独創の「ダ・テッラ」。ラファエル・カガリ率いるモダン・ブラジル料理の新境地とは?


クリスマスも終わり、新年の準備が始まったロンドンで、ぜひ2025年の訪問リストに入れていただきたいブラジル&イタリアの独創料理レストランを紹介しよう。

料理の未体験ゾーンがあるとしたら、自国とは真反対の場所で食べられている料理かもしれない。例えば南米? しかしブラジルのサンパウロ出身でイタリアのルーツを持つシェフ、ラファエル・カガリ / Rafael Cagaliさん率いるロンドンのDa Terra / ダ・テッラは、想像のそのまた上を行く、別の意味で「未体験ゾーン」を体験させてくれるミシュラン2つ星レストランなのだ。

食通の間で評判のダ・テッラが4週間の改装を終えてこの秋リニューアル・オープンしたと言うので、さっそく訪れてみた。ダ・テッラはラファエルさんと、ジェネラル・マネージャーのチャーリー・リーさんが2019年に創業したクールなレストラン。この日は10コースのテイスティング・メニューをいただくことにした。

筆者自身、ブラジル料理と言えばシュラスコやフェイジョアーダ程度の知識しか持たない。ラファエルさんのモダン・ブラジル料理はそれらとは全く異なるのだが、食材のアイディアはごっそりブラジル。欧州とブラジルが完璧に融け、あたたかくもエレガントな創作料理だ。どのくらいエキゾチックかと言うと……。

例えばマリネしたハマチをいただくのに、ラファエルさんはパンプキン、ジャックフルーツ、ポテトを合わせ、鮮やかな黄色いソースを注いでくれる(写真上)。このソースはアマゾンのキャッサバから採れる搾り汁、ツクピーと、パンプキンをミックスしたもの。爽やかで心地よい酸味があり、鮮魚によく合う。セビーチェのような辛味とは無縁であり、シェフの味覚により全く新しいレベルに昇華されている。

1910年建造の壮麗な元役所を利用した5つ星ホテル内。
ラウンジでいただくオードブル。右上から時計回りに、ホタテのタルタル、キャビア添え、黒ビール入りカップ。キャッサバのブリニー、カラビネロ・エビ、トマト・コンフィ。鴨肉のシーザーサラダ風。マッシュルームとトリュフのタルト、セップ茸のムース、マデイラ・ジェリーのせ。いずれ劣らぬ味の芸術。

ダ・テッラ(「土壌」と言う意味)は開店から8ヵ月でミシュランの星を獲得し、2021年には2つ目を獲得。英国国内ランキングでは2023年3位、2024年7位と、誰もが認めるトップ・レストランである。

ラファエルさんは21歳のときにロンドンでキャリアをスタート。イタリアに渡り、2つ星の「ア・ヴィッラ・フェルトリネッリ」、スペインの3つ星「キケ・ダコスタ」や、バスクの三つ星シェフ、マルティン・ベラサテギさんの下を渡り歩いて腕を磨く。イギリスに戻り、バークシャーの三つ星「ファット・ダック」や、イギリス人トップ・シェフ、サイモン・ローガンさんのもとで「フェラ・アット・クラリッジス」や「アウリス」といった星付きレストランのヘッドシェフを務めた後、ダ・テッラをオープンした。

店名の通り、ワイルドなアマゾンやブラジルの「土壌」に根ざしているが、その実、食材の特質を細かに理解し、現代的な調理法と合わせる技術は目を見張るものがある。

劇場のようなオープン・キッチン。
ウズラのメドレー3種。コンソメでいただくトルテリーニ。ウズラの卵のコンフィ+オニオン・ジャムを詰めて。
串に刺さっているのはウズラ胸肉のロースト。手前はウズラと黒トリュフのムースがのったブリオッシュのトースト、ダムソンのジャム。人肌のほうじ茶と一緒にいただく。

