440年の伝統を革新、トゥールダルジャンと二人のM.O.F.(後編)


1582年創業、パリのトゥールダルジャンといえば、フランス国王アンリ3世、ロシアやプロイセン(現在のドイツ)皇帝などが訪れたこともある、フランス料理の歴史に残る名店だ。日本には、世界唯一の支店として、東京のホテルニューオータニ内に1984年にオープン。ブルボン王朝を象徴する深いブルーのエントランス、貴族の館を思わせるセッティングは、フランス文化の伝統を今に伝える。そして、パリと東京、どちらも「フランス版人間国宝」とも呼ばれるM.O.F.(国家最優秀職人章)を受章したシェフたちが厨房を率いている。
そんなトゥールダルジャンだが、パリの本店は戦後以来の大改装中、2023年3月の再オープンを前に、パリのヤニック・フランクシェフを東京に迎え、ルノー・オージエシェフと共に、トゥールダルジャン史上初という、2人のM.O.F.の手によるコラボレーションイベントが開催された。新しい変革の時代を迎えたトゥールダルジャンの現在地について、後編は、フランクシェフ、オージエシェフに、お話をお伺いする。

今回のイベントの会場となったトゥールダルジャン 東京のメインダイニング

オーナーのテライユ氏よりトゥールダルジャンはパリのエレガンスを体現する場所、と言うお話がありました。それぞれの場所で、エレガンスをどのように表現されているかを教えていただけますか?

フランク)お皿の中に複雑にせず、シンプルにすることで、エレガンスを表現しようとしています。

フランクシェフの「幼鴨のロースト 芳醇な赤ワインソース 黒無花果コンポートと根セロリのコンディマン」
フランクシェフの「幼鴨のロースト 芳醇な赤ワインソース 黒無花果コンポートと根セロリのコンディマン」

—昔のフランス料理の宮廷料理、大きなテーブルに色々なご馳走が並んでいたわけですが、時代が変わってシンプルがフランス料理のエレガンスの条件になっているということでしょうか?

フランク)当時は豊かさの一つの表現であったのでしょうね。最近は、テーブルの上にたくさんのアミューズをたくさん並べたり、メインディッシュの横には、小さな皿を多皿構成にしたりするのも、それと同じ考えだと思います。でも、トゥールダルジャンの考えは違います。シェフに就任した時に、オーナーのアンドレと方向性について話し合い、テーブルの上にたくさんの皿を並べるのではなく、トゥールダルジャンの方向性を守るには、シンプルにしようと決めました。

—オージエシェフはいかがでしょうか?

オージエ)2023年で来日して10年になります。庭園が大好きで、そのデザインにも影響されます。今日お出しした前菜のように、秋をイメージしてガルニチュールを落ち葉のように散らしたのも、日本の庭園のイメージです。日本とフランスの文化の共通点は季節。日本の食材と文化を理解して、四季の表現をシンプルに行いたいと思っています。

秋の日本庭園をイメージしてこの日提供されたオージェシェフの「メダイヨンM.O.F. 鮑とノルマンド風バヴァロア 小蕪のマリネと旬菜のコポー」。
秋の日本庭園をイメージしてこの日提供されたオージェシェフの「メダイヨンM.O.F. 鮑とノルマンド風バヴァロア 小蕪のマリネと旬菜のコポー」。

—季節感を洗練させて表現するのが、オージェシェフのエレガンスということですね。さて、フランクシェフ、今回パリ店を改装されるということで、厨房もだいぶ変わるのでしょうか?

フランク)改装後はキッチンも大きく変わるので、楽しみにしていていただきたいと思います。今までのレシピを改善したり、サービスの際にどのようにお客様の前に運ぶかの動作、料理そのものだけでなく、その見た目や、盛り付けの動きも、全てを確認しています。今までに食前のアミューズは出してなかったですが、改装後はそれをやりたいと思っています。特別感が感じられるアミューズを考えています。
オープンキッチンになるので、盛り付けも変わると思います。レシピはクラッシックだけれど、調理技法も改善して、現代的にアレンジして、シンプルでモダンな表現にしていきたいと考えています。

改装前のパリのトゥールダルジャンの内装
改装前のパリのトゥールダルジャンの内装

—今回の東京滞在で、新しい料理へのアイデアが湧いたりはしましたか?

フランク)昨日はボラーさんに鰻を食べに連れて行ってもらって、始めて熱燗の日本酒を飲んでびっくりしました。当然アンドレ(テライユ氏)と話さないといけないけれども、チャレンジしてみたいものの一つです。

—オージェシェフも色々なことを伝えたのではありませんか?

フランク)例えば、今日のメニューでも、フランスにはないクエやヒオウギガイの使い方を教わりました。フランスはアワビを食べる伝統がないので、柔らかくするために、生の状態で叩いたりしていましたが、オージェシェフは和食の技法を使って大根と一緒に煮ていたのが勉強になりました。

トゥールダルジャン 東京のメインダイニング
トゥールダルジャン 東京のメインダイニング

—パリからみる未来のガストロノミー。これから、どうなると思われますか?

フランク)パリの傾向としては、星付きの店であっても、新しい方向として、カジュアルダウンしたビストロノミーのスタイルを取る店が増えています。でも、トゥールダルジャンは変わらず、最高級の「オート・ガストロノミー」を提供する店でありたいです。リノベーションで新しく生まれ変わらせ、二つ星、三つ星を取っていきたいです。オープンキッチンにはなりますが、やることは今のキッチンと変わらないと思います。それに、ミシュランの結果がどうであれ、厨房を変えたから、という言い訳をしたくないですし、全てはどんな料理を表現できるかにかかっていると考えています。

ゲストに挨拶するオージエシェフ(左)とフランクシェフ(右)
ゲストに挨拶するオージエシェフ(左)とフランクシェフ(右)

—オージエシェフは、これからの自身のお料理をどう考えていらっしゃいますか?

オージエ)厨房では私は常に大声で話していて、大人しくないから私にはオープンキッチンは向いていないかもしれないです(笑)
ヤニックと一緒に働くのは今回はじめてでしたが、お互いに共通点がたくさんあると思いました。伝統を守りながら新しい技法を取り入れ、現代風にアレンジしてゆくところです。お互いの違いと共通点を大切に、東京とパリから、トゥールダルジャンの料理を作っていきたいですね。

440年前の創業以来の場所に佇む、パリのトゥールダルジャン
440年前の創業以来の場所に佇む、パリのトゥールダルジャン

text:仲山 今日子

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