ヨーロッパにおいて第1位の生産量を誇るグラナ・パダーノPDOは、世界で最も親しまれているハードチーズのひとつ。約900年前にイタリア北部の修道士たちによって作られた歴史をもつ。今回、その魅力を探るべく現地で生産現場を巡った。
第1回はグラナ・パダーノの製造工程を、次回は現地のレストランを紹介する。

グラナ・パダーノPDOは、特定地域でのみ生産が許されている。原産地として認められているのは、イタリアのロンバルディア州、ヴェネト州、エミリア・ロマーニャ州、ピエモンテ州、トレンティーノ=アルト・アディジェ州の5地域だ。
ロンバルディア州にあり、製造から販売までを一貫して行う協同組合の施設「ラッテリア・サン・ピエトロ(Latteria San Pietro)」を訪れた。

同施設では12世紀に修道士が考案した伝統的な製法を厳格に守りつつ、近代化されたチーズ作りが行われている。
PDO規定に則った逆鐘型の銅鍋や、「スピーノ」と呼ばれる大きな泡立て器のような伝統道具を用いるなど、多くの職人が昔ながらの製法でチーズ作りを行う一方、熟成庫でのチーズの反転作業はロボットが担うなど、効率的な機械化も進められていた。

また、同施設では日本国内ではあまり見かけない、オーガニックやグラスフェッドの生乳を用いたグラナ・パダーノPDOも製造されている。1日の製造量230個のうち、通常タイプが40%、グラスフェッドが40%、オーガニックが20%を占めるという。特にオーガニックは、牛に与える餌もすべて有機栽培のものに限られるため、3つのタイプのなかで最も価格が高くなるそうだ。

工場の併設ショップでは自社製造のグラナ・パダーノPDOはもちろん、近隣から仕入れた質の良い食材をリーズナブルな価格で販売しており、地元の人々で賑わいを見せていた。


グラナ・パダーノPDOの熟成期間は最低でも9ヶ月。専門検査員による厳しいチェックをクリアしたものにだけ、品質の証であるダイヤ型の焼き印が押される。
熟成期間によって味わいが変化するため、用途や好みに応じて幅広く使い分けられている。現地では、熟成期間の異なる3種類のテイスティングを体験した。

1kgのグラナ・パダーノPDOを作るために、約15Lもの生乳が使われる。チーズの美味しさを根底から支える現場を知るべく、農場を視察した。
ロンバルディア州の「スピノーザ農場(Società Agricola Fondo Spinosa)」では、現在約850頭の乳牛を飼育し、その生乳の多くをグラナ・パダーノPDO用に出荷している。

ここでは牛になるべくストレスを与えない飼育環境を目指し、牛が個体を認識できるとされる100頭を1グループとして、牛舎内を自由に動き回れる「フリーストール牛舎」を採用していた。
また、ソーラーパネルやバイオガス発電の導入により、クリーンエネルギーを活用した循環型酪農を実現。農場内は非常に清潔に保たれている。

健やかな牛を育む、クリーンな環境づくり。こうした農場の地道な取り組みが、質の高いチーズ作りを支えていた。

1135年に創設された「キアラヴァッレ修道院(Chiaravalle Abbey)」は、グラナ・パダーノPDO発祥の地として知られている。

現在は15名の修道士がシトー派の厳格な規律のもとで暮らしており、農業や酪農、ハーブの栽培など、自給自足の原則に基づいた生活を続けている。

豊かな水と肥沃な大地に恵まれたこの地域は、古くから農作物が豊富に実り、酪農も盛んであった。長期保存ができずに余った生乳をチーズに加工し、需給をコントロールしたのが、グラナ・パダーノPDOの始まりだ。


修道院に隣接する水車小屋は現在ミュージアムとなっており、当時の高度な水利技術やチーズ作りの歴史を伝えている。見学ツアーやワークショップなども開催されており、視察日は現地の子どもたちが社会見学に訪れていた。

チーズ作りのルーツと美しい歴史的建築を同時に楽しめるこの修道院は、イタリアを訪れた際の観光スポットとしてもぜひおすすめしたい。
次回は、現地で巡ったレストランを通して、グラナ・パダーノPDOの多彩な楽しみ方を紹介する。
Text:Sachiko Minowa photo:Masami Murao
