都心レストランのこれからを考える:銀座「トワヴィサージュ」の心に残る優しい世界観。提案するのは新しい贅沢の形。


都心で自分のレストランを持つこと、有名店のシェフになって活躍することは、料理に携わる人にとって今も大きな夢や目標のひとつ。それが近ごろ、あえて地方に移り住み、小さくて強固なコミュニティを構築しながらローカルガストロノミーを追究する料理人が続々と増えています。

そういった潮流の中ではいやがおうにも、都心でレストランを営む意義は何かと、日々考えてしまいます。そのヒントを探るべく、銀座7丁目にあるフランス料理「トワヴィサージュ」での体験を振り返ってみたいと思います。

トワヴィサージュの佇まい。ドアを開けるとナチュラルな雰囲気の店内。

まず「TROIS VISAGES(トワヴィサージュ)」という店名は、フランス語で「3つの顔」を意味しています。ゲスト、スタッフ、生産者――。この三者の関係性を大切にしながら今のフレンチの形を模索する、という意図が込められているといいます。店内は淡いグレーの珪藻土を使った塗り壁や屋久島の地杉、大谷石など日本古来の建築材で構成されていて、ナチュラルでくつろいだ雰囲気。

その日はオープンキッチンを囲むように配されたカウンター席に座りました。席につくと目の前には、蓋つきの器が置かれています。蓋を開けてみると・・・! 中に敷き詰められているのは、可憐な季節の草花。中央には本日のメニューが忍ばせてありました。

目の前に置かれた器の蓋を開けると・・・!
料理ごとに自分でメニューをめくるのが新鮮で楽しい

英単語を覚えるときの暗記カードみたいな仕様で、自分でページをめくります。メニューカードがゲスト参加型、なんだか斬新です。
「一気に全皿見る方もいれば、料理といっしょに一枚ずつめくる方もいらっしゃいますので、ご自由にどうぞ。草花は食べられるものもあるので、気になるものは教えてくださいね」と、柔和な笑顔で説明してくださったのは、シェフの國長亮平さんです。

國長亮平さん

國長さんは、1988年生まれ、山口県出身。福岡調理専門学校を卒業後、東京・神楽坂にあるフランス料理の名店「ル・マンジュ・トゥー」に入店。巨匠・谷 昇さんのもとで約9年間、経験を積みました。

少し前に谷さんから、こんな言葉をかけていただきました。「フランス料理をやるなら現地へぜひ行ってほしい。パリだけでなく、できれば地方にも。沢山の国が集合して出来た国なので、地方によって固有の文化があることを肌で感じてほしい」。

そんな谷さんの薫陶を受けた國長さんも2018年に渡仏。ブルゴーニュ地方「レストラン ル シャルルマーニュ」や、パリ「レストラン パージュ」のキッチンで経験を積みました。帰国が決まった際には、パージュのオーナーシェフ、手島竜司さんが、現在シェフを務める「トワヴィサージュ」を経営する株式会社グローヴディッシュを紹介してくださったそうです。

真摯な姿勢で人々から信頼を得て、道を切り開いてきた國長さん。食材に対してもその態度を変えることはありません。

「店で使う野菜やハーブの大半は、千葉県鴨川市の生産者『苗目ファーム』や埼玉県鴻巣の『須永農園』から送っていただきます。『苗目ファーム』では畑を間借りして、自分たちでも野菜やハーブを育てて、店の料理に使っています。今は月に2 回、畑に通っています。作り手の皆さまの苦労を、身をもって感じますし、季節を肌で感じることで畑作業中にメニューが浮かんだり、料理を創造する場にもなっています」と國長さん。

自ら畑に入ることで、食材の細やかな旬を捉えることもできるので、メニュー内容はほぼ毎月変える。産地から遠い都心に店を持っていても、食材や生産者への理解を深める機会を能動的に作り出し、努力を惜しまないのが國長さんなのです。

土を耕すトワヴィサージュの皆さん
種をまく國長さん
季節の小花を摘む、マネージャ&ソムリエの高木皓平さん。
実をつけはじめたトマト

さて、この日に頂いた料理は、全部で12皿。その中でも特に印象に残った、料理の数々をご紹介していきます!(現在提供しているメニューとは異なります)

若狭ふぐのルーロー

まずは「若狭ふぐのルーロー」。若狭湾で水揚げしたトラフグを、フレンチで最高に美味しく食べるにはどうしたら良いか考えたときに、山口県出身の國長さんが思いついたのが郷土料理のフグ刺し「てっさ」だったそうです。
「てっさのように薄くスライスして、レアなテクスチャーで食べるのが良いかなと。淡白な魚なのでうま味をプラスするために、生ハムで締めました」。

