【連載】コロナ禍での、店の舵取り②「モンド」宮木康彦さん


2020年の3月頃から続くコロナ禍の中でシェフたちはどう動いたか、そして今後をどう見るか。9月までの期間限定連載でインタビューする。

「食を止めない」のがレストランの役割

東京・自由が丘の住宅地に、さりげなく店を構える「モンド」。オーナーシェフの宮木康彦さんとソムリエの田村理宏さんの2人がタッグを組み、お客を温かく迎えるイタリア料理店だ。2008年のオープン以来、多くのお客に長く、深く愛され続けている。

そんな「モンド」が昨年から1年半近く続くコロナ禍の中、どのような考えのもと、どのように営みを続けてきたか。宮木さんに話を聞いた。(取材日:2021年7月12日)

【この1年間で行ったこと】
・日替わり弁当と単品料理を、店頭にてテイクアウトで販売
・配送での料理の販売(メールでの受付→ECサイトに移行)
・SNSでの動画配信(料理作り、生産者との対談)

――第1回の緊急事態宣言が発令された昨年の4月以降、どのような動きをしてきましたか。

怒涛の毎日すぎて(笑)、あまり覚えていないところもあるのですが……。常に心がけてきたのは、「食を止めない」ということです。これには「食の流れを止めない」、そして「食の楽しさを止めない」という2つの意味があります。

一つ目の「食の流れを止めない」というのは、言葉の通りで、私たちが動くことで生産者さんや仲卸さんたちの動きを止めないようにする、ということです。

去年の4月に1回目の緊急事態宣言が出た時、モンドでは店を休業しましたが、すぐに日替わりのお弁当や単品の料理の販売をはじめました。この時何よりも考えたのは、「自分たちは今、食材を使い続けるべき」ということです。

生産者や仲卸の方々には普段からお世話になっていて、おいしい食材を誠実に作り、届けてもらっています。そうした方々の食材が売り先を失い、経営的に立ち行かなくなってしまうなんて、あってはならないことです。

将来、仮にコロナが落ち着いた時が来たとして、その時に飲食店だけが残っていても本当に意味がありませんから。

――もう一つの「食の楽しさを止めない」とは、どのようなことでしょうか。

これは、「食の楽しさを忘れないでいてほしい」というような意味です。

レストランは、その語源の通り、お客さまにとって「回復する場所」でありたいと思っています。おいしい食事を食べ、ワインを飲み、語らうことにより、心も体も元気になっていただく。それがレストランの役割です。

しかし去年の4月は、モンドもそうですが、多くのレストランが休業しました。食の楽しさを体験する機会が、多くの人々の生活の中から失われてしまっていたかと思います。

それを失われてしまったままにせず、ご家庭でも「食卓ってこんなに楽しいんだ!」と感動していただきたい。その助けになりたく、料理の販売や、SNSでの動画配信をしたという側面もあります。

――去年の4〜5月には、インスタグラムライブやYouTubeでの配信をなさっていましたね。

はい、ご家庭で作れる内容のレシピ動画を配信しました。その頃は今よりステイホームする人が多く、食がマンネリ化してしまうと聞いたので。もともと僕は人前で何かを説明したり喋ったりするのがとても苦手なのですが(笑)、できるだけ前向きにこの時期を乗り切りたかった。それで、いろいろな人を巻き込んで、楽しみながらあれこれ試したのです。

インスタグラムライブでは、生産者さんと対話する形での配信もやりました。食材の魅力や背景を直接説明してもらえるのは、やはり楽しいし説得力があります。瀬戸内コラトゥーラの生産者さんに出てもらったら、モンドでコラトゥーラをお買い上げくださる方が増えた、なんてこともありました。「配信を聞いてコラトゥーラを買い、料理に使いました。とてもおいしかったです!」という声もいただいて、やってよかったと思いましたね。

――去年の5月末に一度緊急事態宣言が解除されたものの、今年に入ってからは東京では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が続き、飲食店にはずっと営業時間の短縮などの制約が要請されています。モンドではその間、どのような時間、スタイルで営業を続けてきましたか。

