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【連載】コロナ禍での、店の舵取り④ 「オマージュ」荒井昇さん


2020年の3月頃から続くコロナ禍の中でシェフたちはどう動いたか、そして今後をどう見るか。9月までの期間限定連載でインタビューする。

温めていた可能性を形にする時間に

「オマージュ」は浅草生まれ、浅草育ちの荒井昇さんが2000年に地元にオープンしたフランス料理店。緻密かつ現代的、独自性のある料理スタイルで、ガストロノミーの世界で高い評価を獲得している。荒井さんはまた、2018年に、オマージュの隣にビストロ「noura(ノウラ)」を開業。2つの業態でフランス料理を表現する。

荒井さんはコロナの間に配送での料理の販売をはじめ、今も継続している。その中で、「レストランの可能性はもっと広がる」という思いを強くしたという。この考えに至った経緯、その元となった行動について聞いた。(8月27日取材)

<この1年半で行ったこと>
・nouraテイクアウトの販売
・オマージュホームセット(以下、テイクアウトと配送)販売
・うどんすきセット販売
・nouraビストロホームセット販売
・ブイヤベースセット販売

――昨年4〜5月の緊急事態宣言のもと店を休業する一方で、早い時期から「オマージュホームセット」の販売をはじめました。こちらはコース料理をパックにして、家で食べられる仕立てとなっています。

4月の第1週から販売しました。スピードが大事ですし、何もやらずに空を見上げているだけではスタッフに示しがつかない(笑)。行動、行動です。

それに、料理の配送での販売は、もともとやりたかったことなんです。でも日々営業する中では忙しく、なかなか取り組むことができなかった。コロナで店を閉めることで時間ができたのは、ある意味よかったという側面もあります。

――さらに4月末に「うどんすきセット」、9月に「nouraビストロホームセット」、今年1月に「ブイヤベースセット」を販売開始しました。特に「うどんすき」はフランス料理店では異色ですね。

うどんすきセットは、以前から親交のある十割そばとうどんの名店、「銀座 流石 凛」さんと、シェフたちの間では周知のハーブの生産者である梶谷農園さん、それとうちの店、この3者でコラボレーションをした商品です。銀座 流石 凛さんとは、仕入れているシャモが青森の村越シャモロックパークさんで同じというつながりもありました。

セットの内容は、銀座 流石 凛さんのだし汁、うちのコンソメに、スパイスでカレーに近い風味をつけたスープで、村越シャモロック、梶谷農園さんのハーブやお花、凛さんのうどんを食べていただくものとしています。

この商品を作ったきっかけは、生産者さんの役に立ちたい、という思いです。4〜5月に多くの飲食店が店を閉めたので、村越シャモロックパークさんのシャモや梶谷農園さんのハーブが売り先を失ってしまった。そんな中、うちの店がそれらの素材を使うことで、いくらかでも貢献できればと思ったのです。――料理店もですが、あの頃、生産者さんは本当に困っていました。であるなら、普段からお世話になっている僕らができることをするのは当然です。

その後、商品としては、9月にnouraのビストロセットを、年明けの1月にブイヤベースセットを売りはじめ、今も売っています。ブイヤベースはnouraの人気メニューで、それを高級版にしたのがこの商品。旬の魚介類に加え、ブルターニュ産のオマールがまるまる一尾、蝦夷鮑が丸ごと一個入る豪華な内容です。冬なので温かい鍋料理がぴったりということと、鍋料理なので店の味を再現していただきやすい、という狙いもあります。

――去年5月末に緊急事態宣言が明けてからお店の営業を再開しつつ、配送の商品の販売も続け、新商品も投入しています。個人店で、営業を続けながらこうした取り組みをするのはエネルギーが必要です。

それはありますけど、でも、コロナを通して、レストランはレストランだけの営業をしていては経営的に非常に危険だということが明らかになりました。収益を得る手段は、ぜひとも複数持っていたいところ。なので、レストラン営業をしつつ、配送での料理販売もするスタイルがスタンダードにならなくては、と思っています。

ちなみにオマージュホームセットの内容は今は基本的に固定していますが、去年の4〜5月からしばらくは毎週変えていました。メニュー考案に追われる本当に大変な日々で、もう二度と戻りたくないくらい(笑)。

ただ、これは「配送を前提とした高級志向のフランス料理でどんなメニューが可能か、どんな技術改良ができるのか」のテスト期間でもあったのです。単に売るのではなく、技術のノウハウをためて、料理人として、また店としての引き出しを増やす。これは、先々に必ず役立つから……と意識していました。

また、配送商品の販売は、店として全国に向けた発信にもなります。レストランは、キャパが決まっていて売り上げに限りがあります。だからこそ、全国のお客さまを対象にした商品の開発、販売が重要なのです。

さらには、配送に向く高級志向の料理を作る技術的ノウハウを蓄積し、発信をすることで、その技術を企業さんに提供するなどのビジネスにもつながるかもしれない。そうした、店としての可能性に挑戦したいという思いもあります。

――高級レストランにできることは、まだまだあるのだということに、コロナを機に気付いた、と。

そうですね。ただ、突然思いついたのではなく、さっきも言った通り、前々から配送での料理販売をしたかったというベースがあったのも大きかったと思います。

そして、だからこそ、オマージュとしての存在価値は絶対に高めなくてはならないという思いも、改めて強くしました。それが、店としての可能性を広げる前提条件です。

――本丸がきちんとしていることが、大事なのですね。

まさにそうです。今、コロナの感染防止のためにレストランに課せられているさまざまな制約は、いつかは緩和されるでしょう。そうした時に、しっかりとお客さまを受け止めるクオリティが店にあることが大事。そこの準備は万全であるよう常に気を張り続けていました。もちろん今もそうです。

なお、さっき、オマージュホームセットの内容を毎週変えたのは技術的な引き出しを増やすためという話をしましたが、もう一つ大事な役割があります。それはスタッフが新しい技術を学ぶ場を作る、ということです。

コロナで時間ができたのなら、その間にスタッフも店も進化する必要があります。「絶対にこの時間を無駄にしない」という強い思いで、スタッフを導くのもオーナーシェフの役目です。

もちろん、お店に来てくださる目の前のお客さまに、心を込めて全力のおもてなしをするのは、以前と変わりません。レストランにかける情熱も変わりません。しかし新しい可能性に対しても具体的に行動する。この両方を行うので、料理人としての幅をグッと広げなくてはなりません。

コロナを通してその必要性を強く感じましたし、今も感じ続けています。

荒井 昇
1974年東京・浅草生まれ。都内のレストランにて修業後、24歳で渡仏。「ル・クロ・デ・シーム」、「オーベルジュ・ラ・フニエール」など数店でフランス料理を学ぶ。帰国後、2000年にレストラン・オマージュを開業する。2018年よりミシュラン2つ星。

オマージュ
【TEL】 03-3874-1552
【住所】東京都台東区浅草4-10-5
ランチ:11:30-13:00 L.O ディナー:18:00-19:30 L.O
定休日:月曜、火曜日
URL: http://www.hommage-arai.com

取材・文・写真 =柴田泉 


柴田泉
東京多摩地区生まれ、横浜育ち。大学で美術史を学んだのち、食の専門出版社「柴田書店」に入社。プロの料理人向けの専門誌『月刊専門料理』編集部に在籍し、編集長を務める。独立後は食やレストランのジャンルを中心とするライター・編集者として活動する。




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