サワードゥ・ブレッドのコースでは、非の打ちどころのない自家製パンが、いくつかの自家製スプレッドと共に供される。シーソルト、ピンク・ペパーコーンのバター、そしてオリーブ・オイルを固めた芳香ただようスプレッド。

感動したのは燻してローストした牛の骨髄を固めたもの。骨髄と聞いて一瞬ひるんだが、脂っこさが微塵もなく、むしろ爽やかで軽く、香りが良い。さっぱりとしているのだが、口の中に入れるとゆっくりと溶けて上質のココナッツ・オイルのようだ。

ここまで食べ進み、「天才」と言う言葉が脳裏をよぎる。

次のコースはブラジルでよく食べられる魚介シチュー、ムケッカを再構築した魚のディッシュだ。まず煮込む前の鍋をテーブルまで運んで見せてくれる。その後、数日乾燥させたタルボット(ヒラメの一種)にプランテインのスライスを載せたものがテーブルに運ばれ、香ばしいムケッカ・ソースをシェフ自らたっぷりとかけてくれる。ファロファと呼ばれるトーストしたキャッサバのクランブルが歯触りを添える。

ムケッカ自体は、オクラ、ベル・ペッパー、ライム、コリアンダー、スパイスなどをココナッツ・ミルクで煮込んだもの。ここで欠かせないのがデンデ・オイル(=ヤシ油)。この赤いヤシ油がココナッツと混ざり、美しい黄金色をクリエイトするのだ。

牛の骨髄のスプレッドは、ことのほか完成度が高い。
タルボットのムケッカ・ソース。多くのコースでシェフ自身がテーブルで仕上げてくれる。
香りよく焼き具合も絶妙なサーロイン・ステーキ。
牛脂のライス、ロブスター・テールのせ。

お肉のメイン・コースはスペイン産ミゲル・ヴァゲイラのアンガス黒牛を炭火で焼いたサーロイン・ステーキ、チミチュリ・ソース。カーボロ・ネロ、牛ストックと舞茸のソースを添えて。ステーキはこれまた、近年いただいたどのステーキよりも風味がよく、ロブスター・テールをトッピングした牛脂のライスと合わせると至福の味。

デザートの3コースも出色だった。チーズのコースは、2種類の山羊チーズを使ったブラジル伝統の「ロミオとジュリエット」。まったりとしたチーズ・フランに、グアバのジェル(ゴイアバータ)、キャラウェイ・シードを載せる。

ババにはブラジル産サトウキビの蒸留酒、カシャッサを使っている。上にピスタチオ・アイスクリームと、ミュンヘン発N25の無添加熟成カルーガ・キャビアをのせ、ほのかなスモーキーさとナッツのような風味を楽しむ。カシャッサのコンソメがシロップとして底に敷かれ、こちらも甘さはかなり控えめ。

最後にイチジクのデザート。ボトムにローストしたイチジク。その上に羊ヨーグルトのパルフェ、オキザリスというタピオカのような食感の根茎を宝石のように忍ばせ、ミルクのテュイールで食感を与える。大地が創造する自然の甘さだけを堪能するデザートだ。

プチフールにもやはり、南米原産のクプアス、ブラジル産フルーツのカジュを使ったものなど、南米食材にこだわっていた。

ロミオとジュリエット。
カシャッサのババ。
イチジクのデザート。オキザリスはタピオカのような食感。
ラファエル・カガリさん。チームの牽引力に脱帽。

コースを食べ終わった後に思った。「天才だ」

そしてこれだけがはっきりと分かった。ラファエル・カガリは、完璧を目指す人なのだろうと言うことだ。

ラファエルさんのブラジルx欧州は完全に調和し、トンガったところがない。非常に繊細なのである。これは個性がないとう意味ではなくむしろその逆で、全てが絶妙に調和し、あるべきポイントに落ち着いている。つまり彼は、完璧を実現できる人なのだ。

Da Terra
https://www.daterra.co.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni


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