日本フレンチ界の巨匠、三國清三シェフとコラボ。ホテルニューオータニが開業60周年に向けて掲げる「新江戸洋食」とは?


待ち遠しかった春がようやくやってきた。
3月13日から日本政府は「マスク着用は個人の判断に委ねる」と発表。マスクを外して、旅行や外食を楽しめる日常が戻りつつある。
ぽかぽか陽気の中、素顔のままでレストランへと向かう道中は、足取りがより一層はずむ。

毎年この季節には、ホテルニュオータニ(東京)が有する日本庭園の桜が咲き誇る。この庭園は約1万坪と広大で、加藤清正公の下屋敷や井伊家の庭園として400年余りの歴史を持つ。
写真提供:ホテルニューオータニ

3月27日、東京・紀尾井町にあるホテルニューオータニを訪れた。
釣堀を構える弁慶濠にかかる橋から、ホテルを見上げると、日本庭園には満開の桜が。
すれ違う外国人観光客もみんな桜に夢中で、スマホのシャッターを切っていた。

この日の目的は、ホテルニューオータニが取り組む「新江戸洋食」を体験すること。
日本のホテルの中でも「御三家」のひとつと言われるホテルニューオータニは、来年2024年9月、開業60周年を迎える。この大切な節目に向けて、メインダイニング「ベッラ・ヴィスタ」を昨年1月にリニューアルオープン。そして新たに掲げたテーマが「新江戸洋食」だ。

株式会社ニュー・オータニ執行役員の高山剛和さんは、新江戸洋食にかける思いをこう話す。

「和食がユネスコの無形文化遺産に登録されて10年。和食とは日本で独自に発展を遂げた食文化のことで、料亭の日本料理から家庭料理まで、幅広く含まれる。明治の文明開花をきかっけに、西欧料理を日本的視点でアレンジした洋食も、和食のひとつと言えます。世界に誇れる洋食をさらに美味しく、今の時代に合うように進化させたのが新江戸洋食です」(高山さん)

今春の期間限定メニューを監修したのは、日本フレンチ界の巨匠、三國清三さん。ランチ会ではホテルニューオータニの総料理長・中島眞介さんと、コラボレーションの経緯を語ってくださった。

「新江戸洋食」を提供するのは、1974年に完成したガーデンタワーの最上階にある、メインダイニング「ベッラ・ヴィスタ」。店内からは新宿のビル群や迎賓館、赤坂御所、スカイツリー、晴れた日には富士山が見えることもある。同店は4月1日~5月7日、日本フレンチ界の巨匠・三國清三さんとコラボレーションしたメニューを提供する。

三國さんは20歳でスイス・ジュネーブへ渡り、日本大使館の料理長に着任した。退任後は「ジラルデ」「トロワグロ」「アラン・シャペル」など、ヨーロッパの数々の名店で修業を積んだ。8年間のヨーロッパ修業を終えて、1982年に帰国、3年後に「オテル・ドゥ・ミクニ」をオープン。三國さんは「日本人が日本でフランス料理を作り続ける意味」を問い、行き着いたのが、フランス料理に日本の食材や文化をとり入れ進化させた「ジャポニゼ」だった。

思えば「洋食」というジャンルも、西洋料理に日本的感覚を反映させ、発展してきた。その洋食に、今の時代に合った感覚をとり入れ、さらに美味しく進化させようというのがホテルニューオータニの「新江戸洋食」。ジャポニゼを掲げ、日本人だからこそ作れるフレンチを体現している三國さんとのコラボレーションは、必然だったのかもしれない。

それでは、試食したメニュー4品をご紹介していこう。
(コラボメニューはこの4品の他にもある)

01:前菜6種盛り合わせ(左上から、コハダのポテトサラダ、半兵衛麩田楽、蛤アーリオオーリオ、東京軍鶏のパテドカンパーニュ、真蛸のエスカベッシュ、東京野菜のマリネ)

東京の食材や伝統調理技法が詰め込まれた前菜の盛り合わせ。特にポテトサラダの上に乗った、江戸前鮨から着想を得た酢じめのコハダは、仕入れた魚をさばくところから手がける。「銀座で135年続く鮨屋のご主人がこのコハダを食べて、丁寧に仕事をしていると認めてくださったのは嬉しかったです」と中島総料理長。

02:仔羊のハンバーグ ステーキ

フランスでは高級食材の仔羊をハンバーグに。付け合せには、グリルしてこんがりと焼き色がついたパイナップル、スパイシーなビーフン(シンガポールヌードル)を。仕上げに、はちみつや白バルサミコ酢を使った甘酸っぱい黒蜜ソースを流した。全てを一口で食べてみると、少しだけ野性味を携えた仔羊、甘味、酸味、スパイスなど多様な味わいが混ざり合っておもしろい。鮮やかな黄色と緑色の配色が、春の訪れを感じさせる。

03:フォアグラオムライス

目の前にサーブされた瞬間、「真っ白なオムライス!? フォアグラのソテーも乗っている!」とテンションが上がる。卵は無農薬玄米を食べて育った鶏が産む、黄身が白い「玄米卵」を使用。ライスには山菜やタケノコを入れて軽やかな食感に仕上げたが、バターがしっかりきいているので、食後の満足感は十分。

04:新江戸いちごパフェ

パフェの一番下に仕込んであるのは餡子。この餡子は、東京・四ツ谷の老舗「たいやき わかば」から分けてもらったもの。塩味が強く、クリームやアイスとは相性がぴったり。

洋食に東京ならではの食材や調理技法をとりいれてみたり、スパイシーなアジアンテイストでアレンジしたり、食感や香りを工夫したり・・・。この日いただいた新江戸洋食は、洋食の伸びしろや新たな可能性を感じさせてくれるものだった。

開館当初から「食」に重点を置いてきたホテルニューオータニ。ピエール・エルメ氏が1998年、初めてブティックを出したのは、実はパリではなく、東京のこのホテルだったことは有名なエピソードである。さらにパリの名店「トゥールジャルダン」が唯一、1984年に支店を出したのもここホテルニューオータニだ。90年代から始めたフェアでは、マルケージやデュカスなど海外スターシェフを招き、話題を集めた。現在までに第14回目を迎えた「海外で活躍する日本人シェフフェア」では、普段日本にいては体験できない料理が味わえると大人気だ。

今後もホテルニューオータニが届けてくれる、新しい食体験にぜひ注目したい。

新江戸洋食シェフコラボレーション第1弾:三國清三シェフ
期間:4/1(土)~5/7(日)
休み:月火
時間:12:00~14:00LO , 17:30~20:00LO
場所:ベッラ・ヴィスタ(ホテルニューオータニ ガーデンタワー40階)
TEL:03-3238-0020(予約・問い合わせ/店直通)
※4/30のランチ・ディナーは三國シェフが来店。特別コースメニューのみを提供する。
※コラボ期間中も、オリジナルメニューは常時注文できる

text・photo:ナナコ(料理王国編集部)

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