地域の人と食を結び、生活者にも旅人にも魅力ある町へ 土地に刻まれた歴史と文化を活かす地域開発 兵庫県丹波篠山市 23年8月号


400年前に形成された藩政時代の町割が今も残る、篠山の城下町や市内の宿場町。だが、地域の人口減少や空き家の増加といった課題も抱えていた。その解決のために始まったのが、“地域文化を生かすエリア開発”だ。地域再生の鍵は、飲食店をはじめとする魅力的な事業者の有無にあるという。

古民家で地域の食を味わう体験が地域文化の継承につながる

江戸時代に篠山城築城に伴い城下町が形成されるも、近年、人口減少による過疎化で空き家が急増。「このままでは地域の暮らしが成り立たなくなる」と危惧されていた兵庫県篠山市の中心街。そこに2015年、あるホテルが誕生した。「篠山城下町ホテルニッポニア」。“町に泊まる”がコンセプトの分散型ホテルだ。宿泊客は宿を出て地域を歩き、買い物や食事、人々との交流を楽しむ。一帯は賑わいと経済効果の創出に成功し、一躍、地域再生の成功事例となった。

NIPPONIA事業の原点となった丸山集落。

漆喰壁に瓦屋根の古民家が連なる城下町地区をホテルに見立て、点在する古民家約20軒を改修。客室棟や店舗として再生した仕掛け人は、丹波篠山を拠点に全国各地で「ニッポニア事業」を展開する株式会社ノオトの藤原岳史代表。ニッポニア事業とは、古民家を活用した地域再生ビジネスを指す。失われゆく地域の文化を次世代に継承し、街並みと暮らしを維持することがミッションだ。

西京街道沿いの宿場町・福住の「トラットリア・アル・ラグー」は、江戸時代の古民家を改装。

藤原さんが「ニッポニア事業の推進に必須の要素」と語るのが食。
「食は土地の風土や伝統が培った一つの文化。地域の歴史が息づく古民家で、その地域の食を味わう体験は、私達が目指す地域文化の継承にもつながります」

野趣溢れる味わいの「猪ラグーソースのパッケリ」は赤ワインと好相性。

また力のある料理人は、地域に人を呼びこみ、伝統料理を進化・発展させる存在だと藤原さん。
「農作物を加工販売する6次産業化は、地域創生の切り札とされていますが、『実力派の料理人が腕を振るった、その地域ならではの食』は、いわば6次産業化の究極の形。地域の持続可能性を高めるトリガーともなりえます」

「アル・ラグー」の兼井夫妻。

どの古民家にどの事業を割り振るか地域のバランスを踏まえて決定

篠山城下町を歩くとフレンチ、蕎麦店、和食や洋食店など、古民家を活用した魅力的な飲食店が次々に現れる。このラインナップは偶然の産物ではなく、綿密な計画によるものだ。
「地域の空き家を洗い出す一方、エリアマネジメントの観点から、各戸にどんな事業を割り振るか、事前に決めるのが我々の手法。一つひとつの物件は『点』でしかない。多彩な店を組み合わせて『面』とすることで、地域全体の魅力を底上げできます。同時に『地域が望まない業態が入り込む』『類似業態が集中する』事態も回避できます」

事業者の誘致方法も独特だ。ニッポニアでは、地域住民とワークショップを何度も重ね、町づくりの方向性を定める。その過程で、いち早く情報を掴んだ感度の高い入居希望者が連絡してくる。「ただ早い者勝ちとはせず、地域との相性を見定めて慎重に入居者を決めます。入居後のミスマッチを防ぐためです」

物件取得時は、事業者を徹底的にサポート。古民家の賃借や購入、改修工事、融資や返済などの業務は、ノオトが設立する地域のまちづくり会社が一括して担い、物件を各事業者にサブリースする形をとる。そのため、事業者は月々の家賃を支払うだけで、自分の店を持てる。

