コロナ禍での、店の舵取り 「レストラン ラフィナージュ」高良康之さん (前編)


2020年の3月頃から続くコロナ禍の中でシェフたちはどう動いたか、そして今後をどう見るか。9月までの期間限定連載でインタビューする。

レストランの本分は何か。考えぬき、精度を高める時間とした

東京・銀座の中心、四丁目の交差点から数分の場所に店を構える「ラフィナージュ」オーナーシェフの高良康之さん。言わずと知れた、日本のフランス料理界を代表するシェフだ。老舗の名店「銀座レカン」の総料理長を長年務めた経歴の持ち主でもある。

そんな豊かなシェフ経験を持つ高良さん。コロナにどのように向き合い、店を営んできたか――というテーマで伺った話を前後編の2回にわたって掲載する。

今回はその前編。昨年4〜5月の緊急事態宣言で店を休業していた間、高良さんは毎日店に通っていたという。その時にしていたこと、改めて考えたことについて紹介する。

――第1回の緊急事態宣言が発令された昨年の4月以降、どのような対応をしてきましたか。

結論から言うと、去年の4月から5月末まで店を休業した以外は、ある意味特別に何かをしたということはありませんでした。5月末に営業を再開して以降は、都の要請にしたがってレストラン営業を続けています。
もちろんこれも、よくよく考えての選択です。その結果が、「何もしないことが、したこと」です。その内容は追い追い話すとして……

――はい。では、まず時系列に、どのような動きをなさってきたか教えてください。

最初にコロナの話を知ったのは、去年の1月です。お客さまから「中国で未知のウィルス感染が起きていて大変なことになっている。じきに日本にも来るだろうから、危機感を持って、体調管理、衛生管理をした方がいい」と伺ったのです。

その時は、スタッフを感染から守ること、そしてやはり店の経営のことを考えました。何しろうちはオープンしたのが2018年の10月。ようやくオープンから1年が経ち「2年目、気を引き締めていくぞ」と思っていたタイミングでした。ここで社会の混乱を迎えるのは正直キツイなと思いました。

店の一時休業を真剣に考えだしたのは、3月の後半頃。まずは銀行に、資金がどれくらい調達できるのか相談しに行きました。そこで一定の額を借り入れできることになり、ひとまず経営面での危険は回避。同時進行で、予約の入っていたお客さまに休業の連絡を入れ、緊急事態宣言の発令された4月6日から店を閉めました。

休んでいる1ヶ月半の間、さて何をしようと考え、テイクアウトも思い浮かんだのですが、結局やめました。理由は、感染の危機の中スタッフを出勤させたり、お客さまに銀座まで料理を取りに来ていただくのは避けるべきだと思ったのです。

そして決定打になったのは、緊急事態宣言中、同じ銀座の仕出し屋さんと話す機会があり、その時に聞いた彼らの本音。銀座近辺は歌舞伎座や新橋演舞場があり、長くなさっている仕出しの専門店が多くあるんです。そんな中のお一人から「おうちでご飯を食べる日が続くこういう時は、僕らの出番のはずなのだけれど、なかなか厳しい」と聞いて。

たしかにこの時期、レストランでテイクアウトやお取り寄せをはじめた店が多く、お客さんがそちらに流れてしまっていたんですね。その言葉を聞いて、「あ、自分の本分はレストランなので、彼らの土俵に土足で上がり込むようなことはしてはいけない」と、ハッとした。それがテイクアウトをしなかった一番大きな理由です。

――4、5月の休業中はどのようにして過ごしましたか?

テイクアウトやお取り寄せにこそ手を出しませんでしたが、何もしない、という選択肢もありませんでした。

「料理人を殺すのは簡単だ。3日間料理をさせなければいい。感覚が鈍るから」とお客さんに以前言われたのですが、それは、まさにその通りなのです。

そこで、秋に撮影を進める予定だった書籍の撮影を前倒しで、4、5月に進めることにしました。ただし、スタッフは店に来させず――出勤時に感染の危険がありますからね――、準備から片付けまで全部一人で担当。私自身も、店の近くに借りている事務所で寝起きして。感染の危険を少しでも減らすためです。

あと、休業中は、本の撮影がない日も水回りを整えたり、何かしらやることがあって毎日店に来ていたので、料理やワインリストの精度を高める時間にもあてました。再オープンした時、ただ店を開けるだけではなく、当然進化していなくてはなりませんので。

――休業中もやることはたくさんあったのですね。

そうですね、それで気分的に救われたところはあります。とはいえ、落ち込むこともありましたね。
店で一人、テーブルにパソコン置いて仕事をしている時など、トップクロスも敷いてないので光がまわらず部屋の雰囲気が文字通り暗いんです。その光景がきつくて、「うーん、暗い! 結構寂しいな」なんて感じたり(笑)。

あと、2018年の開業準備の時の、やはり店はガランとしているのだけれど新しい機器が入ってきてワクワクしていた時を思い出しましたね。それで、「1年半で、なんなんだこのギャップは?!」って思ったり(笑)。

そんな中嬉しかったのは、応援の声をいただいたこと。地方のお客様から「蕎麦送ったからスタッフ休み開けたらみんなで食べて」など気を遣っていただいたり、生産者さんからも、連名で励ましのお手紙をくださったり。心に染みました。

――お店の再開は、緊急事態宣言解除された5月25日から。

そうです。この日のことは忘れられませんね。

一番印象に残っているのが、再オープン初日にランチにいらした最初のお客さまのこと。その方、入り口でアルコール消毒するのももどかしい感じで、走ってカウンターまで来てくださったんです。「ああ、待ち遠しかった!」とおっしゃりながら。そして「この日の予約がとれて本当によかった」と言ってくださった瞬間に、「やばい、俺泣くぞ……」となって(笑)、必死で堪えましたよ。

店の再開に際しては、2日前から準備をはじめました。ガランとした店内にどんどん活気が戻り、そこにお客さまが満席で埋まる――もちろん感染防止で席間はあけてはいるのですが――。「ずっと楽しみにしていた、ありがとう」と言ってくださるお客さまも多く、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

高良康之
ホテルメトロポリタン勤務を経て、1989年渡仏。2年間研鑽を積み、帰国後は赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」副料理長などを歴任。2002年「ブラッスリー・レカン」オープンに伴い、料理長に就任。「銀座レカン」総料理長を経て、2018年10月、「レストラン ラフィナージュ」をオープン。

ラフィナージュ
電話番号 03-6274-6541
東京都中央区銀座5-9-16 GINZA-A5 2F
ランチ:12:00〜13:30(L.O.)
ディナー:18時〜20時(L.O.)
※営業時間短縮の要請に伴い変動あり。詳細はホームページ、店舗に確認
定休日:月曜、第3火曜日
https://laffinage.jp/index.html

取材・文 =柴田泉  写真 =小沼祐介


SNSでフォローする