食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

一流のサービスマンに学ぶ活躍の秘訣「ビストロ ブノワ」北平敬さん


すぐに結果は出なくても、やり続ける
そのための努力は惜しまない

正解がひとつではないサービスの世界で、圧倒的な顧客満足を生み出すため独自のスタイルを確立し、走り続けるサービス人の軌跡から学ぶこと。

ホテルでサービスの基礎を学び一度はワインの造り手に

大学卒業後、星野リゾートに入社。そこで北平敬さんは接遇の基本に始まり、宴会場やレストランのサービス、フロント業務や総務を経験した。

「最初の就職先があそこでよかったと思っています。リゾートだからこそ多くのことを学べました。企業理念の『ニッチなマーケットで圧倒的な満足度を得る』は、いまだに自分の中のモットーですね」

東京のホテルを視察したことが刺激となり、ワインの勉強を始めたものの、「ブドウ畑も見たことがないのにワインを理解することはできない」と思い立ち、会社を辞めてフランスへ。

「当時私は29歳。まずは語学学校へ通いましたが、周囲の若者がどんどん上達していく姿にショックを受けて引きこもってしまいました。その間、誰とも会わずに辞書とにらめっこしながらワインの本を読み続け、全部読んだころには日本を離れて1年が経過していました」

「パリのビストロにいるかのような“口福な食時“を楽しんでいただく」ため、明るく心地よいサービスに努める北平さんとスタッフのみなさん。

日本へ帰る前に、当初の目的を果たそうと9月のブドウ畑を訪れた。その時期はまさに収穫シーズン。そのまま収穫を手伝うことになった。「フランス人の中に入って1カ月のキャンプ生活を送りました。言葉も覚えたし、畑のこともたくさん学びました。そして、もう少しフランスに留まることに決めたんです」

フランスから帰国した北平さんが次にしたことは、地元新潟のワイナリーでのワイン造り。「料理人が料理を作るように、自分も何かを作りたいと思ったんです。フランスで畑のことを学んだので、今度はワインを造ってみたいと。でも、一度人に触れる仕事の楽しさを知ってしまったせいか、畑にいても気が滅入るようになって……。ひとりで吹雪の中剪定をしながら、気づいたらブドウに語りかけていました。これはまずいと思って、結婚を機に再び東京へ出ることにしたんです」

それ以降はサービス一筋。上野のソフィテル東京、ホテル日航新潟を経て、2009年「ビストロ ブノワ」のダイニングマネージャーに就任した。

お客さまとの接点を何より大切に自分の言葉で伝えたい

経験の足りなさは知識で補い模倣がやがて自分のスタイルに

「愛嬌は持って生まれるものですが、足りない経験は知識で補えます。サービス人として成長していくため、若い人には図書館の利用をおすすめしています。図書館は蔵書が豊富で、しかも無料です。それと、お客さまに何かを説明するときは、専門書よりも一般書のほうが役立ちますよ。普通の人にわかりやすく伝えようと、考え抜かれた言葉や表現がそこにはあるからです」

北平さんのサービスには独自のスタイルがある。でも、特定の人物を目標としてきたわけではない。「私の場合、職業を問わず誰でも『この人のここが素晴らしい』と感じたことを自分も実践するようにしています。要するにモノマネですね。何度も何度も繰り返すことで、それがいつしか自分のスタイルになっていくものです」

料理人の武器が料理ならサービス人の武器は顧客リスト

北平さんは少なくとも月に1回、顧客にメールを配信している。「ビストロ ブノワ」に入社後、約3年かけて完成させた顧客リストをもとに、その配信先は現在5200件にもなるという。レストランでのイベント案内を主軸に、その時々の季節に絡めた豆知識や歴史的エピソードが綴られた長いメール。文字数だけではなく、特筆すべきはその内容の濃さ。北平さんの熱い思いが込められた文面は圧巻だ。 

「季節ネタなので毎回時間との戦いですね。タイミングを逃してボツになることも……。6年前に始めた頃はもっと短いものでしたが、次第に長くなりました。3カ月間配信できなかったときは、『店を辞めたと思った』と言われましたね。いつもの半分の文字数にしたときは『具合が悪かったの?』と電話がかかってきました。感想や返信をくださる方もいらっしゃいます」

もちろん北平さんが作業時間を捻出するためには、周囲のサポートも必要不可欠だ。なぜ、ここまでのことをするのだろうか?

「お礼のメールを送ったほうがいいとわかっていても、送る人はひと握りです。よい方法を知っていても、結局はやるか・やらないか。それに、表に立つ人間がお客さまを引っ張ってこれなくてどうするんだとも思うんです。いざ何かを企画しても、それを告知できなければ意味がない。だから顧客リストは宝物です。結果が出るまで3年かかりましたけれど、それを待ってもらえる環境だったことも大きいですね」

【仕事のマストアイテム】ボールペン、ノートパソコン

使い込まれたボールペンは、星野リゾート時代に星野社長から直接手渡されたもの。初心を忘れぬよう現在も愛用中。ノートパソコンは北平さんにとって相棒のような存在。5000を超える顧客リストの管理をはじめ、配信用メールの作成やシフト表の作成など、日々幅広く使用している。

Takashi Kitahira

新潟県出身。大学卒業後、株式会
社星野リゾート入社。「ホテルブレストンコート」の立ち上げなどに携わる。ワインを学ぶためフランスへ渡り、2年後帰国。ワイナリーでのワイン造りを経験し、2009年「ビストロ ブノワ」入社。

ビストロ ブノワ
bistro BENOIT

東京都渋谷区神宮前 5-51-8
ラ・ポルト青山10F
☎03-6419-4181
●11:30~16:00(14:15LO)
17:30~23:00(21:15LO)
●無休(年末年始を除く)
●コース 昼3800円~、夜6100円~
●70席
www.benoit-tokyo.com

田中英代=取材、文 内海明啓=撮影

本記事は雑誌料理王国276号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は276号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする