食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

モナコの三ツ星名門ホテル「ル・ルイ・キャーンズ」を率いるシェフドミニク・ロリーさん


モナコのゲストを魅了する料理

モナコ公国・モンテカルロにある「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・オテル・ド・パリ」は、その名の通り、アラン・デュカス氏のレストランだ。1864年創業の老舗ホテルにあるこの店をデュカス氏が任されたのは、1987年、31歳の時。その33カ月後、当時の史上最短記録で三ツ星を獲得した。

そんな華々しい歴史が刻まれたレストランを現在率いているのが、ドミニク・ロリーさん。ロリーさんは「ピエール・ガニェール」での修業なども経ながら、デュカス氏の展開する数軒の店で仕事をしてきた。

仔鳩のロースト、ビーツオゼイユとヘーゼルナッツ
ラカン産の仔鳩のロースト。「コレクション・ベージュ」のコースで供されたメインディッシュだ。付け合わせは赤ワインでマリネしたビーツ。中をくりぬいてオゼイユのペーストを詰め、ヘーゼルナッツをまぶしている。鉄分を感じる仔鳩の味わいと、果物のように甘いビーツがバランスを成す。

伝統から離れるのは簡単ではない
でも変わらないでいいはずもない

ロリーさんは今年37歳。デュカス氏から現店のシェフに指名されたのは5年前、32歳の時だった。振り返れば、デュカス氏がこの店を任された年齢に近い。若きデュカス氏が当時背負ったプレッシャーは相当なものだったろうが、今や三ツ星店として名を馳せるこの店を委ねられた時、ロリーさんはどんな気持ちだっただろう。「もちろん重責は感じました。でもそれを果たしたかったし、誇りに思いましたよ。自信もありました」とロリーさんは語る。シェフ25人、パティシエ5人、ブーランジェ1人、サービス20人の大所帯だが、「僕はマネジメントも好きなんです」とさらりと言う。

名店「ル・ルイ・キャーンズ」は、宮殿のようにエレガントな店内を改装し、今年5月にリニューアルオープンした。「伝統を守ることは大事ですが、時代もゲストも変わります。開業以来手を入れなかったこの店の内装は、博物館のようになっていました。それを進化させたんです」。

グリーンアスパラガスのヴァプール、カイエ・ドゥ・ブルビとレモンのコンディモン
大ぶりなグリーンアスパラガスはプロヴァンスのもの。やわらかくほっくりとしている。羊のミルクを乳酸菌で固めたカイエ・ドゥ・ブルビとレモンの酸味が爽やか。アスパラの下の部分はジュースにして料理に掛け、全て使い切る。食材を無駄にしない姿勢はフランスで広まっている「アンチガスピヤージュ」という考え方につながっているという。

ロリーさんの料理も少しずつ変化している。「かつては味の濃い、ポーションの大きい料理を出していましたが、食べきれないゲストも多く、最後のミニャルディーズまで楽しんでいただけなかったんです」。そこで、満腹になって「もう結構」とならずに、最後まで楽しんで「また来たい」と思ってもらえるコースを理想とし、ポーションを小さく、味は軽く、動物性の素材よりも野菜を多く使うようになった。様々なコンディモン(調味料・薬味)を試し、ひと皿を仕上げるのに40回、50回と試作を重ねることもあるという。

ナチュラルな志向はデュカス氏と重なるが、料理界のモードを先導する名シェフたちと仕事をしてきたロリーさん自身が、今、この時代に提供したい料理とはどんなものなのか。「僕のやりたいこと? それはお客さまに楽しんでいただくこと。それだけです。モナコが面するリヴィエラ(海岸)を旬の食材で表現し、地中海を感じていただきたい」

ロリーさんの佇まいは料理同様に軽やかで、しかも真摯だった。

名シェフに師事したロリーさんが、今、提供したい料理とは?

ゲストを楽しませる料理。シンプルにそう思います。リヴィエラを感じるひと皿でモナコを表現したい。

貝類とひよこ豆のスープ、磯の香り
牡蠣、トリ貝、アオヤギ、ハマグリなどの貝類と、プロヴァンス産のヒヨコ豆のスープ。モナコが面する地中海の磯の香りに、アラン・デュカス氏が心を寄せるプロヴァンス地方の素材を組み合わせたひと皿だ。「40回以上試作を重ねました」とロリーさん。

Dominique Lory

1979年フランス・アンジェ生まれ。98年、デュカス氏の「スプーン」入店。2000年「ピエール・ガニェール」へ。02年から「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・オテル・ド・パリ」部門シェフ。「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」スーシェフを経て、11年現店シェフに就任。

ロリーさんは「べージュ アラン・デュカス 東京」で開催された「コレクション・ベージュ」に際して来日。モナコのシグニチャー・コースを披露した。東京の厨房で「初めての日本は心地いいですよ」と笑顔を見せた。

ル・ルイ・キャーンズ
アラン・デュカス・ア・オテル・ド・パリ
Le Louis XV-Alain Ducasse à l’Hôtel de Paris

Hôtel de Paris Place du Casino
MC 9800 Principauté de Monaco
☎+377 98 06 88 64
●19:30~21:45
●火水休(7月8月は火のみ休)
● 室内45席、テラス席20席(6月中旬~9
月中旬)
www.alain-ducasse.com/en/restaurant/
le-louis-xv-‒-alain-ducasse

料理王国=取材、文 富貴塚悠太=ポートレート撮影

本記事は雑誌料理王国263号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は263号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする