「ゴ・エ・ミヨ 2023」受賞者インタビュー ② 期待の若手シェフ賞 「オーベルジュ オーフ」糸井章太さん 「アシッド ブリアンツァ」児玉智也さん


『ゴ・エ・ミヨ』は、レストランの評価本でありながら、レストランに寄り添う姿勢を重んじることで知られる。特に「新しい才能の発見」に力を入れ、かつてのジョエル・ロブションやギィ・サヴォワのような才気あふれるシェフをいち早く見出してきた。そうした意味で、今後の活躍を期待させる新進気鋭の料理人に贈られる「期待の若手シェフ賞」は、注目度大。ガストロノミーの未来を担う受賞者の2人に話を聞いた。

東京「アシッド ブリアンツァ」の児玉智也さんは、フランス料理の基礎に、デンマークで学んだモダンノルディックの発酵を活かした料理で独創的な世界を創り出している。コースを通して、発酵による「酸」と「旨み」で意表を突く料理展開を見せており、その溢れる才気が注目を集めている。

石川「オーベルジュ オーフ」の糸井章太さんは、2022年7月、小松市で廃校になった小学校の校舎を活用する「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任。周辺の野山や河原で採取した食材も織り交ぜ、確たるフランス料理の基礎の上に独自の里山キュイジーヌを生み出している。料理のみならず、若いスタッフを率い、地域再生プロジェクトに取り組むリーダーシップも高く評価されている。

受賞後、リラックスした顔を見せる児玉智也さん(左)と、糸井章太さん(右)

――「期待の若手シェフ賞」、おめでとうございます。まずは受賞の感想からお聞かせください。

児玉智也さん(以下、児玉) お店は去年の6月にオープンしたのですが、この賞はぜひ取りたいと思って頑張ってきたので、とても嬉しいし、ホッとしています。フランス料理をやっている人間にとって『ミシュランガイド』と『ゴ・エ・ミヨ』はひとつの目標。フランスで働いていたころから意識していましたし、食べ歩く際にも参考にしていました。

糸井章太さん(以下、糸井) 僕も、素直に嬉しいですね。去年の7月 にオープンしてから、本当にいろいろな方にお世話になって今があります。レストランのチームみんなでいただいた賞だと思っています。

――「オーフ」はチームワーク良さも有名ですね。

糸井 そうですね。平均年齢25歳くらいの若いチームですが、山間部の自然豊かな場所なので、みんな野生にかえってワイワイと(笑)。レストランだけでなくカフェや宿泊施設も運営しているので大変ですが、だからこそチームの力が大事だと感じています。

――児玉さんは東京都心、糸井さんは石川県を拠点にされています。それぞれの立場から、日本のガストロノミー界をどう見ていますか。

児玉 地方から食の豊かさを発信するローカルガストロノミーの流れは、今後も続くと思っています。僕もいずれは生まれ故郷の北海道に帰ると決めています。よいレストランがあれば、距離をものともしないお客さんも、インバウンドを含めて増えていますよね。

――児玉さんからは東京の話が出るのかと思っていました(笑)。

児玉 いや、東京はすごく楽しいですよ!(笑) 格式のあるグランメゾンや、東京でしか成立しないような尖ったレストランがいくつもありますし、ガストロノミーを求めるお客さんの層が厚いですよね。食の感度が高く経験も豊富な方が多い。

ただ、わざわざ地方のレストランに食べにいくのもそうした感度の高い方だと考えると、一概に東京が有利とは言えなくなっているのではないかと。切磋琢磨して成長できる場所であるのと同時に、ともすると埋もれてしまう難しさもあります。僕自身、味だけでなくしっかり個性を打ち出していかなければと思います。

故郷・北海道での出店を視野に入れつつ都心で経験を積む

――糸井さんは、いかがですか。

糸井 僕の場合、レストランのある石川県が生まれ故郷というわけではなく、ご縁があって仕事をしているのですが、いろいろな意味でやりがいがあります。都会に比べると、やはり食材の産地が身近で鮮度の高いもの、その土地にしかないものを使えるということが、料理人にとって大きな魅力ですね。以前から、“食材に旅をさせる”ことにずっと違和感をもっていたので。東京でも石川県の食材を使うことはできるけれど、どこか無理があるというか。

いまの時代「おいしい料理」とひと口に言っても多様ですよね。僕自身は、「なぜこの食材を使うのか」「なぜこういう料理にしたのか」というストーリーを重視しています。そうした必然性のある料理を素直に作れる環境という意味で、地方に魅力を感じています。

ただ、集客面はやはり大変です。先ほど児玉さんが言われたように、都会はお客さんの層が厚い。食に興味があり、お金持ちで、意識も高くて、という方がいくらでもいる。地方では、そういう方に「わざわざ時間とお金をかけて」食べに来てもらえるレストランをつくっていかなければなりません。

いかにして人を呼ぶか、地域のみなさんと連携してその方法を考えるのも、地方の醍醐味かなと思います。例えば、お金より時間を重視する富裕層の方向けに、ヘリコプターで来られるような環境を整備するとか。「不便」なことがネックなら、そこをクリアすることで、地域を変えるきっかけになるかもしれない。レストランを入口に、大きなイノベーションが起こせるかもしれません。児玉さんも、いずれ北海道に出店されるということは、そのあたりのことを考えているんじゃないですか?

廃校をオーベルジュとして活用する官民連携プロジェクトの中核を担う

児玉 そうですね。実はすでに場所は決めていて、新千歳空港から車で15分くらいの距離なんです。以前、とてもお世話になったレストランのシェフの土地なんですが、アクセスのいい場所を探していたので幸運でした。北海道も、ちょっと離れた場所にいい店がポツポツと点在しているので、それを空でつなぐとかできたらいいですね。

糸井 北海道、いまアツいですよね。いいレストランがたくさんあるし、これからが楽しみです。

――少し前まで、地方出身のシェフは東京か大阪の有名店か、海外修業で箔をつけ、最終的に東京か大阪で出店し名をあげるというのが定番の“成功パターン”でした。児玉さんが「いずれは北海道に」という主な理由は?

