドは、神奈川県オリジナルの新品種だ。ゴールデンオレンジ(黄金柑)と、今村温州(温州ミカンの品種)をかけ合わせたもので、2003年に品種登録された。
ゴールデンオレンジは、明治期に鹿児島県で発見された品種で、関東では小田原から伊豆半島沿岸部で栽培されてきた。生産量が少ないため、青木園のようなミカン農家やJAかながわ西湘の直売所などで販売されていた。
「ゴールデンオレンジは甘くておいしいものの、実が小さく、皮に凹凸があり、むきにくいのが弱点でした。その甘さに着目し、ひとまわり大きく、むきやすく改良したのが、湘南ゴールドです」と、神奈川県農業技術センター足柄地区事務所研究課主任研究員の青木隆さんは説明する。
収穫は一般的に3月に行われる。収穫後10日ほど熟成させて出荷するため、食べられるのは春先のごく短い期間だ。
青木園では7年ほど前に栽培を始め、現在約30本育てている。この春は約1t収穫した。JAかながわ西湘管内では、約50軒の生産農家がそれぞれ10本ほど育てており、2009年度の収量は約10t。
知名度は高まりつつあるが、まだ供給が間に合わないのが現状だ。今後年間100tの収量をめざし、神奈川ブランドの果物として育てていく意向だという。
ゴールデンオレンジ(黄金柑)と今村温州をかけ合わせた神奈川県オリジナルの新品種。西湘地域(小田原とその周辺)では、年間を通してさまざまな柑橘類を栽培しているが、春に採れる果物を改良したいという思いもあり、湘南ゴールドが開発された。果物の品種改良は、結果が出るまでに長い歳月を必要とする。湘南ゴールドは、神奈川県農業技術センターの職員10名以上が改良に携わり、交配開始から品種完成までに12年かかった。ゴールデンオレンジの甘さを受け継ぐ湘南ゴールドは、ヒヨドリによく狙われるそうだ。「1月から収穫までの間は樹にネットを掛けておきます。酸っぱい果物は狙われませんが、甘いものをヒヨドリはよく知っています」と青木園の青木さんは語る。酸が若干高いことから、収穫後10日ほどねかせる。熟成させることで酸が弱まり、おいしくなるという。県西部にあるホテルや美術館が湘南ゴールドを使ったジュレやジェラートを、サンクトガーレンが地ビールを商品化するなど、商品開発も盛ん。「イルマーレ」のシェフ、依田隆さんによれば、湘南ゴールドの皮を削り、パスタとからめると、香りも楽しめるという。
武井武史=文、ヤスクニ=写真
本記事は雑誌料理王国2010年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年6月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。