ヨーロッパNo.1のPDO製品「グラナ・パダーノPDO」現地取材


ヨーロッパにおいて第1位の生産量を誇るグラナ・パダーノPDOは、世界で最も親しまれているハードチーズのひとつ。約900年前にイタリア北部の修道士たちによって作られた歴史をもつ。今回、その魅力を探るべく現地で生産現場を巡った。
第1回はグラナ・パダーノの製造工程を、次回は現地のレストランを紹介する。

伝統と革新が生み出すグラナ・パダーノPDOの製造現場「ラッテリア・サン・ピエトロ」

「ラッテリア・サン・ピエトロ」では1日230個のチーズを製造。

グラナ・パダーノPDOは、特定地域でのみ生産が許されている。原産地として認められているのは、イタリアのロンバルディア州、ヴェネト州、エミリア・ロマーニャ州、ピエモンテ州、トレンティーノ=アルト・アディジェ州の5地域だ。

ロンバルディア州にあり、製造から販売までを一貫して行う協同組合の施設「ラッテリア・サン・ピエトロ(Latteria San Pietro)」を訪れた。

熱伝導率の高い逆鐘型の銅鍋を使用。1000Lの生乳から2個のチーズが作られる。

同施設では12世紀に修道士が考案した伝統的な製法を厳格に守りつつ、近代化されたチーズ作りが行われている。

PDO規定に則った逆鐘型の銅鍋や、「スピーノ」と呼ばれる大きな泡立て器のような伝統道具を用いるなど、多くの職人が昔ながらの製法でチーズ作りを行う一方、熟成庫でのチーズの反転作業はロボットが担うなど、効率的な機械化も進められていた。

完成したチーズは24時間後にステンレス製の円筒状の型枠に入れられる。そこに商標を刻印した後、塩水に15~30日間ほど漬け込まれる。

また、同施設では日本国内ではあまり見かけない、オーガニックやグラスフェッドの生乳を用いたグラナ・パダーノPDOも製造されている。1日の製造量230個のうち、通常タイプが40%、グラスフェッドが40%、オーガニックが20%を占めるという。特にオーガニックは、牛に与える餌もすべて有機栽培のものに限られるため、3つのタイプのなかで最も価格が高くなるそうだ。

厳密な温度管理のもと、ブナの木の棚で熟成される。

工場の併設ショップでは自社製造のグラナ・パダーノPDOはもちろん、近隣から仕入れた質の良い食材をリーズナブルな価格で販売しており、地元の人々で賑わいを見せていた。

工場併設ショップでは、さまざまな食材が揃う。

熟成期間で表情を変える、奥深い味わい

グラナ・パダーノPDOのテイスティングを楽しんだ。

グラナ・パダーノPDOの熟成期間は最低でも9ヶ月。専門検査員による厳しいチェックをクリアしたものにだけ、品質の証であるダイヤ型の焼き印が押される。

熟成期間によって味わいが変化するため、用途や好みに応じて幅広く使い分けられている。現地では、熟成期間の異なる3種類のテイスティングを体験した。

  • 9〜12ヶ月
    ミルクの優しい甘みと軽やかな味わいが特徴。用途が広く、毎日の料理やテーブルチーズに最適だ。フルーティーな白ワインにもよく合う。
  • 16〜20ヶ月
    ミディアムな熟成により、ザラザラとした「グラナ(粒)」の食感がよりはっきりと感じられる。しっかりとした旨味とともに、ヘーゼルナッツやバターのようなアロマが広がる。料理に用いるほか、ブロック状にカットしてそのまま食べるのもおすすめ。
  • リゼルヴァ(20ヶ月以上)
    長期熟成ならではの、濃厚で力強く豊かな味わいが楽しめる。バターや干し草、ドライフルーツを思わせる芳醇な香りと深い旨味が特徴。小さく砕いてじっくりと味わうのがおすすめで、重厚な赤ワインともよく合う。

チーズ作りを支える現場を見学「スピノーザ農場」

1頭あたりの搾乳量や健康状態は厳格に管理されている。

1kgのグラナ・パダーノPDOを作るために、約15Lもの生乳が使われる。チーズの美味しさを根底から支える現場を知るべく、農場を視察した。

ロンバルディア州の「スピノーザ農場(Società Agricola Fondo Spinosa)」では、現在約850頭の乳牛を飼育し、その生乳の多くをグラナ・パダーノPDO用に出荷している。

厩舎内を自由に歩き回る牛たち。

ここでは牛になるべくストレスを与えない飼育環境を目指し、牛が個体を認識できるとされる100頭を1グループとして、牛舎内を自由に動き回れる「フリーストール牛舎」を採用していた。

また、ソーラーパネルやバイオガス発電の導入により、クリーンエネルギーを活用した循環型酪農を実現。農場内は非常に清潔に保たれている。

搾乳はすべて機械化。牛ごとのミルクの成分が詳細に記録される。

健やかな牛を育む、クリーンな環境づくり。こうした農場の地道な取り組みが、質の高いチーズ作りを支えていた。

グラナ・パダーノPDO誕生の地「キアラヴァッレ修道院」

さまざまなフレスコ画が描かれた堂内。クルミの木で作られた重厚な聖歌隊席も見どころだ。

1135年に創設された「キアラヴァッレ修道院(Chiaravalle Abbey)」は、グラナ・パダーノPDO発祥の地として知られている。

2階には修道士たちの部屋がある。彼らが眠りにつく前に祈りを捧げる「おやすみの聖母」はベルナルディーノ・ルイーニによって描かれた有名なフレスコ画だ。

現在は15名の修道士がシトー派の厳格な規律のもとで暮らしており、農業や酪農、ハーブの栽培など、自給自足の原則に基づいた生活を続けている。

静寂に包まれた修道士たちの食堂。

豊かな水と肥沃な大地に恵まれたこの地域は、古くから農作物が豊富に実り、酪農も盛んであった。長期保存ができずに余った生乳をチーズに加工し、需給をコントロールしたのが、グラナ・パダーノPDOの始まりだ。

修道院の時計台は、レオナルド・ダ・ヴィンチが設計図を遺したことでも知られている。
修道院に隣接する水車小屋。農園ではさまざまな食材が育てられていた。

修道院に隣接する水車小屋は現在ミュージアムとなっており、当時の高度な水利技術やチーズ作りの歴史を伝えている。見学ツアーやワークショップなども開催されており、視察日は現地の子どもたちが社会見学に訪れていた。

建物の裏側には復元された木製の水車がある。2階には製粉機が稼働できる状態で保存されている。

チーズ作りのルーツと美しい歴史的建築を同時に楽しめるこの修道院は、イタリアを訪れた際の観光スポットとしてもぜひおすすめしたい。

次回は、現地で巡ったレストランを通して、グラナ・パダーノPDOの多彩な楽しみ方を紹介する。

Text:Sachiko Minowa photo:Masami Murao

3,000記事以上 会員限定記事が読み放題 無料会員登録

SNSでフォローする