食の未来が見えるウェブマガジン

「イノベーションを起こし100年後のトラディショナルを生み出す」リストランテ・トクヨシ 徳吉洋二さん


人が出来ることは人に任せて、自分にしか出来ないことをやる

 名店『オステリア・フランチェスカーナ』に飛び込み、その1ヵ月後にはスーシェフに就任。徳吉洋二は「何でも出来ます!」と言い続け、イタリアで仕事を掴み取ってきた。オーナーシェフのマッシモから教えられた「イノベーティブを学べ」を心に刻み、日本人のアイデンティティを駆使したイタリア料理を追求。野菜を発酵させたり、綿飴で和紙のテクスチャーを考案するなど、クラシックから抜け出せないイタリアに衝撃を与え続けた。ミシュラン三ツ星獲得にも貢献し、8年勤めた人気店を「考えが尽きた」と2013年に退職。 2015年にミラノで開業した『Ristorante TOKUYOSHI』でも一ツ星を獲得するなど評価を上げるなか、2019年には右腕の平山シェフとともに神保町で『Alter Ego』をオープン。ミラノと東京を行き来する徳吉の、オーナーシェフとしての哲学とイズムに迫った。

―― 徳吉シェフが日本人の感性で作る“クチーナ・イタリアーナ・コンタミナータ(混成されたイタリア料理)”は高い評価を受け、『Ristorante TOKUYOSHI』はオープンから10 ヵ月でミシュラン一ツ星を獲得。満席が続き、順風満帆な船出だったようですね。

「周りからは儲かってるように見えたんでしょうけど、まったくでしたよ。僕が貰える給料はありませんでしたしね。満席なのに利益が出ないのは問題なので、メニューを見直しました。当初は料理人14人を雇い、€90、€110、€135のコース3つとアラカルトをやっていました。それを€135のお任せコース一択に。アラカルトの数も減らして、値段を上げました。仕込みの量が減るのでシェフは8人でまわせるようになって、人件費を減らすことで利益が出るようになりましたね。自分の給料が貰えるようになったのは2017年。その年のXʼmasに奥さんとPiazza Duomoでシャンパンを開けたときに、「よく頑張ったね」と言ってもらえたのは嬉しかったですね」

―― 2019年に『Alter Ego』を開業。ミラノと東京の2拠点体制に。

「この体制を実現できたのは、僕のスケジュールを管理するマネジャーとPR担当を雇ったことが大きいですね。人件費を減らして利益を出してきたので、新たに人を雇うことには抵抗感がありました。でも、人が出来ることは人に任せて、自分にしか出来ないことをやるという考え方に変えてみたんです。僕の仕事は、新しいメニューや仕込みのやり方を考えること、それとお皿を買うこと。オーナーシェフとして自分ですべてを抱え込もうとするのをやめたことで、ビジネスとして成長出来たと思っています」

―― 『Alter Ego』でやりたかったことは?

「日本で新たなイタリア料理をやるなら、引き算の料理を作る必要があると思ったんです。考えた結果、それはスープだと気付きました。お皿の中に必要な要素を取り出してスープにして、食べながら飲むことによって口内調味をするという発想。日本はいろんな食材があるので、日本でしか出来ないことが出来る。だから僕は、ミラノでは出来ないことを東京でやりたかったんです」

―― 「これはイタリア料理ではない」と言われることもあると思いますが、そんな言葉すらも賞賛に変換しているように感じます。

「新しいことをやれば賛否両論あるのは当然です。でも、人の意見で自分のスタイルを変えてはダメ。何でそうしたかを言い続けて、認めてくれる人を集めていくことが大切ですね。今後はイタリア料理やフランス料理といったカテゴリーがなくなって、このシェフの料理という捉え方に変わっていくはずです。我々がやらなければいけないことはイノベーション。食文化や伝統などトラディショナルを理解した上で、そのイノベーションを100年後のトラディショナルにしていくことが、僕たちの役割だと思っています」

リストランテ・トクヨシ オーナーシェフ 徳吉洋二
1977年、鳥取県生まれ。小学生の頃からバスケットボールに没頭し、高校では県代表の強化選手としてインターハイに出場する。TVで観た「料理の鉄人」がきっかけで、親も兄弟も薬剤師という家庭環境の中で「人と違うことがしたかった」と料理の道へ。2005年に渡伊。ミシュラン三ツ星、THE WORLD’S 50 BEST RESTAURANTS世界第1位を獲得した名店『オステリア・フランチェスカーナ』でスーシェフを務め、2015年にミラノ『Ristorante TOKUYOSHI』、 2019年に東京『Alter Eg(o アルテレーゴ)』を開業。現在はモスクワ進出を企んでいる。右上の写真を含め、今回は徳吉シェフの原点が詰まった旗の台の裏路地で撮影。

取材・文/馬渕信彦 写真/堀清英

本記事は雑誌料理王国2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする