英国ストリート・フードの頂点に立つのは? Hackney Bridgeにて白熱の決勝戦


ロンドンのワイルドな倉庫街を貫く運河沿いに今年、大規模な屋台マーケット「Hackney Bridge」が完成した。このビッグ会場に英国全土から選ばれたトップ屋台ブランドが集結。チャンピオンの座を狙うアワードを競った。

英国の外食シーンにおいて、ストリート・フードは年々大きな役割を担うようになってきている。新しいアイディアはストリートから生まれ、消費者に育まれファン層を築き、投資家のバックアップで新事業へと展開していく。その流れを後押ししているのが、2009年にフード・ジャーナリストによって創設された「英国ストリート・フード・アワード」(British Street Food Awards、以下BSFA)だ。

BSFAは英国全土、隅々まで地方ビジネスをすくい取り、屋台ヒーローを讃え、成長を助けることを目的に立ち上がって以来、大きな成功を収めている。その勢いは止まらず、同じ運営団体Food Mutinyが2017年にヨーロピアン・ストリート・フード・アワードを、2022年にはUSAストリート・フード・アワードを立ち上げるなど、ビジネス規模も年々拡大を続けているようだ。

そのBSFAの2023年決勝戦が、8 月 18 日から3日間に渡って東ロンドンのハックニー・ウィック地区の新マーケット施設、Hackney Bridge / ハックニー ・ブリッジにて開催された。初期段階のエントリー数は数千。スコットランド、ウェールズ、イングランド各地で熱戦が繰り広げられ、各地域から今年は16の屋台ブランドが勝ち抜いて決勝戦のために首都に乗り込んできた。

会場のハックニー・ブリッジは、旧オリンピック会場にも近い運河沿いの新たな商業施設だ。
日が傾くにつれ次第に活気付いていくBSFAの選考会場。
ウェールズ地方の地元産食材で作るヴィーガン・メキシカン「Cosmo’s Mexicana」。

有料の決勝イベントでは各地域のチャンピオンが運河沿いの広場に集まり、心を込めて自慢の屋台フードを披露。一般客の投票のほか、アワード創設者のリチャード・ジョンソンさん、料理研究家でミュージシャンのソフィー・エリス=ベクスターさん、このコラムでもご紹介した東ロンドンのミシュラン・スター・レストラン「Behind」のアンディ・ベイノンさん、同じく東ロンドンのミシュラン一つ星シェフ、トム・ブラウンさんなど食の専門家の審査で、総合チャンピオンが選ばれた。

決勝戦に挑んだのはイングランドからブリオッシュ・ロールの「Smoking Lobster」、マレーシア料理の「Syiok-Lah」、イラク料理の「Amani Kitchen」、ヴィーガン・フィッシュ&チップスの「Saving Nemo」、ダンプリングの「Oi Dumpring」など、スコットランドからネパール料理の「Choola」、ケルト料理の「Bia」など、ウェールズからタコスの「El Cabron Tacos」やウェルシュ・ケーキの「Day’s Bakes」などを含む、合計16の屋台ブランド。

筆者も一票を投ずるべくプレス招待日に足を運んだが、地方チャンピオンの屋台フードをいただく貴重なチャンスでもあり、一堂に会したキラ星のごとき食のクラフトに圧倒されることになった。一晩に7つの屋台を試してみたが、ジャンルが異なるため甲乙をつけがたい。白熱の地方戦を勝ち抜いてきた強豪揃いだけにクオリティは遜色ない。つまり選考基準をどこにおくかは、個人の裁量に委ねられるということだろう。最終的な決め手は、好みや自身のバックグラウンドもあると思うが、究極的にはストリート・フードらしい「ソウル」を感じるかどうか、ではないだろうか。

左上から時計回りにSmoking Lobsterのタイガーエビとパイナップル・チャツネのブリオッシュ・ロール、Syiok-Lahのナシ・レマク、Oi Dumplingのフィッシュ・ダンプリング、Amani Kitchenのサフラン・チキン+ピスタチオ・ライス。屋台料理天国。
筆者が投票したケルト料理の「BIA」は、ベスト・メイン・ディッシュ賞を受賞! ハーブが香るラム肉の煮込みにフェンネルをつけあわせ、アイルランドらしいフラット・ブレッドを添えたソウルフルな一品だった。左の写真はBIAのインスタグラム@bia_edinburgh から。

8月20日の最終日に審査員による投票が行われ、総合チャンピオンが決定。その他にも一般投票部門(ピープルズ・チョイス)、未来食賞、起業家賞、サステナビリティ賞、スパイス賞などが設けられ、それぞれの持ち味が表彰された形だ。

ピープルズ・チョイスはイラク料理のAmani Kitchenが受賞。そして栄えある審査員賞(総合チャンピオン)は、夫婦デュオによるスコットランドの直火ネパール屋台、Choolaが受賞した(冒頭写真=オーナー夫妻)。パンチのあるスパイス使いが肝となるアジア料理はもともとストリート・フードに適しているが、審査員がほぼ全員ネイティブのイギリス人であるため異国情緒に刺激された結果なのではと想像している。チャンピオンはこの後、ドイツで開催されるヨーロッパ杯に出場し、さらに優勝すれば2024年に開催予定のUSA杯にも出場することになるそうだ。

BSFAは創設以来、優れたベンチャー・ビジネスを育てる役割を担っている。例えば2009年初年度に優勝したハンバーガーのMEATliquorは、現在ロンドンと地方に11店舗を展開する成功ぶり。2017年に優勝し、ヨーロッパ杯も制したチキン・ウィングのWingmansは、ロンドン市内に3店舗目をオープンしたばかりだ。

会場であるハックニー ・ブリッジそのものが、実は屋台&バー文化を大きく育むことを目的とした施設でもある。屋内外のスペースはゆうにサッカー場 3つ分の大きさを誇り、ロンドン最大のビア・ガーデンの一つとして注目されている。ここのレジデント屋台は味、実力ともにトップクラスのブランドが選ばれ、ロンドンの屋台シーンの今を映している。

屋台フードは、間違いなく今後もイギリスのフードシーンを牽引する力強いトレンドであり続けるだろう。

ハックニー・ブリッジのレジデント屋台である南インド料理Tamilaは、姉妹店が市内でも大人気。
屋内のバー・スペース。©Hackney Bridge PR

British Street Food Awards
https://britishstreetfood.co.uk

Hackney Bridge
https://hackneybridge.org

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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