【新型コロナウイルス特別企画】新型コロナウイルス感染症。その時、日本の飲食店はどう動いた? 「旅する料理人」三上奈緒さんの場合


本記事は、5月7日(木)発売の料理王国6・7月合併号緊急特集「コロナ時代の食の世界で新しい「ものさし」を探しに。」に掲載中の記事から、現在の状況を鑑みて特別に公開するものです。

□マーケットを作る

生産者を支援
身近なコミュニティに目を向ける

本各地の農家や漁師、蔵元などの生産者を訪ね、出合った食材を使って地元でポップアップレストランを開く三上奈緒さん。今年で活動を始めて3年目を迎えた。 「旅する料理人」は今、旅に出かけることができない。しかし、持ち前の行動力と、これまで築いてきた全国の生産者とのつながりを生かして様々なプロジェクトを敢行している。

 3月に入り、複数の生産者から、レストランにおろすはずだった食材が行き場を無くして困っていると聞いた。友人らと力を合わせて余った野菜を購入すれば生産者を助けられるが、複数から個人で購入すると送料がかさむ。そこで「#SHARINGISCARING」を考えついた。生産者の抱える余った野菜を三上さんが買い取り、都内に住む友人らへ自分の車で食材をデリバリーするのだ。初回は4月13日、千葉県・木更津市にある「KURKKU FIELDS」の猪肉のミンチや、同市内の農場「耕す」の平飼い卵など、食材9種の詰め合わせを23セット用意。SNS上で購入者を募るとすぐ売り切れた。「料理人だからこそ持っている生産者さんの知識を、消費者に還元したいと思ったんです。生産者と消費者が直接つながれば、たとえスーパーが休業してしまっても不安に思うことはないし、新鮮でおいしい食材を信頼できる人から買うことができますよね。生産者側も、都市一辺倒の物流に頼り切らず地元や個人のファンも大切にしてきた方々はコロナ禍でも動じていない気がします。今こそ、消費者も生産者も顔の見える関係を見直すべきときではないでしょうか」 

「#SHARINGISCARING」初回で販売した食材は、千葉の生産者のほか、長野の「大島農園」、愛媛の「citron et citron」から9種。ちょっとした自給を応援するため、オプションで野菜の種や土をつけ、食材の調理法や栄養のアドバイスを書いた手紙も忍ばせた。

食を愛する同世代の友人らといっしょに企画した、オンライン上で地方の生産者のもとをツアーする「おこもりツーリズム!」も実施した。初回は4月12日の夜、三上さんと親交がある鹿児島県・霧島市の中村酒造場6代目杜氏である中村慎弥さんと中継をつないだ。オンライン上に集った参加者は、あらかじめ同酒造場の本格焼酎「玉露 甕仙人ブルーボトル」を手元に用意して、中村さんの解説を楽しんだ。焼酎で乾杯したり、ディスカッションをしたり、料理との合わせ方を学んだり、オンライン上であることを忘れるほど濃密な時間を過ごしたという。「遠くにいても気軽に手早くつながれるのがオンラインの良さ。参加者の中には海外在住者や焼酎初心者もいて、交わることで良い化学反応が生まれました」

他にも、休校中の子供たちに向けた食にまつわるオンラインコンテンツや、暮らしの中でのちょっとした自給自足を推進するプロジェクト「#GROWOURGREEN」(仮)も近々リリースする。「皆さんに、身近で小さなコミュニティの大切さや、食のカタチを見つめ直す機会を提供したいんです」

zoomを利用した「おこもりツーリズム!」初回の様子。中村酒造場6代目杜氏の中村慎弥さん(最終列右端)が、酒蔵の様子をスマホを使って中継し、麹部屋や仕込みの様子などを見学した。

みかみ・なお
1987年生まれ。東京農業大学卒。栄養士として小学校で勤務後、渡仏して料理の道へ。フランスの星付きレストランや、カルフォルニア「シェ・パニース」で修行した。現在は日本各地の生産者を訪ね、ポップアップレストランを開き、「旅する料理人」の愛称で親しまれる。

三上さんの活動についての最新情報はWEBサイトやfacebookにて。5月の「おこもりツーリズム!」は、富山県・魚津市の宮本みそ店、和歌山県・那智勝浦町の片原魚店、愛媛県宇和島市の奥谷農園を予定。
https://www.naomikami.com/


text 笹木菜々子

本記事は料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年6・7月号当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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