【ロンドン × NY】世界を股にかけたトップシェフのコラボが今、業界を活性化する理由。


トップシェフのコラボレーションはイギリスでも全国区で盛んだが、他国から招待するケースは特別。NYで活躍する一つ星フレンチの日本人シェフが、ロンドンのモダン・インディアンと合わさったら?夢のコラボをレポート。

イギリスでは今、異なるレストランのトップシェフたちがタッグを組み、コラボすることで新たな食体験を生み出す刺激的なポップアップ・イベントが花盛りだ。

その意図はむろん業界の活性化でありPRなのだが、何より、シェフたちが実にイキイキと楽しそうなのである。むしろ楽しいからどんどんコラボしてしまう。そこからまた、新たな味が生まれる。そういう循環らしい。

2名の異店舗シェフが4本の腕で作る食事は、イギリスでは「Four-hands dinner フォーハンズ・ディナー」などと呼ばれている。2000年代から単発的に行われてきたが、今や曜日を問わずあちこちで華やかなディナーが頻繁に開催されるようになり、確かなトレンドを形作っている。

ロンドンで腕をふるうNY「ラベイユ」の長江充展(ながえみつのぶ)シェフ。愛称は「ミツ」。欧洲でのゲスト・コラボは初めてだそうだ。

先日3月5日に筆者が訪れたフォーハンズ・ディナーは、それは見事なものだった。

このコラムでもご紹介したことがあるロンドンの一つ星インディアン「BiBi ビビ」のエグゼクティブ・シェフ、チェット・シャルマ Chet Sharmaさんが、ニューヨークの一つ星フレンチ「l’abeille ラベイユ」を率いる長江充展 Mitsunobu Nagaeさんを招いて行われた、贅沢極まりないコラボレーションだ(冒頭写真©Eric Vitale)。

かたやインド料理、かたやフランス料理。互いに深くは知る由もない領域であり、しかもニューヨーク × ロンドンという異国同士のお二人にもかかわらず、コースには完璧なハーモニーが生まれていた。特に序盤の6つのカナッペの応酬は息をもつかせぬ勢いで、このコラボの複雑さと洗練度を見せつけてくれた。

チェットさんは昨年夏、このコラボに先立ってラベイユの「シェフ・イン・レジデンス」シリーズに招待され、それをきっかけとして今回の招待返しとなったそうだ。

長江シェフのラベイユは、実はこうした美食のコラボ祭典では先駆け的な存在であり、精力的に推進。すでにシリーズは18回を数えるという。一方、今回のBiBiでのイベントも同様コンセプト「BiBi & フレンズ」シリーズの一環であり、今回で4回目。いずれも相当な力を入れている。

この異ジャンル交流の意義について、ベテランの長江シェフがそっと教えてくれた。

クレームフレーシュで和えたワサビ風味ホタテのタルトレット、ブラッドオレンジがアクセントに。この他にもハリボットをのせたレンズ豆フリッター、マグロのそば粉タルト、枝豆フムスをのせたヒヨコ豆のクラッカー、ハイビスカス風味の土佐酢で華やかさを添えた青じそソルベといただくオイスターなど、カナッペ類が充実。
主催側であるBiBiのシェフたちが、長江さんの料理も含めて全てを形にしていく。
蒸したコーンウォール産ロブスターとイドゥリ(米と豆を発酵させたダンプリング)の皿は、チェットさんの料理。
右はフランス産ホワイト・アスパラガス、イベリコハムでインフューズしたコシヒカリとアスパラガスのソース、燻した卵黄のコンフィ、そばの実。左はアンコウの炭火焼、パープル・ブロッコリーのソース、黒トリュフ、骨髄と醤油のエマルジョン・ソース。いずれも長江さんの料理。

NYでラベイユだけでなく数店舗を展開する長江シェフは、「シェフ同士のコラボレーションの醍醐味」について、こう説明する。
「まず、とびきり楽しめることですね。そして互いに勉強になること。現役のシェフはどうしても自分のレストランに張り付いてしまって、旅に出て他国の料理を研究したりできないものです。しかし優れたシェフを招待させていただくと、まさに現地で今、食べられている生きた料理を体験できる。これは大きな醍醐味ですね。うちのキッチン・チームもNYの食しか知らないシェフもいるので学びに繋がり、スキルの交換もできますし、チームのレベルアップになっていると思います」

チェットさんとの今回のコラボは?

「インド料理は正直、僕にとっては未知のキュイジーヌですが、そのエキスパートたちとのコラボは非常に刺激的で、得難い体験でした。例えばスパイス使いに刺激されて、自分も少し冒険をしてみたり、アイディアを伝えるとスパイスを勧めてもらえたりして面白かったです。そしてチェットのインド料理はモダンなので、僕のモダン・フレンチとは特に合わせやすいと感じました」

コラボで気をつけるべき点は?

「自分のアイデンティティや方向性を示しつつも、共同作業の流れを崩さないようにしていくことでしょうね。互いにバランスを見ながら、無理のないコースを創り上げること。そして僕自身は、お客さんと触れ合いを大切にしています」

にこやかにそう語る長江シェフは、確かに全てのお客さんと話をするよう心がけておられた。「遠方から来るシェフに、興味を持つ方も多いんですよ」。

アミガサダケを添えたラム・チョップとスイートブレッド入りカイマ・ライスはチェットさんのシグネチャー料理。左はキャビアを取り分けるチェットさん。
ジンジャー・ジュレと人参チップスを添えたマンゴーと人参のアイスクリームは長江シェフ。17世紀の王様のリクエストにより生まれた卵をかたどったサフランのデザートはチェットさん。

コラボならではの救済エピソードもある。

フライト前に店と自宅を忙しく行き来している中で、長江さんは枝豆フムスをのせる和風クラッカーを入れたスーツケースをタクシーの中に忘れてしまったそうだ。ロンドンに到着後、チェットさんに相談するとヒヨコ豆の粉を使ったインド風クラッカーを勧められ、結果的に枝豆フムスのコンセプトによく合う、絶妙のコラボになったのだという。

大阪で生まれ、ジョエル・ロブションの弟子としてフランスで修業をしたマンハッタン・ベースの日本人フレンチ・シェフ。そしてインドとロンドンのルーツを持ち、物理学博士でもあり、英国を代表するレストランで研究開発シェフとして長年活躍してきたインド料理シェフ。全く異なるバックグラウンドとスキルを持つトップシェフが、同じ厨房に立つ意義、そして楽しさを、お分かりいただけただろうか。

今回は遠距離コラボだったため料理を共同開発するまでには至らなかったが、互いの経験を織り交ぜたそのコースはまるで違和感がなく、むしろ互いへの敬意だけが見て取れる素晴らしい融合だった。コラボはシェフ同士の相性も大きい。彼らの新たな冒険が、今から待ち遠しい。

BiBi
https://www.bibirestaurants.com

l’abeille
https://www.labeille.nyc

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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