1月7日の緊急事態宣言発令に際して、飲食店の営業時間は20時まで、という要請が東京都から出されました。この時、モンドでは「ディナーは休業。ランチタイムのみ営業」という選択をしました。

その後、2月半ばから、要請通りの「20時閉店」という営業時間でディナー営業を再開しました。

営業時間が限られているのでショートコースを作って対応したのですが、それでも、慌ただしい食事になってしまっていたと思います。もちろんこちらも最大のパフォーマンスはするのですが、レストランとして充分に楽しい時間を提供できているが迷いが生まれたり……。そんなジレンマを抱えつつ、要請に従った営業を続けていました。

しかしその後の要請で、酒類が提供できなくなった時には、考えを大きく改めざるを得なくなりました。

――4月25日発令の第3回の緊急事態宣言に伴い、酒類の提供禁止が要請されました。

これを聞いた時には愕然としましたね。モンドは僕と田村がいて初めて成り立つ店だし、ワインが出せないのなら、それはもう、僕らにとってはレストランではありません。

またこの要請は、事実上ソムリエの仕事を奪うものでもあります。しかし、“仕事”とはそんなに簡単に取り上げられていいものではないはずです。こんなに納得できない思いで店を続けるのは無理なので、当面は店を閉めるとすぐに決めました。

その一方で、モンドではずっと、厳しい感染防止対策をとってきていました。席と席の間のスペースをとるために、もともとは16名ほど入る店ですが、6名に制限。換気も衛生も徹底しています。感染のリスクは限りなくゼロに近い状態に保ってきた自信がありました。

こうした前提と状況を踏まえ、改めて自分たちができること、してもいいこと、すべきことは何だろう――と田村と一緒に考えて出した結論が、通常営業の再開です。モンドでは6月1日からランチ、ディナーとも通常営業です。ワインも出していますし、夜は22時まで(20時ラストオーダー)としています。

もちろん、簡単な思いで通常営業を選択したわけではありません。「食を止めない」を実行しながら、感染拡大を防ぐために最大に対応する。そして通常営業を決めたからといって当たり前に続けるのではなく、新たな発令が出るたびに立ち止まって考える。そのくり返しになっていくと思っています。

――去年の4月から今に至るまで、考えの変化はありましたか?

そうですね……。ある意味、ずっと考えは変わっていないです。

ただ、考えの変化とは少し違いますが、自分たちはお客さまに支えられているということに改めて強く気づかされました。通常営業にしてから、お客さまに「店を開けてくれてありがとう」と言っていただくことが多く、涙が出そうになります。もちろんお客さまへの感謝の思いは昔からずっと持ち続けていますが、さらに強く感じるようになりました。

やはり、レストランは信頼関係で成り立っている商売です。生産者さんとの信頼、お客さまとの信頼……。信頼しかないですね。その大切さを、コロナを通して改めて感じました。

――これからもレストランを続けるにあたり、何が大切になってくると思いますか。

自分は「コロナを生き抜くためにはこれが必要!」というような目標を掲げるタイプではありません。それよりも、以前からの自分のスタンスを守ることを大切にしています。

それは、料理人としては少しずつでいいから料理をもっとおいしくしたいし、経営者としてはスタッフがもっとやりがいを持って働けるような場所にしたい。そして店は、お客さまにもっと楽しんでいただける場所にしたい――そうしたことです。

正直、まだまだコロナの影響は続くと思います。しかし状況がどうであれ、自分の軸を保ち続け、周りとの信頼関係を大切する。その点に関しては、ブレずにいたいと思っています。

みやき・やすひこ
1976年生まれ、神奈川県出身。専門学校卒業後「青山アクアパッツァ」で働き、系列店でも経験を重ねる。その後イタリアに渡り、ミシュランガイド三ツ星「レ・カランドレ」で洗練されたイタリア料理を、地方の店で郷土料理を学ぶ。帰国後、2008年に「モンド」をオープンする。

モンド
電話番号 03-3725-6292
東京都目黒区自由が丘3-13-11
ランチ:11:30-13:00(L.O.)
ディナー:18:00-20:00(L.O.)
定休日:水曜、第1、第3木曜日
http://ristorante-mondo.com/

取材・写真・文 =柴田泉


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