食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

夫婦で店を営むということ


独立しよう。そう心を決めた瞬間から、悩みは加速度的に増えていく。店の場所は?規模は?料理は?サービスは?器とカトラリーは?とりわけ頭を悩ませるのが、スタッフのこと。人件費は固定費であり、売り上げにかかわらず一定の金額が支出される。できることなら、少しでもコストを抑えたい。そこで、手早く考えうる人件費削減の方法が、夫婦ふたりで店を営むということになる。身内ならば人件費はかからない。実際にはかかるのだが、金銭を必要としないという意味で。かくいう筆者にも夢がある。居酒屋を営み、自分が料理を作って妻(募集中)が接客をする。常連客と一緒にお酒を飲んでカウンターで寝てしまった妻を、起こさずに背負って帰るのである。閑話休題。無論、ひとりで切り盛りするという選択肢もある。だが、料理も作り、ドリンクも用意して、接客もするとなると、全部をカバーするのは難しい。おのずと店舗規模は小さくなる。 席数は限られ、売り上げの上限も下がる。悪循環だ。正直、おすすめしにくい。

物件探しよりも パートナー探しが大切

夫婦ふたりで店を切り盛りするには、いくつかケースが考えられる。3つ例を挙げてみる。
1、夫婦ともに料理人である場合 
2、ひとりが料理を作り、ひとりがサービスする場合 
3、どちらかが飲食業未経験者という場合である。

1のふたりともが料理人である場合には、お互いに切磋琢磨してよりよい料理を作ることができるようになるかもしれない。だが、逆にプロとしてのプライドが邪魔をして、意見が衝突してしまうことも少なくないだろう。
2のケースは、実に理想的なカップルといえる。お互いの職業領域を全うすることで、自然と店が回っていく。異なるジャンルのプロだからこそ、自分では気づかない長所や短所を理解し、指摘し合うことだってできる。
3のケースは、ちょっと難しい。未経験者がプロの料理人であるパートナーを尊敬し、その指示に素直に従うならばよい。とはいえ、未経験者にとっては、飲食店の仕事は体力的にも厳しく、ストレスも多い。実際、不慣れな仕事と疲れから、体調を崩してしまうケースも散見してきた。料理人からすれば、相手の手際の悪い仕事ぶりを見てストレスを溜めることも少なくないはずだ。 

未経験者がプロの料理人であるパートナーを尊敬し、その指示に素直に従うならばよい。とはいえ、未経験者にとっては、飲食店の仕事は体力的にも厳しく、ストレスも多い。実際、不慣れな仕事と疲れから、体調を崩してしまうケースも散見してきた。料理人からすれば、相手の手際の悪い仕事ぶりを見てストレスを溜めることも少なくないはずだ。夫婦であれ、店に立つ以上はお互いに仕事人であることを自覚すること。そして、その関係性を明確にしておくことが大事。夫婦として感情を差し挟み始めると、プライベートの関係までが危うくなってしまう。
もうひとつ課題がある。それは、店でも家でもずっと一緒にいるということだ。 時間をともに過ごす。一般的な会社勤めの夫婦であれば、考えられない。いくら夫婦とはいえ、ストレスフルな状況ではないだろうか。実際、夫婦で店を営むシェフからは、ケンカが絶えないという話もよく聞く。それはいけない。以前、あるパン職人に話を聞いたことがある。夜に夫婦ゲンカをした翌日のパン生地は、発酵や焼成がうまくいかないことが多いという。科学的な根拠はまったくないのだが、夫婦の関係性がパンの仕上がりに表われるとか。不思議だ。その影響は、おのずと店の雰囲気にも醸し出されてくる。夫婦の関係がギスギスしていたら、店内には冷たい空気が流れ出す。逆に、仲がいい夫婦の店は自然とアットホームな雰囲気があふれるというもの。よしあしは別として、それもまた夫婦で店を営む魅力となるだろう。結局、いかに相性のよいパートナーを見つけることができるかが、小規模店での成功を左右する大きな要因になるのだろう。おそらくそれは、物件探しよりも重要であり、なおかつ難しいのかもしれない。

text 大掛達也 illustration 和田海苔子

本記事は雑誌料理王国2011年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年6月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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