では篠山城下町では、実際にどんな飲食店が古民家を活用して営業を行っているのか。2つの店を訪ねた。まず向かった店は「ルアン」。ニッポニア事業では、その地域の「顔」である由緒ある古民家を、フロントとダイニングの機能も兼ねたメインの宿泊棟とするケースが多い。篠山城下町におけるそれが、明治期の資産家の邸宅を再生した「オナエ棟」。ルアンはその1階に位置するフレンチだ。

築100年を越すONAE棟。
風格漂うダイニング。中庭の奥は客室。

近畿圏の商家に多い虫籠窓(むしこまど)などの意匠はそのままに、モダンに設えられた空間で供されるのは、丹波の恵みを使った本格フレンチ。この日のメインは近くの山で獲れた鹿肉のポトフ。その身はしっとりと柔らかく、レバー臭のない、さわやかなうま味が広がる。「ジビエ初心者も食べやすいよう、香りや味のクセが少ないごく若い鹿の肉を猟師から直接仕入れました」とシェフの大西健さん。こうした生産者との繋がりに、大いに創作意欲を高められると話す。

春先のメイン「鹿のポトフ」。丹波産の立杭焼の器で供される。

かつては西洋の食材を使うことにこだわっていたが「ここで味わってほしいのは、この土地の風土。丹波で手に入らない食材なら、無理に使わなくてもいいと思うようになりました」。開業から8年。地元客が増えてきたのも嬉しい変化だという。

「地元の食材や器などの魅力をお客様に伝えるのも楽しい」と大西さん。

次に開業3年目の「まえ川」へ。篠山市出身の店主・前川友章さんが作るのは「幼い頃に食べ、美味しさに目を見開かされた祖母の味を、少しだけ洗練させた山里料理」。春は山菜や筍、秋ならキノコやムカゴ、家族総出で栽培し、天日干しした米、父が仕留めた猪……。この地が育んだ素材を自家製の調味料でシンプルに味付けした、滋味深い料理でファンを拡大中の店だ。

家族で作った天日干しのコメを土鍋で炊いたご飯と味噌汁。
自身も畑に出て、猟も担う。「都会での開業は頭になかった」と前川さん。

修業先の京都から戻った33歳のとき、篠山城下町内のチャレンジショップ(空き店舗活用と創業者支援を目的に、家賃補助を受けつつ営業できる店舗)に入居。仕事ぶりを評価したノオトの勧めを受け、36歳で現店舗に出店した。店は築150年余りの商家。裏庭まで続く走り土間の構造を生かし、手前側をカウンター式の厨房に。その奥に塊肉や魚をさばける一角を設け、さらにその奥のスペースを、自家製の味噌、漬物、塩漬けした魚や野菜などを保存する発酵蔵に改装した。「望み通りに改装してもらえた上、支払いは家賃のみ。おかげで料理に集中でき、毎日が充実しています」と前川さん。

「まえ川」の個室。

ニッポニア事業は現在、全国30ヵ所以上の地域に拡大。同じ篠山市内の宿場町・福住地域でも同事業が展開中で、神戸で長く営業してきた人気イタリアンバールが同地に移って以降、古民家を活用した飲食店の開業が続いている。さらに市内の別の地域では、ミシュランの星付き店が今後、営業開始の運びという。地域再生の必要性がより増す今後、空き家と食とのコラボレーションによる地域活性化への期待は、より高まっていきそうだ。

株式会社NOTE
代表取締役 藤原岳史

IT企業勤務を経て「地方をサポートする仕事がしたい」と篠山市にUターン。限界集落の空き家を再生し、集落住民が運営する一棟貸しの宿「丸山集落」を開業し、初年度から黒字を達成。以来、古民家空き家を“面的”に再生・活用することで人を呼び、地域の文化・暮らしの継承を目指す地域活性化事業NIPPONIAを全国で展開中。

text: Yuko Hatachi photo: Shohee Murakawa

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