腹の底からおいしいと言えますか?「旅する料理人」三上奈緒氏が追求する食(前編) イベントは毎回が発見


旅する料理人、三上奈緒さん。全国各地で行う調理イベントなどを通し、現代社会では見えにくくなっている「おいしさの根源」を人々に提供し続けている。そんな三上さんに、ご自身の取り組みや考えをインタビューし、全3回で紹介。初回の今回は、三上さんの活動の内容と目的について話していただいた。

三上奈緒 みかみ なお
東京農業大学卒。「顔の見える食卓作り」をテーマに、食を通じて全国各地の風土や生産者の魅力を繋ぐ。食卓から未来を想像する学び場 Around the fireや、縄文から原点を学ぶ、縄文倶楽部を主宰。Edible schoolyard japanのchef teacherをはじめ、子どもたちの食教育も行う。 海に山に川に、料理のフィールドはどこへでも。石を組み、木でアーチを組み、焚き火で料理する、プリミティブな野外キッチンを作り上げる。
※表紙写真は神戸にてEAT LOCAL KOBEと

産地に集まり、土地の素材を調理し食す。想像以上の喜びがそこにある

――三上さんは今、どのような活動をなさっているのでしょう? 

わかりにくいかもしれません。今もよく「何してるの?」「どうやって生きているの?」って聞かれます(笑)。

活動としては、食のイベントや食事会がまずあります。冒頭の写真にあるような焚き火を使ったもの、使わないもの、屋内、屋外などいろいろです。基本的に産地に出向き、その土地でとれる野菜、野草、魚介類、ジビエを使った料理を作ります。

参加者は大人から子どもまで、職業もさまざまです。ケースバイケースですが、畑に案内して農家の方々のお話をお聞きしたり、一緒に料理を作ったり。そして最後、「同じ釜の飯を分かち合う」ことの楽しさ、大切さを体験していただけるよう心がけています。

行く場所は、私が信頼している生産者の方々、食べてもらいたい旬の自然の食材がある土地。自然栽培やオーガニックに取り組んでいる農家の方々のもとを訪ねることが多いです。そのほか、山菜やジビエなど、野生の食べものを目的に行くことも。ちなみに、人間が元来食べていた食材を中心に使いたい思いがあり、肉は野生のもの、つまりジビエを中心に用いています。

――いつ頃から、こうしたイベントをはじめたのでしょう?

2017年頃からです。初回のイベントは、愛媛の会社の方から声をかけていただいて行いました。かつて私がカリフォルニアの「シェ・パニース」で研修していた時に食事に来られていて、出会った方です。

このイベントは、現地の志のある農家さんたちが作った食材でコース料理を作り、生産者も交えて食卓を囲むというもの。ファーム・トゥ・テーブルを実践するイベントでした。

その後もいろいろな地域へと縁から縁がつながり、同様の依頼を受けたり、自ら企画したり、回数を重ねて今に至ります。

――食のイベントを続けてきた中で、節目となった出来事はありますか?

毎回発見があり、節目なのですが、あえて一つ挙げるとしたら長野でのイベントです。活動開始から1年経つか経たないかという時期のことでした。

このイベントは古民家が会場。鹿肉を焼くためにオーブンの有無を確認したところ、「ない」と。だったら運び入れなきゃ……と考えていたら、「薪で調理できますよ」と提案いただきました。それで、「そうか、火を焚けばいいのか!」と気づき、ぶっつけで薪で焼いてみたのです。

私はインドア派でそれまでバーベキューすらやったことがなかったのですが(笑)、オーブンがなくても全く問題なくおいしく焼き上がりました。しかも楽しい。これをきっかけに、「あれもこれも用意する」から「あるものでなんとかする」という考えに変わったのです。

その後、焚き火も肉を焼く技術もブラッシュアップ。今では鹿や猪を一頭を丸焼きするまでになりました(笑)。料理のスケールも大きくなり、石を運び、流木でアーチを組むなど、ファイヤーピット作りからはじまります。

高知 刈谷農園にて

――ほかには、どのような活動をなさっていますか。

ワークショップやレクチャーなど、食を通した教育にも力を入れています。小学校での食育授業もやりますし、先日は東京学芸大学の教員になるゼミ生30人に向けて授業しました。「教育ってなんだ」という課題を、食の切り口から、ワークショップを交えて話し合ってきたところです。

――教員の卵に向けた食の授業、ですか。

はい。たとえば「子どもが人参が嫌いと言ったら、あなたはどうする?」と投げかけます。「食べなさい!」と叱るか、「ちょっと待って。このにんじんって本当においしいのかな?」という思考に持っていけるか。そこがまず分かれ目です。目の前のことにとらわれず、ちょっと奥を想像するのです。

実は私の食のイベントでは、「うちの子はいつも野菜を食べないのですが、今日はもりもり食べたんです」と、本当によく言われるんです。それはなぜでしょう? きっと、スーパーで普通に売っている野菜と、自然栽培やオーガニックの野菜の違いかもしれません。

経験を重ねた大人は頭でものを食べるけれども、子どもは動物的な本能で食べる感覚が残っていると言います。たとえば「苦み」は自然界では毒のシグナルなので、子どもは本能的に拒絶します。

であるなら子どもが、「オーガニックの野菜なら大丈夫でスーパーのものはだめ」という場合、そこにどんな理由が考えられるか。スーパーの野菜から、口に入れるのを避けたい何かをキャッチしているのか……。

もちろん、一緒に作ったから愛着が湧いて食べた、とか、ただ食べ慣れていない、ということもあるかもしれません。「食べない」という行動ひとつとっても、背景には色々な可能性があるということです。

これはほんの一例ですが、大切なのは観察であり想像力。ただ目の前の事象にとらわれるのではなく、一歩先を想像する。なぜそうなったのだろう?なんで?なんで?と常に考えることがとても大切だと思うのです。

今、圧倒的にそこが欠けていると思うのです。食だけでなく、何事においても。

中編では、三上さんが今の活動をはじめるまでの歩みを聞きます。

NAO MIKAMI 旅する料理人
https://www.naomikami.com

SPBS THE SCHOOL「おいしいってなんだ?」
三上奈緒さんナビゲートによる全6回(7月〜11月)の長期講座「おいしいってなんだ?」が開催されます。農園でのフィールドワークや哲学対話を通して、食の在り方を見つめ直す学び場です。
詳細は以下、公式サイトをご参照ください。
https://www.shibuyabooks.co.jp/event/9740/
※定員になり次第、受付終了となります

全6回(初回7月12日〜第6回11月25日)
第1回「おいしいってなんだ?」 三上奈緒さん[旅する料理人]
第2回「食と日本の現在地」 保田茂さん[農学者]
第3回「食と世界の現在地」 岡根谷実里さん[世界の台所探検家]
第4回「食と平等」 仲野晶子さん、仲野翔さん[SHO farm/農家]
第5回「おいしいの中身」 鴨志田純さん[鴨志田農園/コンポストアドバイザー/農家]
第6回「ごちそうさまのその先」 四井真治さん[パーマカルチャーデザイナー]

text:柴田泉 photo:三上奈緒氏提供(イベント)、柴田泉(人物)

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