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【連載】コロナ禍での、店の舵取り①「神楽坂 石かわ」石川秀樹さん


2020年の3月頃から続くコロナ禍の中でシェフたちはどう動いたか、そして今後をどう見るか。9月までの期間限定連載でインタビューする。

「今何ができるか」を全力で考え、行動する

オープンから17年を迎える「神楽坂 石かわ」。「ミシュランガイド東京」で13年間にわたり三ツ星を維持するなど、東京を代表する日本料理店として知られている存在だ。

主人の石川秀樹さんは同店のカウンターに立ち日々お客を迎えるほか、「虎白」、「蓮 三四七」など都内に合計7店舗を展開する石かわグループの経営者としての顔も持つ。

そんな石川さんが、昨年から続くコロナ禍に際してどのような考えのもと、どのような動きをしてきたかうかがった。(取材日:2021年6月23日)

<この1年間で行ったこと>
・顧客データのデジタル化
・お弁当の販売、鍋料理セットの販売
・お取り寄せのウェブサイト「いったつみとらどう」のオープン

――コロナの影響が社会に出はじめた昨年3月以降、どのような動きをしてきましたか。

4月7日に緊急事態宣言が出る前に、店の休業を決めました。期間は2ヶ月間です。休むと決めたら、「今できること」に全力で取り組むよう、気持ちをすぐに切り替えました。

まず着手したのは、顧客データのデジタル化です。そして4月10日からはお弁当の販売をはじめました。

顧客データのデジタル化でお客さまのメールアドレスを登録できていたので、お弁当の販売の開始をメールでお伝えしたところ、さっそく反響をいただくことに。週末には石かわだけで150食を作ったこともありました。お渡しはお店なので、皆さまお車やタクシーで来てくださって。非常にありがたいことです。

その一方で、お弁当は何度もご購入いただくのは難しいはず、とも思っていました。やはり温かい料理がいちばんだろうな、と。

こうした思いに応えることができ、かつ料理店の味を極力そのまま楽しんでいただけるメニューは何か……と考えた結果作ることにしたのが鍋料理です。

なおコロナ禍に伴うステイホームでいちばん大変な思いをしているのが、ご家族のお食事を3食作らなければならなくなった奥さまのはず。なので「奥さまの応援企画」として簡単に準備ができる料理が売りたかった。

そういう意味でも鍋はぴったりです。季節に応じて牛肉と花山椒の鍋、鱧鍋、寄せ鍋などを販売し、今もそれは続けています。

また、オープンまで数ヶ月間の時間がかかりましたが、お弁当の販売と並行してお取り寄せのウェブサイト「いったつみとらどう」の立ち上げにも取り組みました。

ここでは先に話した鍋料理や、ご家庭で作る炊き込みご飯と季節の味噌汁のセット、ご家庭で揚げていただく天ぷらのセットなどを販売しています。天ぷらは特に好評ですね。

こうしたメニューを考案するのは、私と小泉(瑚佑慈さん。虎白料理長)。二人でああだこうだ言いながら、楽しんで料理を考えています。

――ウェブサイトでの販売という、いわば新しい業態を、コロナを機に作り出したということになりますね。

そうですね、ただ急に作ったわけではなく、実は長年にわたって、ご家庭でも料理店の味を楽しんでいただく商品を販売したい、と考えてきていました。

というのも、たとえばご高齢の方などは、これから思うように外出できなくなることもあるかもしれない。そうした方々にも、料理店で味わうのと同じくらいおいしいものを召し上がっていただきたい。

そんな意図で、おいしくて、温かくて、簡単に用意できる料理を作りたいと、ずっと試作したり、商品化に挑戦したりしてきたんです。

でもなかなか難しく、去年の1月に「ひとまず、これはストップしよう。店に集中しよう」と決めたところ、そのすぐ後にコロナにともなう店の休業で2ヶ月の時間ができた。それで、一気に進めることができました。

ただ、今もまだ、もっといい商品ができないかな、と挑戦中です。私たちが店でお客さまにご提供しているのは料理だけではなく、心地よい時間。そんな、店で過ごすのと同じ体験をご家庭でしていただくのが、私たちが手がけるお取り寄せの目標です。

どうしたら気持ちをお届けできるか。言葉なのか、文章なのか、動画なのか……と、試行錯誤しているところです。近い将来、より使いやすいサイトにするべく、全面リニューアルする予定もあります。

――これからの飲食業の世界は、どのように変わっていくと思いますか?

そうですね……それは、誰にもわからないのではないでしょうか(笑)。私はそういうことはあまり考えないタイプ。最初に話した通り、「今できること」に全力で取り組むのがポリシーなのです。

将来に向けた目標も、私は立てません。よりよい未来のために今何をすべきか? 何ができるか? を考え、実行する方が大事だと思っています。コロナの間の私たちの動きも、そしてこれからの行動も、そのポリシーにのっとることは変わらないと思います。

そういう点は、コロナの影響は受けていないといえるでしょう。いつでもブレないでいる、ということが大切なのだと思います。

石川秀樹
1965年新潟県生まれ。20歳で上京。乃木坂「神谷」などで修業ののち、八重洲の割烹店などで料理長を務める。2003年、「神楽坂 石かわ」を独立開業。ともに働いてきたスタッフとともに「虎白」(2008年〜)、「蓮 三四七」(2009年〜)を営み、現在はグループで合計7店を経営する。

神楽坂 石かわ
東京都新宿区神楽坂5-37 高村ビル1F
Tel: 050-3138-5225(予約・問合せ)
03-5225-0173(予約後の問合せ)
12:00〜24:00(閉店)
定休日:日曜日・月曜日・祝日
http://kagurazaka-ishikawa.co.jp

取材・写真・文 =柴田泉


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