【新型コロナウイルス特別企画】新型コロナウイルス感染症。その時、日本の飲食店はどう動いた? 「そ/s/kawahigashi」中東篤志さんの場合


本記事は、5月7日(木)発売の料理王国6・7月合併号緊急特集「コロナ時代の食の世界で新しい「ものさし」を探しに。」に掲載中の記事から、現在の状況を鑑みて特別に公開するものです。

□提供方法を変える(テイクアウト/EC/デリバリー)

京都の小さなコミュニティで完結し
地域の人に喜んでもらえるサービスから始める

日本の食文化の素晴らしさを広めるカリナリーディレクターとして、世界中を飛び回る中東篤志さん。欧米で感染拡大防止の厳戒態勢が敷かれるなか、ポーランドが国境封鎖する前日に帰国。張り詰めた空気の海外とは違い、京都のカリナリーハブ「そ/s/kawahigashi」に戻ると、いつもと変わらぬ穏やかな空気が流れていた。しかし、3月末になると突然、客足がパタリと止まる。4月6日から営業時間を大幅にスライドし、朝から土鍋で炊いた「おむすび」のテイクアウトを開始した。「近隣の病院で働く医療従事者の方々は他者との接触を厳しく制限され、やがて京都の人たちの間でも外食は悪だという風潮になってきました。テイクアウトを始めたのは、またいつものように、うちのおむすびを食べて喜んでくれる人たちの顔が見たいという、純粋な気持ちからでした」。

「そ/s/kawahigashi」は、中東さんが代表を務めるOne Rice One Soupの直営1号店。お茶のテイクアウト販売「Tea to Go by そ /s/kawahigashi」も行っていて、産地や発酵の違いで茶葉を選ぶことができる。紙100%のコップに入れて販売。

テイクアウトを始めると、出勤前の新規客がひとりふたりと増え、「おいしかった」と新たなリピーターがつき、「今までと違った景色が見えた」と中東さんは言う。リクエストに応じて一品料理をメニューに加え、コロナ禍以前から始めたお茶のテイクアウトも好評。非常事態にも関わらず、プラスチック容器を排除した販売方法も共感を集めた。

「自分たちの店を、もうひとつ作っている感覚ですね。コロナが終息したら2業態やれると、プラスに捉えています。やはり飲食店が休業すると心の支えを失って疲弊してしまう人も多いと思うんです。テレワークに関係なく働く医療従事者の方々に対しても、僕たちは何が出来るだろうかと考えました」

現在は10時~18時までの営業で、「五色おむすび弁当(800円)」、「おばんざいの詰合せ(1,800円)」などのテイクアウトメニューを販売している。

中東さんは常に地域を見つめている。医療従事者のなかには、料亭の味やサービスを活力に生きてきた人も大勢いる。そして、その老舗料亭もダメージを受けている今、京都という小さなコミュニティだからこそ実現できる未来を、カリナリーディレクターらしい取り組みで築き上げようとしている。

「京都は特殊な街なので、料亭の大将を巻き込むのはほんまに大変。でも、そうも言ってられへんという今の空気を活かして、料亭のスペシャリテをテイクアウトできるサービスを考えています。あとは、地場生産者や他の料理屋も巻き込んで、和食のミールキットの販売もやりたいと思っています。大企業が仕掛けるそれとは違って、地域のコミュニティで完結して地域の人に喜んでもらえるサービスです。しのぎではなく、コロナ終息後も継続できることをやっていきたいですね。今はそれをやる時間があるし人もいる。僕が見据えているのは、和食を簡素化した表現で、世界で和食を作ることが出来るサービスの構築です。このサービスの必要性を、コロナ禍を受けてさらに強く感じています」

なかひがし・あつし
One Rice One Soup株式会社 代表取締役。
1986年生まれ。12歳の頃から、父である「草喰なかひがし」主人・中東久雄のもとで料理を学ぶ。NYの精進料理店「嘉日」で副料理長とGMを兼務し、2016年にカリナリーディレクターとしてOne Rice One Soup Inc.を米国に設立。現在はNYと京都を拠点に、様々な分野で日本の飲食文化の普及に努めている。
http://www.onericeonesoupproject.com

そ/s/kawahigashi
京都府京都市左京区
丸太町通川端東入ル東丸太町18-5 TEL 075-748-1715
10:00 ~18:00
日休
https://www.culinaryhub-so.com/


text 馬渕信彦

本記事は料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年6・7月号当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする