「ベルギー出身の有名人を挙げるのは難しいが、有名なベルギービールを挙げるのは簡単だ」とは、ビール評論家マイケル・ジャクソンの言葉だ。四国ほどの面積で人口わずか1000万人のベルギーには、100を超える醸造所があり、800種以上の銘柄がある。原料もスパイスやハーブ、フルーツを使うなど多岐にわたり、上面発酵のエールや自然酵母のランビックが多様に造られているほか、木樽での熟成、瓶内での2次、3次発酵と、職人技のオンパレード。
ビアカフェのメニューを見るとその醍醐味を感じる。小さなカフェでも20〜30種類を揃え、こだわりのカフェでは100種類を下らない。銘柄も明記され、ワインのようにヴィンテージものに出会うこともある。
さらに、ビールの数だけ異なるグラスを揃え、各ビールの香りや味わいを最大限に引き出してくれる。ワインでいえば、ソムリエに匹敵するサービスだ。
ベルギーの消費量を数字で見ると、比較的安価なピルスナーが7割を占めるが、2009年度の Beer & Society Information Center の人気ビール集計によると、1位のピルスナーの割合が減少し、2位にトラピスト、3位にアベイといった修道院ビールが浮上している。ベルギービールの中でも別格とされるトラピストは、トラピスト派(厳律シトー修道会)修道院によって醸造され、世界でも7カ所だけで造られている。そのうち6カ所がベルギーにあり、02年、そのひとつであるアヘルが復活を遂げて以来、これら伝統的ビールが見直されている。料理とともにじっくり味わう傾向もあるという。
中世の頃から、ブドウが収穫できない北部ヨーロッパの修道院では、ワインでなくビールが造られてきた。ベルギービールは、無限の可能性と浪漫を秘めた飲み物なのだ。
100種類のビールを提供するビアカフェ・レストラン「ド・グロート・ウ ィット・アレンツ」の料理を、それぞれに合うビールとともにご紹介。
ド・コーニングのブロンドやクリスタル・アルケンのピルスナーと相性ピッタリの一品。フレッシュな柑橘系の風味がマッチする。
青リンゴ、グレープフルーツを思わせる溌剌とした風味がビネガーの利いたピュレに合う。ドゥリー・フォンテイネン・オウド・グーズを合わせる。
コリアンダーのようなスパイス香やオレンジの皮の風味がクセの強いアスパラガスと融合。フラマンドの白ビール、ブルージュ・タルベビールと。
料理にも使っている地ビールのド・コーニング・アンブレとともに。よりモルトの味わいが濃厚で、厚みのある料理にも負けない。
ハーブ・リキュールで料理に甘味があるので、苦味がやわらかで南国系風味のシャンパーニュ方式ビール、デウス・ブリュットが興味深い組み合わせ。
タマネギやベーコンと合わせて煮込んだもの。トラピスト・ビールの中でも伝統を誇るウエストマール・デュヴェルと合わせて。豊満で奥行きのある味わいが料理と融合する。
ベルギーでも再び話題を集めるトラピスト修道院のビールから、南部で造られるシャンパーニュ方式のものまで日本でも豊富に揃う。
1948年にクリスマス限定品として登場したブルーは、現在では「トラピスト・ビールの最高峰」と評されるほど。ベルギーではヴィンテージを楽しむ。
近年醸造を再開したトラピスト・ビール、アヘル。麦芽に由来する甘味と
花を思わせる芳しさ、長く残る苦味
の利いた後味が特徴のフルボディ。
トラピスト修道院としてもっとも長いビール醸造の歴史を持つ。豊かな泡立ち、香ばしいモルトの味わいとさわやかな苦味が印象的な余韻を残す。
グーデンドラーク(金の龍)は、この醸造所があるゲントのシンボルマーク。濃い褐色の香り高いトリプルブラウンエールで、瓶内二次発酵。
もとはデュポン醸造所が新年に、常連客へ感謝の気持ちを込めて贈っていた。芳醇で豊かな味わいのデュポン醸造所の最高級ビール。
アレンド醸造所のある地域を舞台とした、日本でも有名な犬と少年の物語にちなんで誕生した。姉妹商品にダークビア「パトラッシュ」がある。
井上智子(パリ)=文 宮本敏明(パリ)=写真
本記事は雑誌料理王国第192号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第192号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。