2024年2月8日
斉須さんが「理想形」として心に保ち続けているのは、初めて「ヴィヴァロワ」で、この料理を食べた時の印象。ルセットはなく、作り続けることで自分流に進化してきた「あの時の感動が『今の』自分の心に浮かぶ料理」。
最初のインパクトはあくまでも穏やか。しかし、食べ進むうちに、圧倒的な存在感が押し寄せてくる。皿の上には昔からずっと変わらず、人参のピュレと、煮込んだ牛テールのみ。そぎ落とされた、押し付けがましくない料理は、斉須政雄という人、そのままを映しているようだ。
煮込んだ牛テールは鍋のまま煮汁ごと数日間寝かせて味をなじませてから、オーダー毎に豚の網脂に包んでオーブンで焼き上げる。とろりととろけるゼラチン質に、骨からでたうま味が溶け込む。一本のテールから取れるのは3人前のみ。
「『スペシャリテ』とは、時代に選ばれてきた料理。でも、そもそも、選ばれたものも、そうでないものも、どれも僕が大好きだから、作り続けて来た料理ばかりなんです」。
その料理は、パンチの強い、わかりやすいうまさを追求するのではなく、食べ終わった時にちょうど満足できる味を逆算し、研ぎ澄まされた料理。引き算で、素材の味を引き出してゆく手法をとる。