食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

流行る店の作り方。神楽坂「エル・プルポ」の場合


魚介に特化したスペインバル エル・プルポ

飲食店ひしめく神楽坂で、連日10日先まで予約で満席という人気店「マリスケリアエル・プルポ」。マリスケリア(シーフード専門料理店)を冠するとおり、魚介料理に特化したスペインバルだ。カウンターにはオーナーの阿部光峰さんとシェフの野堀貴則さんが毎朝築地で仕入れる魚介のタパスがずらりと並んでいる。

会社員時代から、副業で飲食店を営んでいたという阿部さんは、毎年スペインを旅するスペイン好き。退職後、貯蓄と飲食店経営で得た資金を元手にスペイン料理店の開店を志した。スペインバルブームのさなか、「明確な個性を打ち出すことが必要」と、業態を研究。05年にイベリコ豚料理の専門店「エル・セルド」を銀座に開き、たちまち繁盛店に育て上げた。2号店となる「エル・プルポ」は、バスクやカタルーニャ地方の魚介専門のバルをイメージ。「作り置きのタパスだけでなく、目の前でできたての料理を提供する〝スペイン版割烹〞のような店がモデルです」という。

寿司店並みにこだわった新鮮な魚介をバル価格で

鮮魚は高級寿司店や和食店が出入りする仲卸業者から主に購入。毎日足を運んで価格交渉を行い、仕入れ値の低コスト化に努めているものの、原価率は40%をゆうに超える。だが、質のいいネタを使ったタパスが、700円台からのバル価格で味わえるお値打ち感が、強力な集客要因となっている。

スタッフが口頭で告げる日替わり料理も含めてメニューは50種近くあり、その約8割が魚介料理だ。「炒めたタマネギを利かせるなど現地の味を意識しつつ、素材の鮮度を生かすシンプルな調理を心がけています」とシェフの野堀さん。「殻付きウニのプリン」は、これを目当てに訪れるお客も多い看板メニュー。また店名の「エル・プルポ」がタコを意味するように、「炙りタコのガリシア風」をはじめ、三浦産の活タコを使ったタコ料理も名物だ。

こうしたタパスにフリット、締めのパエリアまでを、スペインワインとともにゆっくり楽しむお客が大半で、滞店時間は2〜3時間と長め。客単価は平均5000円程度。ディナータイムは30〜40代の女性客やカップル、遅い時間帯は仕事帰りの男性客や界隈の飲食店関係者などが加わり、一日2〜3回転する。「神楽坂を選んだのは街に趣があり、落ち着いた客層が見込める点です」と阿部さん。本場のバルにならって路面店にこだわったが、空き物件が少なく、ようやく出合ったのが元寿司屋の現物件。設備ごと借り受けてほぼ全面改装したため、初期投資1800万円のうち、内外装工事費に1200万円を投じた。

悩みの種は店舗の狭さ。「窮屈さを我慢いただく分、料理で高得点をめざしました」と野堀さんは苦笑するが、その反面、バルだからこそ、13坪に26席の客席を設けてもお客に納得して楽しんでもらえるわけだ。気楽な店構えも奏功し、満席のピーク時も、通りがかりのお客が絶えず訪れる。このチャンスロス対策として、4席の〝当日席〞を設けたが、それも開店と同時に埋まるといった人気ぶりだ。

月商は目標の500万円を維持。新店舗も視野に入れるが、当面は慎重だ。「これだけ贅沢な素材を使えるのは来客数あってこそ。飲食店経営がいっそう厳しくなる時代、課題はクォリティの維持です」。研修を兼ねたスペイン旅行を毎年実施するなど、料理とサービスのブラッシュアップに今後も力を注ぐ。

繁盛ポイント

  1. 魚介への徹底したこだわり
  2. 原価率40%超えのお値打ち感
  3. ターゲット層を取り込める立地条件

text by Yuka Kinbara photographs by Manabu Sugita

本記事は雑誌料理王国2010年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする