「ゴ・エ・ミヨ 2023」の受賞者が発表 今年は東北が加わり初の全国版に


フランス発の美食ガイド『ゴ・エ・ミヨ』。その日本版第7号にして初の全国版となる『ゴ・エ・ミヨ 2023』(発行:ONODERA GROUP/幻冬舎より発売中)の発刊を記念して、去る3月13日、授賞式&プレス発表会が東京大手町で開催された。当日は、料理人、ソムリエ、生産者など、総勢12人の受賞者が集まり、9つの賞の授賞式が執り行われた。さて、その栄えある受賞者とは?

『ゴ・エ・ミヨ』は、2人のフランス人ジャーナリスト、アンリ・ゴと、クリスチャン・ミヨが1972年に創刊した、パリ生まれのレストランガイドブック。70年代にいち早くヌーベルキュイジーヌを見出し評価したことでも知られる。食を愛する人々からは、ミシュランガイドの“赤”に対し“イエローガイド”と呼ばれ、現在では世界15カ国で展開されている。店の評価は20点満点中0.5点刻みの点数と、それに応じたトック(仏語でコック帽の意)の数で行われる。

アジア地域唯一の展開国となる日本版は、2017年に刊行。7号目となる2023年度版では、新たに東北地方が加わり、世界的な美食ガイドでは初の日本全国版として、47都道府県・501店舗のセレクションとなった。また、「今年のシェフ賞」ほか、ソムリエやサービス、生産者など、9つの賞、12名のインタビューも掲載されており、全国を食べ歩くフーディーズにとって必読の書となっている。

賞の概要と今年の受賞者12人は以下の通り。

◆今年のシェフ賞

持てる才能を縦横に発揮して、最も斬新で完成度の高いインパクトのある料理を提供している料理人。

「日本料理かんだ」神田 裕行さん 東京・日本料理

神田さんは、2022年2月に自らの店を虎ノ門ヒルズへ移転。建築家・杉本博司氏の創り出す和の空間で、引き算による「感性と味覚のぎりぎりのところで成立する繊細な日本料理」を追究。堪能な語学を活かし、日本料理を海外にも発信し、NPO法人「FUUDO」では料理人として食の未来を考えるなど、日本の料理界を牽引する存在であることが評価された。

◆明日のグランシェフ賞

確固たる基本技術の上に独自の料理世界を築き、優れた才能として日本の料理界を牽引することが期待される料理人。

「楽・食・健・美 -KUROMORI-」黒森洋司さん 宮城・中国料理(左)
「セザン」ダニエル カルバートさん 東京・フランス料理(右)

黒森さんは、2011年の東日本大震災後、「料理人としてできること」を自らに問いかけ仙台へ移住。復興支援にも努めながら宮城や三陸の産物を活かした独自の中国料理を提供し、全国からゲストを集めつつ、各地のシェフとも交流を深め、次世代の料理人育成にも熱意を燃やしている。

カルバートさんは、全国の産地を訪ね、日本の風土と食材への理解を深め、ロンドン、ニューヨーク、パリ、香港で身につけた料理技術と、氏ならではの色彩感覚や精細な味覚を生かした料理で支持を得ている。日本の食材に新たな光をあて、フランス料理界に新風を吹き込む存在であることが評価された。

◆期待の若手シェフ賞

才能と情熱、技術とが今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人。

「オーベルジュ オーフ」糸井章太さん 石川・フランス料理(左)
「アシッド ブリアンツァ」児玉智也さん 東京・イノベーティブ(右)

糸井さんは、2022年7月、石川県小松市で、廃校になった小学校の校舎を活用する「オーベルジュ オーフ」のシェフに就任。近くの野山や河原で採取した食材も織り交ぜ、確たるフランス料理の基礎の上に、独自の里山キュイジーヌを生み出している。料理のみならず、若いスタッフを率い、地域再生プロジェクトに取り組むリーダーシップも高く評価されている。

児玉さんは、フランス料理の基礎に、デンマークで学んだモダンノルディックの発酵を活かした料理で独創的な世界を創り出している。コースを通して、発酵による「酸」と「旨み」で意表をつく料理展開を見せており、その溢れる才気が注目を集めている。

◆トランスミッション賞

培ってきた知識と技術を、時に国を超え、世代を超えてトランスミッションする(=伝える)ことに多大な貢献が認められた料理人。

「レストランバスク」深谷宏治さん 北海道・スペインバスク料理

深谷さんは、バスクの人々が気軽に街歩きを楽しみながら飲み、食べる文化に感銘を受け、「函館スペイン倶楽部」を結成。また、サンセバスチャンが美食を核に発展する姿を目の当たりにし2009年に「世界料理学会 in HAKODATE」を開催、実行委員会代表を務めている。料理人自身が取り仕切る学会は昨年10回目を開催。日本の料理界での調理技術や情報の交換、交流の場として牽引してきた深谷さんの功績は高く、その大きな貢献に対し、この賞が贈られた。

◆ベストパティシエ賞

デザートの独創性と個性を特に際立たせ、かつコース料理の締めくくりにふさわしいレストランデザートを提供しているパティシエ。

「エンメ」延命寺美也さん 東京・フランス料理

延命寺さんは、デザートではあまり使われないフォアグラなど、料理の食材も織り込んだ食べ応えを感じるデザートと、繊細で華麗なデザートとの組み合わせを提案し、新たな魅力を発信。また、パティスリーの監修も手がけており、そのプロデュース力も高く評価されている。

◆ベストソムリエ賞

ワインの知識やワインリストの構成のみならず、卓越した接客術を持ち、常にお客様重視の姿勢でサービスを行うソムリエ。

「エスキス」若林英司さん 東京・フランス料理

若林さんは、「エスキス」総支配人兼ソムリエとして、リオネル・ベカシェフの繊細な味わいと色合い、香りに満ちた料理に、該博な知識と豊富な経験によるワインマリアージュを展開。また、各種メディアで料理と様々な飲料の組み合わせを提案。料理と飲みもののマッチングから生まれる新たな愉しみをわかりやすく伝えていることが高く評価されている。

◆ベストサービス・ホスピタリティ賞

レストランや料理店において、その店の世界観を的確に伝える最終的な接点として、お客様に寛ぎと深い感動の記憶を残すサービスを展開されている方。

「レストラン ウオゼン」井上真理子さん 新潟・フランス料理

井上さんは、マダム、ソムリエールとして、まさに「自宅にゲストを迎えるような」サービスを展開。個性的なコース料理に合わせるワインペアリングには定評がある。時に、シェフの漁や山野草の採取にも同行し、自然界の変化を肌で感じながら持続可能な食への思いを共有しており、シェフとサービス担当という2人体制によるレストランのサービス・ホスピタリティにおける1つの望ましい姿として評価、賞賛されている。

◆トラディション賞

土地が育んできた伝統文化を守り、時に挑戦を試み、次世代へつなぐ知識と技をたゆまぬ努力で磨き続ける職人または料理人。

「とおの屋 要」佐々木要太郎さん 岩手・日本料理

佐々木さんは、どぶろく造りをきっかけに「稲作文化を掘り下げれば世界と戦える」と、在来米の「遠野1号」を無農薬無肥料で栽培。醸した純粋極めるどぶろくは、スペインの名店「ムガリッツ」などが採用し、世界で評価されている。また、オーベルジュでは、地元の田圃の畦道にあるような何気ない食材に、伝統の発酵などによる旨みを纏わせた料理で国内外の注目を集めている。

◆テロワール賞

土地の風土や食材、育まれてきた文化を尊重しつつ、食材または料理を通じて独自の挑戦を試みている生産者または料理人。

「シェフズガーデン エコファーム・アサノ」浅野悦男さん 千葉・野菜農家(左)
「アル・ケッチァーノ」奥田政行さん 山形・イタリア料理(右)

浅野さんは、野菜が生まれた土地の環境を再現することに努め、余分な栄養を与えない農法で、野菜そのものの力を引き出し、シェフ・料理人から絶大な信頼を得ている生産者。近年は、作業場にテストキッチンを設け、収穫した野菜の温度を変えて試食するなど料理する側の視点に立ち、自身をレストランの一員と考え、意見交換を行い、料理に、栽培にフィードバックしている。

奥田さんは、2000年の「アル・ケッチァーノ」の開店とともに、当時はあまり目を向けられることのなかった「テロワール」を活かすシェフとして紹介され、全国の食通から注目される存在に。地域と食をテーマとしたプロデュースも多く手掛けている。2022年に移転した新店舗は、地域の自然を学ぶ「ガストロノミーツーリズム」の拠点として、また、全国の若手料理人や地域の生産者も含めた研修の場としての役割も担っている。

こうした受賞者、掲載店をざっと見ても、今年は『ゴ・エ・ミヨ』の精神ともいえる「新しい才能の発見」や「その土地ごとの食文化“テロワール”」を重視したラインナップであることがうかがえる。海外はまだちょっと……という人も、アフターコロナの食べ歩きのお供に、手にとってみてはいかがだろう。

次回からは、授賞式当日にインタビューした神田裕行さんら4人のシェフのお話をリレー形式でご紹介していく。

text:伊藤由起, coordinate:江藤詩文 Shifumy

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