「世界が愛する料理人」のおいしい色づかい
バスクの若手三ツ星シェフ エネコ・アチャ・アスルメンディさん
「赤」は、愛する故郷の色。香りや色、食感で幸せのメッセージを伝えたい
スペインの天才シェフと注目されるエネコさんの色使いの流儀は、特別なルールを決めずにフレキシブルに変えていくこと。「料理は生き物で、常に変化し続けるから」とエネコさんは言う。また、「料理は夢から始まる」とも語るシェフは、その夢を形にするために、まず構図にしてスタッフに見せる。「それをもとに材料を選び、色彩や香り、食感などを決めてく。そこから少しずつ変化して、料理が命を得ていくのです」。
エネコさんの料理には、バスク地方の伝統や歴史も息づいている。色使いにルールを設けないとはいえ、重要な色はある。そのひとつがバスクの民族旗を彩る「赤」で、伝統的なソースの色でもある。大航海時代の暮らしに思いを馳せ、バスク産の緑色のレモンもよく使う。「お客さまにバスクの自然を満喫してほしい」というのも大切なテーマだ。都心にある日本のレストラン「エネコ東京」でも、少しでもそれを表現するため、本店同様、食事の前にゲストを中庭に案内し、チャコリやフィンガーフードなどで、ピクニック気分を味わってもらうプレゼンテーションにしている。「料理は幸福を表現する世界共通の言語」と考えるエネコさん。その料理は、これからも美しい色彩で夢を具現化し、各国のゲストを幸福のオーラで包むことだろう。
p o i n t ①
色彩で旅気分を盛りあげる
東京のレストランでも「バスク」を感じてほしい
「お客さまに、山と海に囲まれ、食材の豊かなバスクでしか味わえない体験をしてほしい」と考えるエネコさん。それは色彩にも表れる。日本のゲストにも「バスクを旅した気分を味わってほしい」と言う。東京でもその色彩を生かした料理を出すために、スタッフに動画や写真で料理のイメージを伝える。
自然に寄り添い、大地の色や季節の花で幸福とやさしさを表現したい
p o i n t ②
大切な自然の色をそのまま生かす
共存することの大切さを料理に込めて
「環境を侵したくないと思いながら、自然の中で店を開いているのは矛盾かもしれません」。エネコさんは自問しながら、真剣にサステイナブルを考える。料理には自然の風景や色を映したものも多く、人間として何を大切にすべきか、というメッセージも込められている。スタッフの家族団だん欒らんを考慮して、金曜と土曜以外は夜の営業をしないのも、そのメッセージだ。
p o i n t ③
バスクの伝統色で「洗練」を表現
「赤」と「緑」は昔ながらのソースの色
エネコさんの料理には「赤」と「緑」の印象が強い。どちらもバスクの民族旗に使われている色だ。この2色はバスク地方の伝統的なソースの色でもあり、赤は、「ビスカイヤ」と呼ばれるソース。「サルサ・ベルデ」は、緑色のソースだ。色の記憶と伝統的な食材を組み合わせて、エネコさんならではの洗練された世界を創り出すのだ。
Eneko Atxa Azurmendi
1977年、スペイン・バスク地方に生まれる。バスク地方の名店で修業を重ね、2005年、27歳で独立し、「アスルメンディ」を開業。08年にはミシュラン一ツ星、11年に二ツ星、そして13年、スペインでは最年少の34歳の時に三ツ星を獲得した。米メディアによる「世界のベストレスラン100」では1位に選ばれ、美食ドキュメンタリー「世界が愛した料理人」にも出演。
上村久留美=取材、文 エネコ東京=写真提供
本記事は雑誌料理王国2019年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年1月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。