筒型に巻いたフグの中にはチーズとレモンのムースを詰めて、バターミルクと青ネギのソース、ヨモギのパウダーを振りかけてあります。

極みエノキのソーセージ

「極みエノキのソーセージ」の主食材は、お肉ではなくて“エノキ”。海洋深層水で育ったミネラル感の強い高知県産「極みえのき」が85%、それを繋ぐ役割として豚肉を15%ほど使用。噛んでみると、外側はソーセージらしくプリッとした食感ですが、中身はエノキの味や風味、うま味が濃縮されていて驚きました。
「脇役と思われている食材を、料理の力で、主役級に押し上げてあげたい」と國長さん。なんて優しい世界観・・・。エノキも泣いて喜んでいることでしょう! ちなみにソースは、店で出た野菜の端材を2日間煮詰めて、ジュラの赤ワインで仕上げています。

ドーバーソールムニエル
金猪豚のロースト マデラソース

優しい世界観のお料理に心がほぐれていく感覚もありながら、発酵トマトと緑茶を入れたバターソースの「ドーバーソールムニエル」、動物性のうま味が凝縮された力強いマデラソースの「金猪豚のロースト」からは、伝統的なフランス料理への愛情も感じられ、満足感も十分に携えています。

川俣シャモのコンソメ
鍋をかたむけて見せてくれたのはマネージャ&ソムリエの高木皓平さん。料理との相性を考えて組み立てたワインペアリングが見事でした。

コースの終盤、キッチンは芳しいコンソメの香りで満ちていました。デザートの前にサーブされたのは、産卵を終えた川俣軍鶏のひき肉を炊いたコンソメ。フランス料理では通常、コース序盤にスープが出てきますが、このタイミングには理由があると言います。「経産鶏の身は、食べるには硬いのですが、滋味深いスープがとれます。営業が始まるころから煮込んで、2 時間経つと一番香りがたって味わいとのバランスが良い状態になる」と國長さん。ひとしきり料理を食べて、温かいスープをいただくと、ホッとひと息つくような感覚に。日本料理の終盤に出る、ご飯とみそ汁をいただいたときの感覚と似ているように思えて、よいリセットになりました。

日向夏のクレームキャラメル

話はデザートへと移ります。「日向夏のクレームキャラメル」では、柑橘のワタ(白い部分)をあえて残したまま日向夏を日向夏をバターでソテー。甘酸っぱさと、ほのかに残るワタの苦味が、クレームキャラメルを軽やかに感じさせます。

また小菓子として出てきたのが、トワヴィサージュ特製「バニラの外郎(ういろう)」。外郎は日本全国にありますが「山口県ではわらび粉を使うので、ツルッとした食感が特徴。フランスのパートドフリュイを思わせる食感に共通項を見出して、店で出すことにしました」と國長さん。外郎に入れたマダガスカル産バニラは、粒だけでなく鞘まで粉にして、ロスを出さずに使い切っています。味変ができるシロップやアーモンドパウダーにも、バニラがふんだんに入っているのが嬉しいところ。

小菓子。左端がバニラの外郎。

実はこの外郎、デザートだけでなくテイクアウトでも販売中です。味変用のシロップやアーモンドパウダー、フレーバーティーもついて1セットボックス3,300円。予約は受け取り希望日の2日前に電話で受け付けているのでぜひお試しください(詳細は公式HPをチェック)。

テイクアウトの外郎

國長さんのように、店が都心にありながらも積極的に農との接点を作ることで、食材の旬の細やかな表現を叶えることができます。また食材への深い関心や理解が、脇役と思われがちな食材を主役に据えてみたり、郷土の料理や菓子から着想を得たりなど、独自のプレゼンテーションを強固しています。

トワヴィサージュが提案するのは、キャビアやトリュフなど高級な食材をふんだんに使った華やかさとは異なり、親しみやすく心が和むような新しい「贅沢」の形。これからの都心レストランに求められることの1つなのかもしれません。

■トワヴィサージュ
東京都中央区銀座7-16-21 雲ビル1階
TEL 03-3544-5205
Lunch土のみ 12:00~15:00(13:00LO)
Dinner火~土 18:00~22:00(20:00LO)
※外郎のテイクアウト 火〜金 11:00~15:00
日・月・祝祭日休み
https://troisvisages.jp/
Instagram @trois.visages

text・photo:ナナコ(料理王国編集部)

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