児玉 そもそも地元大好き人間で(笑)。先ほど糸井さんが言っていたように、食材に近いことも大きな理由です。歩いて行ける距離に畑があったりして。素材も土地も、ある程度コストを抑えながら、やりたいことができるのが地方だと思います。もちろん、言葉でいうほど簡単なことではないですが。

いま東京で仕事をしているのも、厳しいお客さんを相手に経験を積み、知名度を上げて、北海道でいいスタートを切りたいからです。東京に来て、半年くらいはずっとポップアップをやっていたんですよ。いろんな場所を借りて。そのとき、ブリアンツァのオーナーの奥野さんに声をかけていただいたんです。「料理は自由にやっていい」と。

発酵による酸を活かした「アシッド ブリアンツァ」の料理

――お客さんの反応はいかがですか。

児玉 おおむね、いい評価をいただいているんじゃないかなと思います。最大14席というほどよい席数なので、料理は全部自分がサーブして、反応をダイレクトに感じています。糸井さんのところは大きいですよね。

糸井 ダイニングで20人、個室でマックス10人入るので、大きいほうですね。ただ、これまでも同様のサイズ感の店で働いてきたので、自分にとって大きすぎるということはないです。キッチンも部門ごとになっているようなところで働いてきたので、チームでの仕事にも慣れているというか、性に合っている気がします。

テーブル席とカウンターを備えた、元は職員室だったダイニング

それから僕の場合、料理中にお客さんと会話をするのはあまり得意じゃないんです。終わってからならいくらでも話せるのですが。コースで10品以上あり一斉スタートでもないので、営業中はスムーズに皿出しをすることに集中したいです。

河原の石を器にし、沢蟹や川魚を使う「オーベルジュ オーフ」の料理

――話は変わりますが、お二人の最近の関心事について聞かせていただけますか。例えば、気になるレストランとか。

児玉 和食、鮨、天ぷら。フレンチは……けっこう同じところばっかり行っちゃいますね。自分の好きなところだけ。例えば、アビス(代官山)、ラルジャン(銀座)、クローニー(東麻布)、キキ ハラジュク(原宿)。

――嗜好がわかる気がします。和食に行くのは何か狙いがあってのことですか?

児玉 フレンチは大好きですが、和食ほどの衝撃を受けることはまれで、学んだことのない料理のほうが勉強になることが多いです。食材の扱い、火入れもフレンチとは違う、日本料理特有のアプローチがある。日本の食材を扱ううえで、もう勉強になることばかりです。

糸井 平日は外食できないですね。身近に店がないですし。休みが取れたら東京や大阪、京都などに行くことも。和食も行きますし、めちゃめちゃクラシックなフレンチ、イノベーティブ、中華、ベトナムとかタイ料理も興味があります。

北陸にもいい店はありますが、それぞれ離れてるんですよね。お客様は「昨日はレヴォ(富山)に行ってきた」「明日はレスピラシオン(金沢)に行くよ」と、周遊している方が多い。僕らは“北陸のガストロノミーツーリズム”って言ってるんですけど(笑)。

――目標としている人、憧れの料理人さんはいますか?

児玉 まだお会いしたことがないですが、ヴィラ アイーダ(和歌山)の小林寛司さん、レヴォ(富山)の谷口英司さん。

――ローカルガストロノミーの2トップですね。糸井さんは?

糸井 尊敬する料理人はたくさんいますが、企業のトップであるとか、チームを率いているような人に興味があります。チームビルディング、オペレーションを学びたい。

――シェフによっては、ある程度の人数がいると自分の意にそぐわない人も出てくるから、なるべく小規模とか、なんなら1人でやりたいという人も多いですが、糸井さんは違うのですね。

糸井 そうですね。自分がいなくなったら終わり、という風にはしたくない。レシピはあっても作れる人がいないと意味がないので、接続可能な環境をつくっていきたいと考えています。教育分野にも興味があって、食育にも取り組んでいるので「伝える」ことにも興味があります。

――最後にお互いに一言

糸井 北海道、行きたいです(笑)。

児玉 ありがとうございます。がんばります! 僕も糸井さんのように、東京や海外からゲストを呼べるようなレストランを作りたいと思います。

エールを交換する児玉さんと糸井さん

児玉智也 Tomoya Kodama

1990年、北海道生まれ。調理師専門学校卒業後、札幌「ジャルダン・ポタジエ・テラニシ」「レストラン ミヤヴィ」を経て、26歳で渡仏。オンフルールの「サカナ」、デンマークの「カドー」で研鑽を積む。帰国後、フリーランスでポップアップやコラボ活動をしている際に、東京「ラ ブリアンツァ」の奥野義幸シェフと出会い、2022年6月より「アシッド ブリアンツァ」のシェフ。近い将来、北海道での開業も見据えている。

糸井章太 Shota Itoi

1992年、京都府生まれ。調理師専門学校を卒業後、兵庫「メゾン ド ジル 芦屋」、ブルゴーニュ「レストラン グルーズ」などで経験を積み、帰国後、兵庫「メゾン ド タカ芦屋」に入店。2018年、日本最大級の料理コンペティション「RED U-35」で、史上最年少の26歳でグランプリを受賞。2022年、米カリフォルニア「マンレサ」「ザ フレンチ ランドリー」で研修後、同年7月開業の「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任。

text:伊藤由起, photo, coordinate:江藤詩文 Shifumy

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