フランス料理が取り込んだ中国料理の伝統の調理法【蒸】の技!


【蒸】の技法を使えば魚に優しく火を入れ、クリアなスープが

東シェフによる「蒸す~甘鯛・筍・雫」の一皿。カリカリに揚げた香ばしいアマダイは、スチコンの火入れにより、しっとりふっくら。「魚の低温調理自体、フランス料理では当たり前かもしれませんが、そこに中国料理らしい、高温で瞬間的に揚げた鱗の香りとパリッとした食感を加えました」と東さん。戻した干し貝柱を揚げたものを飾り、食感と旨味のアクセントに。器は、佐賀県有田の「徳幸窯」のもの。
蒸す~甘鯛・筍・雫

カリカリに揚げた香ばしいアマダイは、スチコンの火入れにより、しっとりふっくら。「魚の低温調理自体、フランス料理では当たり前かもしれませんが、そこに中国料理らしい、高温で瞬間的に揚げた鱗の香りとパリッとした食感を加えました」と東さん。戻した干し貝柱を揚げたものを飾り、食感と旨味のアクセントに。器は、佐賀県有田の「徳幸窯」のもの。

【蒸】は、温度管理しやすい現代的な火入れでもある

今回、披露してくれた「蒸す~甘鯛・筍・雫」は、すべて「蒸」を駆使して調理されている。

アマダイは、鱗がついたまま皮面を中国料理らしく高温の油でパリっと揚げた後、スチームコンベクションオーブン(以下、スチコン)を使って80度、湿度35%で3分間火を入れる。蒸すことで身の乾燥を防ぎ、さらに蒸し器では難しい、80度という低温を保つこともできる。伝統的な蒸し料理に、現代の調理機器を取り入れた東さんらしい火入れだ。

タケノコは、スープの旨味を浸透させるために、鶏がらスープと鶏のボンジリからとった「鶏油(チーユ)」、ネギとともに100度で45分蒸す。「蒸す利点は、タケノコの旨味と風味を逃がさないこと」と東さん。鍋を火にかけると、下からの熱で鍋の中の液体が対流し、せっかくのタケノコの旨味と風味を逃がしてしまう。蒸し器を使えば360度全方向から熱が入るので対流が起きず、タケノコの味を残しながら、スープを浸透させることができる。さらに、水分の蒸発がないので、鍋につきっきりで味の変化を見る必要もない。管理しやすい現代的な調理法ともいえる。

餡は、干し貝柱とタマネギを蒸してとったスープから作る。これでも十分にクリアなのだが、東さんはスープを一晩冷凍する。翌日、自然解凍する最中に滴るエキスだけを集め、とろみをつけて餡に。

「蒸すだけよりも、さらにクリアなスープをとることができます」

中国料理には、魚を蒸す料理はたくさんある。スチコンを使って80度の低温で魚を蒸している西洋料理のシェフも多くいるだろう。それは、「すでにある」技法かもしれないが、その両者をつないで新しい中国料理を提案しようとする料理人は、じつはまだ日本には少ない。

こんな時にこそ【蒸す】その②!

身の水分を保ち、ふっくら
スチコンで蒸す

パッサール氏の弟子で、パリの三ツ星「アストランス」のパスカル・バルボ氏は、低温調理した魚の断面を「キュイソン・ナクレ Cuisson Nacrée」(真珠の火入れ)と呼んだ。東さんはそれを再現した。中国料理人としての誇りがみえる。

素材にクリアな旨味を加えたい
蒸した透明なスープを浸透させる

鶏がらスープにボンジリの鶏油、ネギ、塩を加えたものにタケノコを投入し、蒸し器を使って100℃45分で旨味を中に浸透させる。タケノコの味わいと香りを残しつつ、必要な深い旨味だけを湛(たた)えた滋味深いひと品ができる。

クリアなスープが欲しいなら
冷凍して解凍し、エッセンスを抽出

鶏がらスープ1ℓに対し、タマネギ3~4個、水でひと晩戻した干し貝柱100ℊ(戻し済みの分量)をさっと沸かしてから蒸し器で100℃1時間。さらにひと晩冷凍して翌日解凍。ポタポタと滴るクリアなスープを、片栗粉でとろみをつけて餡に。

次ページ:東さんが語る、本国の料理の再現以外に、料理人に求められる3つのもの


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