そういうなかで、牧村さんの〝料理観〞を一変させる出会いもあった。
「1980年、伊勢丹新宿店の食堂街に『正月屋吉兆』がオープンしたと聞いて、食べに行きました。その料理があまりにも美味しくて、これはとてもかなわないと思い、お店を閉めてしまおうとまで考えました。でも、一方で『これが自分の目指すところだ』とも思ったのです」。
その後の牧村さんの行動はすごかった。築地市場で吉兆の板前を見かけると、後をつけて、入ったお店で何を買ったか聞いて回った。出版された本はすべて買った。もちろん、お店にも何度も足を運んだ。そうしているうちに、「まき村」の料理はどんどん変わっていったという。
今、牧村さんが大切にしているのは、「旬」と「瞬」。「旬」は素材の旬。「瞬」は、瞬間のことだ。調理にはベストな瞬間がある。それを逃さないことも、美味しい料理をつくる秘訣だと牧村さんは考えている。そして牧村さんは言う。
「お客さんの立場にたって料理をつくること。お客さまの喜びこそが自分の幸せ。40年以上料理人を続けてきて、今はそんな心境です」。
人の心をやんわりと掴んでしまう笑顔。つくり手の人柄もまた、食べ手の心を動かす料理に欠かせない〝うま味調味料〞なのだ。
まき村
東京都品川区南大井3-11-5
MAKIMURA BLD1F
TEL 03-3768-6388
18:00~20:00
日・祝日の月休
text: Shoko Yamauchi photo: Narikazu Takagi
本記事は雑誌料理王国318号(2021年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは、現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。