「基本を知らないとオリジナルは作れない。基本を学べば、自分を信じられる確固たる芯ができる。料理にはその芯が必要だ」。「ラ・ボンバンス」の料理長・岡元信さんは、ずっとそう思っていたという。でなければ、いくら表面上で体裁よく飾り立てたところで、中身ががらんどうの張りぼてになってしまうからだ。この考えは、今も変わらない。
「たとえば、100のものを作ろうとした時に、1~99のパーツは崩してはいけない基本の要素で、そこに自分のオリジナルを加えていきます。ただし完成が100とは限らなくて、101や108のものができ上がることも。だからこそ、完成したものはおもしろいし、革新があるのです」
新たに加えるオリジナルの部分には、縛りやルールはないという岡元さん。ニンニクやパン粉など、日本料理では通常使わない食材も、おいしくなるのならば使う。調理法にいたっても、理にかなっていれば、どんなジャンルのものでも取り入れる。
「まねをするだけでは単なるコピーになってしまいますから、そこに僕らしさを加えます。それがオリジナリティですよね。オリジナルがあるところに人は集まる。僕はそう思っています」
食材選びや調理法にルールはないと言い切る岡元さんだが、これだけは欠いてはならないと考えている信条がある。それは、「おいしいものを作ること」だ。料理には、美しさや大胆さも必要だが、とにかく「おいしい」が最重要事項だという。あまりにも当たり前のことで拍子抜けしてしまうかもしれないが、この考えは、岡元さんの料理のすべてに一貫している。
たとえば、旬の食材を取り入れることを大切にしているのはその表れだ。旬のものこそが、その時に一番おいしいと感じるからだ。
「夏のスイカや冬のユズは、その季節に口にするからこそおいしいのです。たとえ同じスイカだとしても、冬に食べたらおいしくはない。珍しいからといって、冬に夏の食材を使うようなことは絶対にしません」
日本料理で粋とされる「はしり」についても、「たとえば、タケノコならば、1月頃からはしりとして出始めます。でも、この時期に、体はタケノコを欲していないと僕は思うんです。春の風が吹いて春の香りがしてきた頃に、僕は出したい。その頃にはスーパーでも出回り、珍しさはないかもしれませんが、確実に体は欲しているはずです。これが本当のはしりではないかと思っています」と語る。
また、店に名物料理はないという。「そもそも、日本料理は季節ごとに出てくる食材を使うものだから、スペシャリテは作れないと思うんです。季節ごとのスペシャリテがありますから。こうしたことを、いつも忘れないようにしています」
奇をてらうわけでもなし、だからといって伝統に縛られるわけでもなし。岡元さんのベクトルは「おいしいかどうか」だけに向いていた。
今後の日本料理のあり方についての考えを問うと、昨年、新たなチャレンジとして香港に出店し、外から日本を見たことで、「すごい国だな」と感じたそうだ。それは、建築物や衛生面であったり、繊細さや考え方であったり。だから、日本人はもっと世界の人を受け入れたり、外に向けてパフォーマンスをしてもいいと話す。そして、こう付け加えた。
「自信を持って、怖がらないで、謙虚に、笑顔でね」
ラ・ボンバンス
La BOMBANCE
東京都港区西麻布2-26-21 B1F
03-5778-6511
● 18:00~25:00(最終入店22:00)
● 日・祝休
● 30席
www.bombance.com
荒巻洋子=取材、文 林輝彦=撮影
本記事は雑誌料理王国第272号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第272号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。