「糖尿病や高血圧症、腎臓病などの持病があるから、外食は難しい」と諦めていたのは、もはや昔の話。最近は、「病気でも家族とともに、一流レストランの味を楽しみたい」というゲストが増えている。
これに伴い、医師とシェフが協働して食の研究や開発も進んでいる。日本人に多い生活習慣病。不安を抱えるゲストに、いかに負担なく食事を楽しんでもらえるか──。管理栄養士の立場から落合由美先生に、5つの症状ごとの「食事の条件と制限」「調理のひと工夫」のアドバイスをもらった。
「高血圧の人には塩分の少ない食事を」「糖尿病の場合は高血糖を招かないように食事を工夫すべき」などは、もはや常識だろう。しかし、レストランでこうした人たちを迎える場合は、「病気や栄養について、もう少しトータルに捉える必要があります」と落合由美先生は言う。
たとえば高血圧の場合、だしの旨味や酸味などを活用して塩分を抑える努力をしている料理人は多く、中にはフランス料理のコースをグラム以下の塩で仕上げるシェフもいる。高血圧の食事の場合、塩分の目安は、1日6グラムだから、このコースを平らげても、あと2食の塩分を極端に減らす必要はないわけだ。「少ない塩でコース料理を仕上げるテクニックに加え、野菜や海草類、豆類に含まれるカリウムには、ナトリウムを排泄する作用があることを知っていれば、よりヘルシーなコースを完成させることができるのではないでしょうか」と落合先生。「高血圧の人は、血管を丈夫にする良質なタンパク質や、魚介などに含まれるタウリンを」という知識を持っていれば、食材選びにも反映させることができ、ゲストとの会話も弾む。
糖尿病の場合も同様で、高血糖とならないための食材選びに徹し「、低糖質メニュー」を取り入れるレストランも増えているが、こうした店やシェフが社会に定着するには「人間の体や病気に対する総合的な理解が不可欠」と指摘する。
人間にとって特に重要な「3大栄養素」のバランスのよい配分
炭水化物・・・50~60%
脂質・・・・・20~25%
タンパク質・・12~15%
*ただし、病気によってこの配合が変わることがある。
単にコースから米やパン、デザート類などの炭水化物を抜き、肉などのタンパク質を増やすだけでは、タンパク質の摂りすぎや、肉に含まれる脂や調味による塩分の過剰摂取が心配される。糖尿病で、かつ高血圧を患っている人は、糖尿病患者全体の40~60パーセントを占めるため、それらに対する配慮も欠かせないのである。
「また、炭水化物を外すと3大栄養素のバランスが大きく崩れるのも気になります。炭水化物を除くだけでなく、血糖値を急激に上げない工夫として、主食量を守った上で、たとえば炭水化物(ごはんやパン)と食物繊維(野菜や海藻)などを組み合わせるようなことにも目を向けてほしいと思います」
今後、ゲストの要求が医療や健康へ向けられると予測して、すでに医師と組んで仕事を始めているシェフも少なくない。「食事制限」をも楽しませる「医療ガストロノミー」が、一流シェフの条件に加えられる日は遠くないだろう。